南米選手権に融合チームを送る日本。森保監督が3(5)バック推進派に転じる可能性

横内昭展コーチと森保一監督(右)(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

 代表チームと五輪チームを兼任する森保一監督。しかし五輪チームの監督として采配を振ったのは、監督就任直後にU-21で臨んだアジア大会(インドネシア)のみだ。以降は日程的に代表監督との両立が難しくなり、五輪チーム監督の任務を横内昭展コーチに任せている。

 そのあたりを問われた森保監督は「横内コーチの考え方は私とすべて同じだと思ってください」と言い切った。しかし、サンフレッチェ広島時代からコンビを組んでいる両者とはいえ、お互い人間なので完全に一致するはずがない。むしろ、決定的に違う点が存在している。

 使用する布陣だ。横内コーチ(代行監督)が広島時代と同じ3-4-2-1をいまなお使用するのに対し、森保監督は、アジア大会こそ3-4-2-1を使用したものの、その後のA代表の試合では4-2-3-1を貫いている。

 だが、3-4-2-1と4-2-3-1両布陣は、コンセプトに大きな隔たりがある。サッカー的対立軸の根幹を成すような関係にある。それでも2人は同じ考え方の持ち主であると言うのなら、森保監督にはより高度な説明が求められる。

 横内コーチは6月1日から始まるトゥーロン国際(フランス)でも、代行監督の立場でU-22を率いる。これまでの経緯に従えば、使用する布陣は3-4-2-1になるだろう。

 一方、これとほぼ同じ時期に行われるキリンチャレンジカップには、森保監督率いるA代表は4-2-3-1で行くはずだ。

 そしてトゥーロン国際大会、キリン杯が終了すると、直後にコパアメリカが始まる。日本チームはそこに一応、A代表を送り込む。一応と断りを入れるのは、キリン杯から続けて出場するA代表選手が9人に過ぎないからだ。全23人中残る14人はアンダーカテゴリーの選手。

 こちらはコパアメリカのみの出場となる。トゥーロン国際に出場する23人とは同世代ながら、プライオリティが高いのはコパアメリカに出場する14人だと考えていい。

 体制は森保監督、横内コーチだ。しかし23人の内訳は「9対14」。アンダーカテゴリーの選手が約5分の3を締める。限りなくB代表に近い日本代表は、いったいどちらの布陣で戦おうとしているのか。

「サッカーは布陣でするものではない」。「ひとたび試合が始まってしまえば、布陣などあってないようなもの」。「実際に戦うのはピッチ上の選手だから」等々、つい数年前まで、テレビ解説者でさえそうした言葉を普通に吐いていた日本。布陣はどっちでもそう変わらないものとして軽んじられてきた。選手が臨機応変に変更していいもの、アドリブを思いきり加えていいものと解釈されてきた。

 中には、確かに近しい関係の布陣も存在する。4-4-2と4-2-3-1、4-2-3-1と4-3-3などがそれになるが、3-4-2-1と4-2-3-1のコンセプトは、先述したようにまさに水と油の関係にある。

 横内コーチ(とかつての森保監督)がよく用いる(た)3-4-2-1は、5バックになりやすい3バックだ。後ろで守ること、後ろを固めることに抵抗がないサッカーである。3-4-2-1でも選手の配置次第ではそうなりにくい場合もあるが、日本に浸透している3-4-2-1には、そのあたりのこだわりはみられない。一言でいえば、守備的サッカーだ。

 現在、Jリーグのとりわけ下位チームやJ2で流行している布陣もこれとほぼ同じだ。気になるのは、そのシェア率が世界と比較して圧倒的に高いことにある。世界の流れはプレッシングだ。まもなくCL決勝を戦うリバプールに代表される、高い位置から圧力を掛けようとするサッカーである。

 それは言い換えれば、攻撃的サッカーになるのだが、サッカー競技は、そのプレッシングをバネに競技力を向上させてきた。ボールを保持する選手に、より高い位置から厳しい圧力が掛かれば、選手の技量が上がらない限りボールを奪われる頻度は増す。少なくとも欧州サッカーには、プレッシングが選手の技量アップを後押ししてきた歴史的経緯があるのだ。

 選手が巧くなる理由はプレッシングにあり。プレッシングが進まなければ、競技のレベルは上がらない。Jリーグの問題点はその流れに逆行していることにある。その後ろで守ろうとする守備的精神が、競技力の向上にブレーキを踏んでいる。中には5バックになりやすい3バックを敷きながら、プレッシングを唱える監督もいる。

 この論理的な矛盾を解消するためには、選手にはその分だけ負担が求められる。1試合10キロを平均的な走行距離だとすれば、選手に12キロ走ることを求めない限り、後ろで守ることと高い位置で守ることを両立させることはできない。その矛盾を追求すれば選手は消耗品に成り下がる。1週間に2試合をこなす日程があたりまえになっている現代サッカーの実情にも逆らう。

 かつて森保監督は、広島の監督としてJリーグを3度制している。その実績があったからこそ代表監督の座に就くことができたわけだが、そのスタイルは5バックになりやすい3バックだった。文字通り後ろで守るスタイルだった。前から行くサッカーではなかった。

「これから3バックはどんどん流行ると思いますよ」と、その流れを助長するようなコメントも森保監督は会見の席上で吐いていた。守備的サッカーのバリバリの推進派だったのだ。

 ロシアW杯後、日本代表監督に就任。U-21兼任監督として最初に臨んだアジア大会にも「推進派」の立場で臨んだ。ところが、その後に日本代表監督として初めて采配を振ったコスタリカ戦にはその旗を降ろして臨んだ。いまなお降ろされた状態は続いている。これまで日本代表監督として戦った全13試合で、5バックになりやすい3バックは一度も披露されていない。

 他方、五輪チームを任された横内コーチは、依然として推進派の立場を貫いている。

 なぜそうなるのか。問われた森保監督は「臨機応変」という言葉で質問をかわした。「柔軟な対応」との言い回しを用いたこともある。その口から明快な言葉が出て来たことは一度もない。しかしメインのA代表で、4-2-3-1が定着したこともあり最近、その手の疑念は消えかけようとしていた。

 そこに登場したのがコパアメリカという大会になる。アンダーカテゴリー14人に対しA代表はわずか9人。ベンチは森保監督、横内コーチの体制になるが、チームの中心は14人を擁すアンダーカテゴリーの選手だ。

 A代表とは言い難い事実上のB代表。だがB代表とはいえ、東京五輪をイメージさせる選手構成であることも事実なのだ。

 3-4-2-1なのか4-2-3-1なのか。どっちに転ぶにしてもキチンとした説明が求められている。森保監督のサッカー哲学とは何なのか。そこをハッキリさせず、臨機応変や柔軟な対応という言葉で切り抜けようとするならばチームは強くならない。監督としての求心力は高まらない。コパアメリカを前にしたいま、改めて問いたくなる点である。

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、2018年ロシア大会で連続10回現地取材となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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