W杯3位決定戦を見て思う「日本がイングランドになっていた可能性」

3位決定戦はベルギーがイングランドを下した(写真:ロイター/アフロ)

 W杯における「銅メダル」のステイタスは「ベスト4」と大差ない。メダルを逃したからといって、責められるカルチャーはない。だから、3位決定戦はともすると、エキシビションマッチに近い緩い試合になることがある。

 ベルギー対イングランド。サンクトペテルブルクで行なわれたこの一戦はどうなのか。キックオフ直後の両軍に、眺めのいいスタンド上階から目を凝らした。

 イングランドのいいところは、真面目なことだ。常に一生懸命。となると、格上のベルギーは、それなりの覚悟で受けて立たなければならなくなる。試合の真剣度は自ずと上昇する。

 開始4分、ベルギーがトーマス・ムニエのゴールで先制すると、イングランドの反抗精神は激しく燃えさかった。強者が先制すると試合はつまらなくなるものだが、この場合は別。イングランドは必死に応戦した。

 この日、ベルギーのスタメンには、プレミアリーグのクラブに所属する選手が8人いた。

 なかでも、3トップを構成したロメル・ルカク(マンチェスター・ユナイテッド)、エデン・アザール(チェルシー)、ケビン・デブライネ(マンチェスター・シティ)の3人は、プレミアでは一流選手としてとおる、いわば欧州級だ。

 一方、イングランド代表に一流はいない。欧州のビッグクラブから声がかかりそうな選手は見当たらない。イングランドが選手個人の能力でベルギーに劣ることは厳然とした事実。ならばどうするか。その差をいかにして詰めるか。

 真面目さは十分伝わってきた。試合を活気づかせる薬にもなっていた。しかし、それだけで両者の差を埋めることは不可能だ。サッカーの質で勝ることが、3位への道として欠かせないものとなる。

 ところが、眺めのいいスタンド上階から俯瞰すると、その点でもベルギーに劣ることが、大真面目に頑張れば頑張るほど、鮮明になった。

 ベルギーの布陣は3-4-3。両ウイング”ハーフ”を、ウイング”バック”と見なせば5-2-3だ。対するイングランドは3-5-2。布陣を同様にかみ砕けば5-3-2だ。

 5-「2-3」(ベルギー)対5-「3-2」(イングランド)。攻撃が先細りになりやすいのは「3-2」のイングランドだ。ボールを運ぶ形はクリスマスツリー型になる。前にいくほどプレーの選択肢は減る。最後は2トップに託すサッカーになる。

 対するベルギーは「2-3」。前線に3人いる。ルカク、アザール、デブライネ。顔ぶれで上回るうえに、多彩さという点でも期待できる。イングランドのパスワークが、2点間(パスの出し手と受け手)の関係になりがちなのに対し、ベルギーには3人目が存在する。

 パスコースが複数あるベルギーと、ひとつしか見えないイングランド。可能性を感じさせる攻撃と、感じさせない攻撃。後者は言ってみればゴリ押しだ。出たとこ勝負の攻撃である。これを完遂させるためには、高い個人能力、あるいは高度な頑張りが不可欠になる。

 だが、イングランドの2トップ、ハリー・ケインとラヒム・スターリングは、ベルギーの3トップに力量面で劣る。期待できるのは頑張りのみ。イングランドの勝利は、この構図が鮮明になった瞬間、期待薄になった。

 日本は、このイングランド式の2トップを笑うことはできない。日本でも、つい何年か前まで(代表チームではジーコジャパンまで)、3バックといえばこのスタイルが一般的だったからだ。可能性の低い攻撃を繰り返し、そして勝手に決定力不足に悩んでいた。イングランド型の3バックに近く、ベルギー型ではなかった。現在でも、そのあたりの整理はついていない。「3バック」といっても種類はさまざま。にもかかわらず「3バック」とひと言で片付ける人が数多いる。

 それはさておき、だ。イングランドは頑張った。ベルギーの攻撃に耐えながら、理屈を超えた頑張りを披露。縦への勢いで押す”イケイケサッカー”で、徐々にチャンスの数を増やしていった。盛り上がらなくても不思議ではない3位決定戦は、思いのほか盛り上がった。

 頑張るサッカーを馬鹿にすることはできないが、理屈的には無理がある。ベルギーには、アザール(左)、デブライネ(中央)、ルカク(右)の3トップが左寄りに構える傾向があった。右サイドは、ルカクが中央寄りで構えるため、ムニエがひとりでカバーする状態だった。狙い目はこのサイドにあったが、イングランドにそこを突こうとする工夫はなく、2トップは真ん中で普通に構え、最終ラインも相手の3トップに対し5人で対応した。最後尾に守備者を2人も余らせて臨んだ。

 逆にベルギーは、2トップのイングランドに対して3バックで対応。5バックになりにくいサッカーを展開した。

 試合は82分、アザールのゴールで加点したベルギーが、2-0のスコアで勝利を飾った。イングランドはよく健闘し、惜しいシーンを作り出したが、その差は歴然だった。ベルギーと10回戦っても、2回ぐらいしか勝てなさそうな差を感じた。28年ぶりのベスト4入りを果たし、ある種の好感度は残したが、前途に明るい光がのぞいているかといえば疑問だ。

 3位の座に就いたベルギーは、これまでのW杯における最高成績(4位、1986年メキシコ大会)を更新。2014年ブラジルW杯、ユーロ2016ベストで残したベスト8という成績も超えた。

 前回W杯、そして2年前のユーロとの違いを述べれば、ルカクの成長だ。頼りない選手から、頼りがいのある選手に一変。ここ何年かでもっとも成長した選手のひとりに挙げられる。決めるだけでなく、作ることもできる多彩さが備わった。29歳で迎える4年後、どこまでスケールアップしているか、楽しみだ。

 ベルギーと聞いて想起するのは、日本戦だ。ロストフドナヌーで行なわれた決勝トーナメント1回戦。もしあのとき日本が逃げ切りに成功していれば、あるいは延長PKを制していたら、どうなっていただろうか。3位決定戦を観戦しながら、ふと思った。日本は今回、実はチャンスだったのではないか。マックス、ベスト4もあり得たのではないか。イングランドに日本がなっていた可能性を感じずにはいられない。

 ロシアW杯は、それほど混沌としたトーナメントだった。実力どおりに順位がつかない競技。そんなサッカーの特性が、まざまざと示された大会だった。4位になったからといって、ベスト16入りしたからといって、大喜びは禁物。実力以下の結果になってしまう場合もあるのだ。

 W杯の結果という価値観だけでサッカーを語るのは危険。眺めのいい3位決定戦のスタンドで、強くそう思うのだった。

(集英社 webSportiva 7月15日掲載原稿)

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、2018年ロシア大会で連続10回現地取材となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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