千両役者・久保建英を見て想起した、20年前のフィリピン戦で起きた悲劇

(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

 秩父宮ラグビー場で行われたFC東京対鳥栖戦(ルヴァンカップ)。試合が0-0で推移していた後半18分、「一発頼む」と長谷川健太監督に背中を押され交代出場するや、自慢の左足で直接FKを決め、勝利の立役者になった。久保建英選手の話だが、それは風格さえ漂わすまさに千両役者の姿だった。サッカー界はもちろん、プロスポーツ界においてここまで頼りになる17歳も珍しい。

 先日は、アジアU-23選手権予選に臨むU-22日本代表の一員に飛び級で選出。そこでも欠かせない主力となっているが、久保のレベルはもはやU-22をも超えている。A代表でも十分行けそうな、まさに2階級特進が望めそうな選手を、わざわざレベルの落ちるU-22でプレーさせているという印象だ。U-22は東京五輪を戦うチームを意味するが、久保にとってはそこさえも有意義な活動場所ではなくなっている。東京五輪にも出すべきではないと声を大にしたくなる。

 想起するのは、A代表で活躍できるレベルにありながら、わざわざ五輪予選に出場させ、取り返しの付かない大怪我を負わせることになった20年前の悲劇だ。

 1999年のこの時期も20年後の現在と同様、日本(トルシエジャパン)はコパアメリカ(パラグアイ大会)への出場を控えていた。

 19歳の小野伸二は、当初そのメンバーに入っていた。18歳ですでにA代表入りをはたし、日本が初出場した98年フランスW杯にも出場していた。コパアメリカに出場するA代表にも選ばれて当然の立場にあった。ところが、直前になって小野はコパアメリカの遠征メンバーから外れ、同じ時期に行われるシドニー五輪アジア1次予選を戦うU-22チームに加わることになった。

 その前に香港で開催された第1ラウンドの結果は4戦全勝。日本U-22と他国との実力差はすでに明白になっていた。A代表選手である小野が、五輪予選のしかも初期の段階から出場する必然性はなかった。とりわけ、第1戦に13-0で勝利していたフィリピン戦には。

 国立競技場で行われたその第2戦。心配された客足は上々で、39000人もの観衆が集まった。テレビでも生中継された。小野はまさに客寄せパンダのような役を担っていた。結果は11-0。ところが小野は前半31分に負傷退場する。左足靱帯断裂という大怪我に見舞われた。

 小野は01-02シーズン、フェイエノールトに移籍。チャンピオンズリーグに計9試合出場し、UEFAカップ(現ヨーロッパリーグの前身大会)では優勝メンバーにもなっている。欧州で成功した選手のように見えるが、悔やまれるのはフィリピン戦の怪我で、それがなければ不世出の日本人選手になっていたことは間違いない。

 アタッカー的な要素が消え、MF的要素だけが残った。失われたのは馬力であり活気だった。高い位置でプレーする可能性が消滅。文字通り中盤選手になった。スケールダウンしたという感じだった。

 フィリピン選手のタックルは、0-24という2試合の通算スコアに示されるように、低レベルを象徴する野蛮さに満ちた愚行だったが、防止できた怪我でもあった。危険なタックルに及んだ選手以上に責めたくなるのは、小野をその場に立たせた大人たちだ。小野がコパアメリカではなくフィリピン戦を自ら選択したならば、それは自己責任になるが、この場合はそうではない。判断を下したのは当時のサッカー協会だ。日本のサッカー史における汚点。痛恨の極みと言わざるを得ない。

 当時の小野とその20年後に現れた久保。両選手は従来の日本選手の枠を超越した規格外の若手として括られる。タイプも似ている。久保が左利きなのに対し小野は右利きながら、両利きと言いたくなるほど左足のボール操作も巧く、身のこなし方も似ている。

 中盤選手なのか。アタッカーなのか。どちらに転ぶのか、久保が微妙な局面を迎えていることも小野と比べたくなる理由だ。小野も怪我の後こそパッサー的な色が濃くなったが、それ以前は、ドリブルにも目を見張る切れがあった。久保的な要素を備えていた。久保にとって小野は貴重なモデルなのだ。とりわけサッカー協会には、小野の反省を生かす義務がある。

 すでに代表級にある選手を五輪チームで戦わせることは、その本来の目的から外れている。なぜ17歳の久保は、U-20ではなくU-22でプレーするのか。それはU-20のレベルをすでに超えているからだ。自らは卒業し、いまそのレベルにいる選手に席を譲った方が、日本の財産になる。目の前の勝利欲しさにU-20の大会に出場させることはナンセンス。それと同じ理屈は五輪チーム(U-22)の久保にもあてはまる。そのレベルを超えた選手を起用するより、いまそのレベルにいる選手を起用した方が、育成を謳うアンダーカテゴリー強化の主旨に適う。

 U-22かA代表(コパアメリカ)か、との選択肢があるなら、久保は文句なくA代表だ。このまま順調に成長すれば近々、欧州のどこかのクラブでプレーすることになるだろうが、定義の曖昧なA代表の親善試合に無理に招集して、所属チームでのプレー機会を奪うという愚は避けたい。

 サッカーに接触プレーはつきもので、選手はいつ大怪我をしても不思議はない危険な状況に曝されている。技量の向上が望めそうもない、変な場所でプレーさせてはならない。くれぐれも客寄せパンダにはしないこと。東京五輪も例外ではない。それが大人の務めになる。

 久保は近い将来、近場で拝むことが難しくなる選手。ファンにはその覚悟が必要であるし、またそうであって欲しいものである。

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、2018年ロシア大会で連続10回現地取材となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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