日産スタジアムより横浜国際。味スタより東京スタジアム。募るネーミングライツへの違和感

(写真:FAR EAST PRESS/アフロ)

 まもなくラグビーW杯決勝が行われる横浜国際競技場。日産自動車がネーミングライツ(命名権)を取得した2005年以降、日産スタジアムとして存在してきたが、今回のように突如、横浜国際競技場に戻る瞬間がある。日産スタジアムというネーミングライツの使用が許可されない場合だ。サッカーのクラブW杯の舞台として使用された時がそうだった。

 こちらも原稿を書く際、それに素直に従おうとする。試合のオフィシャル記録にそう記載されているからだが、その都度、同じスタジアムが全く別の名前で呼ばれていることに、釈然としない気持ちに襲われた。

 1990年代にアメリカで始まったとされるこのネーミングライツだが、日本で初めて導入されたのは2003年で、東京スタジアムだった。以降、味の素スタジアム(味スタ)として市民権を得てきたが、今回のラグビーW杯では、日産スタジアム同様、東京スタジアムとして使用された。

 横浜国際競技場と日産スタジアム。味の素スタジアムと東京スタジアム。それぞれに共通するのは、場所が記されているか否かという点だ。日産スタジアム、味の素スタジアムという名前からは場所を特定することができない。この試合はどこで行われているのか。観戦に出かける上で重要な問題になる。それが日産、味スタには存在しない。場所を特定させる力がないのだ。一度も足を運んだことがない人にとって、それはどこだ? という話になる。

 日産、味スタそれぞれの名前が永遠に続くなら、そのうち慣れるのかもしれないが、ネーミングライツは契約なので期限が区切られている。もし契約が更新されず、新たな企業と契約することになれば、スタジアムはまた新たな名前に変身する。

 大分トリニータのホーム「大分スポーツ公園総合競技場」は、「九州石油ドーム(=九石ドーム)」、「大分銀行ドーム(=大銀ドーム)」そして今シーズンから「昭和電工ドーム大分」に変わっている。

 また、ロアッソ熊本のホーム「熊本県民総合運動公園陸上競技場」は、「うまかな・よかなスタジアム(うまスタ)」→「えがお健康スタジアム(えがおスタ)」に、サガン鳥栖のホーム「鳥栖スタジアム」も、「ベストアメニティスタジアム(ベアスタ)」→「駅前不動産スタジアム(駅スタ)」に変身を遂げている。

 ネーミングライツは、スタジアムに限った話ではない。体育館など、いまやスポーツ施設全般に広がりをみせている。日本のスポーツ施設は、クラブ社会が発達している欧州とは異なり、その建設資金や運営が市民の税金で賄われている公共施設だ。そしてその大抵が赤字に苦しんでいる。ネーミングライツはそうした問題の解消に貢献するありがたいシステムであることは間違いない。

 その一方で、スタジアムや体育館は巨大な建造物だ。地図上にも大きく描かれることになる。日常生活において大きな目印の役割を果たす公共性の高い、存在感あふれる建物だと言える。

 試合当日には、遠くから多くの観衆が詰めかける。海外から訪れる場合も少なくない。名前には重要な付加価値が託されている。そこで味の素スタジアムと言われると焦点が定まらず、旅行者は不安に駆られる。名前がコロコロ変われば、新しくできたスタジアムと勘違いしたとしても不思議はない。

 せめて名前の中に場所は加えたい。たとえば、ベストアメニティスタジアムから今季、「駅前不動産スタジアム」に変えた鳥栖スタジアムの場合は、せっかく鳥栖の駅の目の前にあるのだから、「鳥栖駅前不動産スタジアム」にすべきではないか。

 スタジアムの寿命は、国立競技場を例に取れば50~60年だ。海外のスタジアムは、様々な理由から新築ではなく圧倒的に改築が多いのだが、手を加えるタイミングもそれぐらいが平均になる。

 つまり寿命が長い。一度建てたら、ほぼ永遠にその場に存在することになる。

 国立競技場はサッカー界にとって聖地と言われたが、名スタジアムか否かは、そこに宿る精神性の量に比例する。どれほど多くのファンに愛されている場所か。カタルーニャ人の聖地とされるバルセロナの「カンプノウ」は、高い精神性を持つ代表的なスタジアムと言えるが、海外にはこうした地元の人たちの心の拠り所となっているスタジアムが無数に存在する。

 サンティアゴ・ベルナベウ、オールド・トラッフォード、アンフィールド、ベルリン五輪スタジアム、ヨハン・クライフ・アレーナ等々、枚挙にいとまがない。企業名が含まれる命名権付きのスタジアムは少ない。

 何年か毎に企業名が変わるスタジアムに、地元の人はどれほど愛着を抱けるだろうか。高い精神性を抱けるだろうか。ネーミングライツがスタートしてまだ間もないとはいえ、その可能性は低いと言わざるを得ない。

 Jリーグは、欧州のクラブ型社会を理想に掲げてスタートしたハズだ。企業名をクラブ名から外すことにこだわり、地元密着型のクラブが多く誕生することを目指してここまでやってきた。ところが、その本拠地となるスタジアムは、いまや命名権付きのものばかり。相性はよくない。

 J1でそうではないスタジアムを本拠地とするクラブは、18チーム中、札幌(札幌ドーム)、鹿島(カシマサッカースタジアム)、浦和(埼玉スタジアム2002)、川崎(等々力)、磐田(ヤマハサッカースタジアム)のわずか5チームに過ぎない。その足かせになっていると言うべきだろう。欧州とは異なり、多くが自前のスタジアムではない公共施設を借用していることがその大きな理由のひとつだが、せめて地域名入りの、場所が特定できるスタジアムであって欲しい。名前も数年でコロコロ変わらないで欲しい。

 たかがスタジアム、されどスタジアム。将来、聖地になりうるスタジアムであって欲しいものである。

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、2018年ロシア大会で連続10回現地取材となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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