なでしこJの「決定力不足」を疑え。ストレートに「美しい敗戦」というべきではないか

(写真:ロイター/アフロ)

 フランスで開催されている女子W杯。ブラジルで開催されているコパアメリカ。両大会に代表チームを送り出していた日本だが24日と25日の両日(日本時間)、立て続けに大会から姿を消した。

 女子W杯とコパアメリカ。世界最高峰の大会と、招待国として若手主体で臨んだ大会とに、同じ視点を傾けるわけにはいかないが、同時並行で行われていたので、それぞれをつい比較したくなる。

 サッカーには、勝った試合より負けた試合の方が人の記憶に刻まれやすい傾向がある。敗れ方であり散り方、敗退劇である。最後の瞬間をどう迎えたか。勝つときは少々汚くてもいいが、敗れるときには美しくーーとは、ヨハン・クライフから直接聞かされた名言だが、これぞサッカーらしさを集約した言い回しだといえる。

 得点が僅かしか入らないスポーツである。3-2というスコアが活発な内容に見えるほどだ。運が結果に及ぼす割合は3割とされる。あらゆる競技の中で、内容と結果が一致しないケースはサッカーが最多ではないか。

 しかし、不運が敗因の1番手に挙げられることはまずない。運も実力のうち。勝たなければ意味がない。負けは負けと言いたがる人がサッカー界にも世の中同様、多数派を占めるように思う。

 そしてそうしたタイミングで、決まって登場するのが決定力不足だ。世の中は、運のなさなど他の要素が勝っていそうな場合でも、決定力不足に向きがちだ。一般論に照らせば、確かに敗因が不運では身も蓋もない。説得力溢れる論理的な話には聞こえにくいが、本当に敗因は決定力不足だろうか、不運を理由に掲げた方が真実に迫れるのではないか、冷静に見極める必要がある。決定力不足を疑え、である。

 決定力不足と一口に言っても十把一絡げにできない。決定機にも様々なレベルがある。ゴール前でインサイドキックを吹かしてしまうような絶対に決めなければならない「レベル10」と言いたくなるシーンから、数本放って1回決まれば御の字という「レベル1」まで様々な段階がある。単なる惜しいシーン、時にはさほど惜しくないシーンまで、決定機にカウントされることもある。

 試合に敗れると感情が高ぶる。原因を何かに求め、納得し落ち着こうとする。レベル10もレベル1も、あるいは単なる惜しいシーンも、決定力不足という言葉に吸収される。決定力不足は一定のガス抜き効果というか、安息剤のような役目を果たしていると言うべきかもしれない。その結果、陥りやすい症状が思考停止だ。

 検証すべきは決定機のレベルである。レベル5以上の決定機をどれほど外したか。

 コパアメリカに出場した男子の日本代表は、初戦でチリに0-4で大敗した後、2戦目でウルグアイに2-2、3戦目でエクアドルに1-1で引き分けた。ウルグアイ戦の引き分けは、もう一度戦えば、敗れそうな内容だった。決定力不足ではなく逆に、ウルグアイの決定力不足に救われた試合。運に恵まれた引き分け劇だった。

 続くエクアドル戦は互角。どっちが勝ってもおかしくない試合とは、試合後に抱いた感想だ。仲間も観衆も頭を抱えそうなレベル10のシーンはもちろん、レベル7以上の決まっていてもおかしくないシュートを外しまくった結果、引き分けたのではない。

 引き分けは妥当な結果と言えた。日本の決定力がもう一段、高ければ勝っていたかもしれない試合だが、逆に相手の決定力がもう一段、高ければ敗れていたかもしれない試合で、痛み分けという言葉が似合う引き分けだった。

 日本側が、決定力不足を持ち出したくなる気持ち、そう言って自分自身を納得させたくなる気持ちは理解できるが、それではそこで話が終わる。どうしたら決定機、チャンス数を増やせるか、そのレベルを高められるかという方向に話は進展していかない。

 エクアドル戦。日本はどこまで相手を崩していただろうか。チャンスはあった。しかしチャンスのレベルは、シュートがよほど隅に飛ばない限り得点になりそうもない、レベル5以下のものが多数を占めた。

 森保一監督が試合後、どう語ったか定かではないが、一般論として、敗因が必ずしも決定力不足でないにもかかわらず、監督がそれを持ち出した場合は怪しむべき瞬間になる。決定力不足に決着することで得をするのが監督であることを忘れてはならない。

 決定力不足は個人の問題として扱われるのに対し、チャンスの質やそのプロセスはチーム全体の問題だ。責任は監督にある。その方法論や指導法が問われることになる。監督がステレオタイプに決定力不足を語ったなら、追及から免れたがっている可能性あり、保身に走っている可能性ありと疑ってみるべきなのだ。

 決定力不足は、逆にチャンスを多く作ったことを意味する。次への期待が持てそうな惜しい話だ。本来、そう悪い話ではないが、実際に決定力不足を耳にしたとき、そうしたポジティブな気持ちになることは少ない。決定力不足が真実を突いていないことが多いからだ。

 なでしこジャパンの高倉麻子監督も試合後、マイクを向けられると「決定力不足。決めきる力がなかった」と述べた。

 決勝トーナメント1回戦。対オランダ戦で日本は後半、押しに押した。決定機をかなり作った。だが、絶対に決めなければならない決定機はいくつあっただろうか。最大のチャンスは、ゴールに結びついた長谷川唯のシュートシーンになる。レベル7以上の決定機だった。

 その他で一番可能性があったのは、杉田妃和が放った左足のバー直撃弾だろう。しかしこれを決定力不足というのは酷である。右サイドから中央に入り込み、左足シュートに持ち込んだわけだが、その一連の動きは秀逸で、並の選手ならシュートにすら至っていない、ほぼ彼女単独で作り出したチャンスだった。決定力不足に該当しない例と言っていい。

 後半途中から出場した籾木結花が、右足から持ち替えて左足で放ったシュートも、決定力不足は厳しすぎる表現になる。むしろ杉田同様、シュートに持ち込んだプレーを讃えるべきだろう。

 前半、菅澤優衣香が放ったシュートが、そうした意味では決めて欲しかった瞬間になる。決定機のレベルは5前後ながら、そこを仕留めるのがストライカーの仕事になる。とはいえ、それを言うなら前半のオランダにも決定機が再三訪れていた。トータルでもレベルの高い決定機の数で日本を確実に上回っていた。この試合、決定力不足は日本に限った話ではなかったのだ。

 敗因は何か。運がなかった、でいいのではないか。しかも相手の勝ち越しゴールはPKで、エリア内でのハンドだった。もう一度戦えば勝てそうなムードを残しながらの敗戦。東京五輪に期待が持てそうな敗戦。そして、クライフの言うところの美しい敗戦だった気がする。

 試合後、マイクを向けられた高倉監督には、「不運!」の一言を吐くぐらいの気概が欲しかった。選手はその方がよし!と、捲土重来を期すのではないか。監督のカリスマ性はその方が増すに違いないのだ。

 

 

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、2018年ロシア大会で連続10回現地取材となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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