「不自然さ」があったフランスの優勝。VARの活用に議論の余地あり

(写真:ロイター/アフロ)

 ロシアW杯決勝。フランスは前半を2-1で折り返したが、流れの中から放ったシュートはゼロ。前半38分、アントワーヌ・グリーズマンが蹴ったPKが唯一のシュートだった。前半18分に挙げた先制ゴールも、FKを蹴ったグリーズマンは、シュートではなくクロスボールのつもりだった。リザルトには、それを頭ですらしたマリオ・マンジュキッチのオウンゴールとして記されている。

 そのFKのシーンも、再生画像に目をこらせば、ファウルを犯したとされるマルチェロ・ブロゾビッチはグリーズマンを倒していない。グリーズマンが自分で躓いたようにしか見えない。

 PKのシーンの再生画像は、イヴァン・ペリシッチの手にボールが当たっていることを証明していた。だがこちらの一件は、アルゼンチン人のネストル・ピタナ主審による最初の判定はコーナーキックだった。フランスの選手が抗議し、VARシステムが働いたことで、判定がコーナーから一転、PKに変更されたのだ。

 前半にフランスがマークした2ゴールは、率直に言ってラッキー以外の何ものでもなかった。VARが採用されるのは、ペナルティエリア内に限られるのか。この大会、ここまでにも何度か問題を露呈したこのシステムだが、決勝という大舞台でも再度、物議を醸すことになった。

 シュートはPKの1本。流れの中からはシュートゼロのチームが2-1でリードする展開は、どう見ても不自然と言わざるを得ない。

 ボール支配率は39対61。フランスはゲームをクロアチアにコントロールされた。

 戦前の下馬評で上回ったのはフランスだ。クロアチアが中3日なのに対して、フランスは中4日。クロアチアは決勝トーナメントの3試合をすべて120分戦っているので、すべて90分で決着をつけてきたフランスは、消耗度という点でも丸々1試合分、勝っていた。

 そもそもフランスは、大会前からドイツ、ブラジル、スペインとともに優勝候補に挙げられていた。そしてグループリーグでドイツが、決勝トーナメント1回戦でスペインが、さらに準々決勝でブラジルが消えると、その段階で、優勝候補の大本命に祭り上げられることになった。

 そのチームが前半、流れの中からシュートが打てなかった。ボール支配率でもクロアチアに大きく上回られた。クロアチアにいいサッカーをされていた。フランスが苦戦を強いられていたというよりも、フランスは単純にクロアチアに劣っていたと言ったほうが正しい。2-1というスコアは、VARの矛盾が生んだ産物であり、両チームの実力をストレートに反映したものとは言えなかった。

 フランスといえば、かつてはパスワークのチームだった。80年代、ミシェル・プラティニ、ジャン・ティガナ、アラン・ジレス、ルイス・フェルナンデスといった中盤選手を中心に展開した美しいサッカーは、とりわけ日本のファンに訴求した。そうした魅力が、ディディエ・デシャン率いるこの2018年型のフランスには一切ない。

 少なくとも中盤は、イヴァン・ラキティッチ、ルカ・モドリッチ、ブロゾビッチの3人で構成されるクロアチアに大きく劣った。なにより展開力に欠けた。リュカ・エルナンデス(左)、バンジャマン・パヴァール(右)の両サイドバックはほぼ専守防衛に徹し、グリーズマン、オリヴィエ・ジルー、キリアン・ムバッペの3トップは、コンビネーションより個人プレーを優先した。

 グリーズマンの技巧、ムバッペのスピード、ジルーの高さを中盤選手が操るのではなく、ほぼ出たとこ勝負。個人能力に任せているので、クロアチアに攻め込まれる時間が長くなると、面白みに欠ける単純なカウンターサッカーに見えてしまう。

 ところが、1-2の時間が長く続き、クロアチアが前がかりになると、カウンターサッカーは有効になる。

 後半14分、ポール・ポグバがボレーで右サイドに大きく振ると、ムバッペが疾走。ゴールライン際から折り返すと、グリーズマンがボールをコントロールして、展開の起点となったポグバに、シュートをお膳立てするようなパスを戻す。ポグバのシュートはいったん、DFに跳ね返されたが、そのこぼれ球を再度シュート。クロアチアゴールを揺るがした。「勝負あり」を意味するゴールだった。それが流れの中から久しぶりに奪ったゴールであったことも含めて、いろいろな意味でダメ押しに値した。

 後半2分、クロアチアはアンテ・レビッチが左足で惜しいシュートを放っていた。GKウーゴ・ロリスの左指先のセーブでボールは枠外へ弾かれたが、これが決まっていたら、試合はどうなっていたかわからない。振り返れば、これは値千金のビッグセーブだった。

 フランスは後半20分、クロアチアがさらに前がかりになるところを、左サイドバックのエルナンデスが高い位置に進出。その折り返しをムバッペが決め4-1とすれば、クロアチアもその4分後、ロリスのミスをマンジュキッチが押し込み2-4とした。

 前半から続いたドタバタ劇は、これをもって打ち止めとなった。フランス優勝の要因を挙げるならば、堅い守りに尽きる。ラファエル・ヴァランとサミュエル・ユムティティ。レアル・マドリードとバルサの両CBが果たした役割は大きい。

 しかし、同じ条件でもう一度クロアチアと対戦したら、勝てるのか。はなはだ疑問だ。フランスの優勝は、ドイツ、ブラジル、スペインが早々に敗れた大会にあって、きわめて順当に映る。だが、そこには運が大きく絡んでいたことも事実なのだ。運も実力のうちと言って、話をまとめようとする気は起きない。

 特にVARという新システム。その活用法には議論の余地が大いにある。

 最後にフランス代表監督デシャンについてひと言。つい想起したくなるのは、2003-04シーズンのチャンピオンズリーグだ。モナコの監督として、準々決勝ではジネディーヌ・ジダンなどスターがきらめくレアル・マドリードを撃破。準決勝でもチェルシーを下し、決勝の相手はポルトだった。

 優勝の2文字が目の前にちらついていた。その時、34歳ながら、「名将」の称号は目の前だった。ところが、モナコはポルトに0-3で、まさかの敗戦を喫してしまう。ポルトの監督、ジョゼ・モウリーニョがその余勢を駆って、トントン拍子で出世していくのとは対照的に、デシャンは監督として苦しい戦いを強いられることになった。

 2012年にフランス代表監督に就任するが、2014年ブラジルW杯はベスト8。自国フランスで開催された2016年のユーロでは決勝に進出した。そこで演じたポルトガルとの戦いも、前半なかば、相手のエース、クリスティアーノ・ロナウドがケガで退場するという、フランスにとってはこれ以上ない幸運に恵まれたにもかかわらず、0-1で沈んだ。

 雷雲の到来で、試合直後のルジニキスタジアムは大雨に見舞われた。デシャンも雨に打たれ、金髪はべっとり濡れていた。地肌が露出する面積が、49歳にしては広すぎることも判明した。苦労のほどが偲ばれるのだった。

 ロシアで披露したサッカーの中身については讃える気は起きないが、これでデシャンが一流監督に昇格したことは事実。監督としてのこれからの活動に注目したい。

(集英社 webSportiva 7月16日掲載原稿)

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、2018年ロシア大会で連続10回現地取材となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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