地味でもキレあり。「どんくさくない」 イングランドの未来は明るい

コロンビアを下しベスト8入りを決めたイングランド(写真:ロイター/アフロ)

 グループリーグG組を2位で通過(1位ベルギー、2位イングランド、3位チュニジア、4位パナマ)したイングランド。対するコロンビアはH組で日本と初戦を戦い、まさかの敗戦を喫したが、残る2試合に連勝。首位通過を果たした。

 戦前の下馬評では、昇り調子にあるコロンビアのほうが優勢だった。スパルタク・スタジアムを埋めたサポーターの数も、コロンビアのほうが圧倒的多数を占めた。

 ところが、試合は立ち上がりからイングランドペースで推移する。選手個々の動きが速いのだ。3-5-2の布陣から、反転攻勢的な攻撃を、少人数でスピーディに仕掛けた。コロンビアは受けて立ってしまった。

 5バックになりやすい3バックを採用するチームに後手を踏んだ。後ろで守ろうとするサッカーに押し込まれることになったコロンビア。従来通りに戦っていれば、そうならなかったはずである。

 日本戦で採用した布陣は4-2-3-1だった。1トップのラダメル・ファルカオの下にフアン・キンテーロ。右にフアン・クアドラード、左にホセ・イスキエルドが、それぞれサイドアタッカーとして構えた。

 ところがこの日、ファルカオの下の列に構えた選手は2人。キンテーロとクアルダードが、いわば「シャドー」のように構えた。布陣は4-3-2-1。サイドアタッカーが両サイドに各1人しかいない、先に行くほど細くなる典型的なピラミッド型サッカーである。

 イングランドの3-5-2も同様な傾向を示すので、その両軍が交われば、試合のエンタメ性は必然的に低下する。後方に待機しゴール前を固める、いわば守備的なサッカーを両軍が実践したので、戦いに本格的な灯は点(とも)らなかった。ジャブの応酬に終始した。

 コロンビアがイングランドにお付き合いした結果、試合はエンタメ性に乏しい退屈な内容になった。

 にもかかわらず、コロンビアは後半12分、先制点を奪われた。日本戦でハンドを犯し、PKを献上したカルロス・サンチェスが、CKの際、ハリー・ケインを後方から抱きかかえるように倒してしまったのだ。

 ケインが仕掛けた罠に、C・サンチェスがはまったという見方のほうが正解だと思うが、アメリカ人のマーク・ガイガー主審は、次の瞬間、PKスポットを指さしていた。コロンビアは本来のコロンビアらしさを消し、勝負に徹する安全第一の作戦に出たにもかかわらず、不運なPKを献上。先制点を奪われた。ホセ・ペケルマン監督の采配は凶と出た。

 後半に入っても、戦いの構図は変わらない。

 気温は20度を切っていた。サッカーをするには最高の環境で、実際、両軍選手の動きは良好だった。それだけに、噛み合わせの悪さが目立った。あちこちで無意味かつ汚い衝突が発生。ガイガー主審の仕切りも的確さを欠いたため、試合の見映えは回復しないまま、終盤を迎えた。

 イングランド、逃げ切り成功か。コロンビアに同点ゴールが生まれたのは、そう思われた後半のアディショナルタイムだった。クアドラードが蹴った右CKを、CBジェリー・ミナが高々としたジャンプから叩き付けるようなヘディングで、イングランドのゴールネットを揺るがせた。

 1-1。これは試合内容に相応しいスコアである。同点ゴールを奪った流れで、コロンビアは延長前半、試合を押した。前線にカルロス・バッカ、ルイス・ムリエルを投入。先発のファルカオとともに、多くのストライカーを並べたが不発に終わった。すると、延長後半はイングランドペースに。コロンビアは勢いでしか攻撃できなかった。理詰めを欠いた。

 最後まで不足していたのは、サイドを突く姿勢だ。5バックで引いて構える相手、後方に引いてスペースを消すサッカーに対して、どう対処すべきか。答えはサイド攻撃だ。両サイドバック、ウインバックを外から剥がし、センターバックを外に誘い出す。これがセオリーだが、コロンビアはサイド攻撃を最後まで追求しなかった。

 両サイド各ひとりの相手に、4バックであるにもかかわらず、同じ枚数で迫った。相手に布陣を合わせながら戦った。ボール支配率を高め、ゲームを意図的にコントロールしようとしなかった。リスクを恐れたサッカーだ。

 勝ちたかったのだろう。イングランドに勝利すれば、次はスウェーデン戦。コロンビアが属している側のトーナメントの山は、反対側の山より緩い。

 前回ブラジルW杯では準々決勝でブラジルに敗れ、ベスト8で沈んだホセ・ペケルマン監督にとって、それは大きなチャンスに見えたに違いない。だが、そのベスト8進出は、監督にとって操作が利かないPK戦に委ねられ、その結果、3-4でイングランドに敗れた。正攻法で戦っていれば……とは、観戦者としての正直な思いだ。

 一方、イングランドにとっては12年ぶりのベスト8だ。ベスト16(1998年)、ベスト8(2002年)、ベスト8(2006年)、ベスト16(2010年)ときて、前回はグループリーグで脱落した。ウルグアイ、コスタリカに先着を許し、イタリアとともに沈んだ。ひと言でいえば、それは動きが緩慢なドタドタサッカーだった。

 それに対して、今回のイングランドはシャープだ。動きにキレがある。ガレス・サウスゲート監督のサッカーは、正直言って地味。守備的で面白くないが、イングランド代表が長年抱えていた独得の臭みは消えた。どんくさくなくなった。育成年代のチームが残している好成績の理由がわかるような、明るい未来を感じさせる。

 次戦はスウェーデン戦。イングランドにとって相性のよくない相手に見えるが、結果はいかに。

(集英社 webSportiva 7月4日掲載原稿)

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、2018年ロシア大会で連続10回現地取材となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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