10番「トップ下」香川真司に見る、その志向性と適性の不一致

(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

 コロンビア戦。後半20分、鈴木武蔵に代わって香川真司が投入されると実況アナ氏はこう発した。

「トップ下に香川なのか。そのままその(鈴木の)位置(1トップ)に入るのか」

 そして、配置された実際のポジションを確認すると「南野(拓実)が1トップ。香川がトップ下です」と伝え、「香川がどう攻撃を組み立てていくか」と、今後の見どころまで紹介した。

 その見立て通り、それから25分間強、香川は「トップ下」の選手としてゲームを組み立てようとした。

 しかしそこにこそ、香川にまつわる根本的な問題は潜んでいるのだ。トップ下なのに組み立てに走ろうとする。それを普通のことだと感じている。周囲も同様に。サッカー選手として香川が迷走することになった一番の原因だと確信する。

 ここで言うトップ下とは具体的には1トップ下だ。2トップ下ではない。森保ジャパン、西野ジャパン、ハリルジャパン、アギーレジャパン、ザックジャパン、岡田ジャパン(第2次)、ジーコジャパン、トルシエジャパン、岡田ジャパン(第1次)、加茂ジャパン……と続く日本代表の系譜の中で、トップ下が2トップ下ではなく、1トップを意味するようになったのは岡田ジャパン(第2次)の途中からだ。

 

 同じトップ下でも、1トップ下と2トップ下とでは大違い。決定的な差が存在する。1トップ下はそれより上で構える選手が1人しかいないことを、また2トップ下は、それが2人いることを意味する。1人なのか、2人なのか。些細な問題に聞こえるかもしれないが、バランスを語る上で、これはとてつもなく重要な問題になる。

 前方に1人しかいない状況下でプレーするコロンビア戦の香川に「どう攻撃を組み立てていくか」は、芯を外した見どころだといえる。組み立てると言っても、実際に香川の前にいるのは南野のみ。香川も決める側に加わらなければ、フィールドプレーヤー10人の均衡は崩れる。まさに「中盤サッカー」に陥る。決定力不足に拍車が掛かることは自明の理だ。

 香川は「日本代表で10番を背負ってプレーした試合が最も多い選手だ」と中継を担当した例の実況アナ氏は力説していたが、香川はその結果、そのほぼすべての試合において、違和感を発露させながらプレーすることになった。

 10番、さらには司令塔、ゲームメーカー、ファンタジスタも、かつてはトップ下と同義語だった。しかし1トップ下としての10番は、司令塔、ゲームメーカー、ファンタジスタの色が弱まり、時代とともにフォワード色、アタッカー色を強めていく。香川が代表デビューを飾ったのは2008年。岡田ジャパン(第2次)時代だ。まさに日本においてトップ下、10番の定義が変化するタイミングだった。布陣で言えば、3-4-1-2から、4-2-3-1への変わり目になる。

 代表に定着したのはザックジャパン以降(2010年~)になるが、香川はこのシーズンから所属していたドルトムントで、1トップ下の選手としてプレーしていた。1トップ下というより1トップ脇と言いたくなる高いポジションを取っていた。前線でコンビを組んでいた時のセンターフォワードはレバンドフスキー。その周辺で小柄な香川が神出鬼没に動き回る姿は、大柄な選手が多いブンデスリーガで強烈なインパクトを放っていた。高評価に繋がる原因だった。

 1トップ、レバンドフスキーの「脇」で、彼と凸凹関係を築きながらプレーしたこの時こそが香川の最盛期になる。まさにツボにハマった状態にあった。ところが香川はこの状態を好まなかった。中盤的なプレーに強い志向性を示すことは、それ以降、とりわけ日本代表としてプレーする際に顕著になった。香川が日本代表で2010~11シーズン級のパフォーマンスを発揮したことはおそらくない。

 1トップ下なのに2トップ下然とプレーをする。フォワード、アタッカーではなく、中盤選手の気質を全面に押し出しながらプレーする。ところが皮肉にも、中盤選手としては本人が思っているほど魅力的ではない。日本代表だけでなく所属チームのプレーでも、このギャップに気付けぬまま30歳を迎えてしまったという感じだ。

 サイドでのプレーが得意ではない点も、香川という選手の問題を難しくさせている。サイドに適性を感じないというか、楽しそうにプレーしているようには見えないのだ。左サイドで起用されても、時間の経過とともに中央(それも中盤的な場所)に居場所を移すという癖をこれまで再三、露呈させてきた。

 自身が描くストライクゾーンは2トップ下という1点のみ。とても狭い。だが、そこに適性があるようにも見えない。中盤でも高いパフォーマンスを発揮できずにいる。

 日本代表として唯一、例外的なプレーを見せたのはロシアW杯だ。4-2-3-1の3の真ん中。まさに1トップ下に相応しいハマったプレーを香川が見せたことと、日本の好成績(ベスト16)は密接な関係がある。

 今回の代表招集はそのロシアW杯以来だ。10番はその間、中島翔哉に移っていた。香川が復帰する今回、注目は誰が10番をつけるかに集まっていた。中島が8番に回り、10番を香川がつけることで落ち着いたわけだが、そのプレーはロシアW杯で見せた1トップ的な10番ではなかった。採用する4-2-3-1という布陣と一致を見ていなかった。その違和感を本人が自覚している様子もない。つまり、年長選手が備えているべき賢さにも欠けていた。

 思い切ってもう一列下がるという手もある。2トップ下よりさらに低い場所。守備的MFとしてはどうなのか。かつて、マンチェスター・ユナイテッド時代、テストされたことがあると記憶するが、逆に言えば、香川の問題点ほど明確なものはないのだ。トップ下への幻想に支配され、志向性と適性の不一致に気付けぬまま、現役選手を終えることだけは避けて欲しいものである。

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、2018年ロシア大会で連続10回現地取材となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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