アルゼンチン代表のメッシに、C・ロナウド級の活躍が望めない理由

アルゼンチン1ー1アイスランド(写真:ロイター/アフロ)

 アイスランド。W杯本大会は初出場ながら、前回のユーロ(2016年)では本大会出場を果たし、ベスト8に進出。グループリーグでは優勝国となるポルトガルに引き分け、そして、決勝トーナメント1回戦ではイングランドに2-1で競り勝ち、話題を集めた。その直後にスタートした今回の欧州予選でもその余勢を駆り、クロアチアに先着して1位通過。ウクライナ、トルコという実力国を予選敗退に追い込んでいる。

 人口わずか35万の小国。しかしながら、ただの弱者ではない。開幕戦でロシアに大敗したサウジアラビアのようなヘタな負け方はしない、成熟したチームなのだ。粘り強く、精神的にキレることはない。あるレベルに達していることは、この世界では承認済みなのである。

 モスクワのスパルタクスタジアムで行なわれた一戦。アイスランドがアルゼンチンに対して1-1で引き分けたことに特段、驚きはない。アイスランドの善戦、健闘を新鮮な気持ちで讃えるより、まず言及すべきはアルゼンチンの不甲斐なさだと思う。

 前回ブラジルW杯の準優勝チームだ。決勝でドイツと接戦を展開。延長で惜敗している。1978年アルゼンチン大会以来、26年ぶりに南米で開催されたW杯で、その意地とプライドを開催国ブラジルに代わり保った格好だった。

 しかし、チームの平均年齢は本大会出場した32カ国中、28.5歳と最も高く、その瞬間から4年後のロシア大会が心配されていた。案の定、南米予選では大苦戦。監督をホルヘ・サンパオリに代え、最後の最後でようやく出場圏内に滑り込むという、まさに薄氷を踏む戦いを演じた。

 予選と本大会は別物ではある。例えば、2002年日韓共催W杯で優勝したブラジルは、南米予選では大苦戦を強いられていた。苦戦がサクセスストーリーに組み込まれていた。しかしアイスランド戦のアルゼンチンに、予選と本大会との間に潜む”別物感覚”を抱くことはできない。予選との比較以前に、高齢チームで戦った4年前との違いが見られなかった。

 スタメンの平均年齢は29.6歳。30歳台が6人(メンバー23人の平均年齢は29.0歳で、30歳以上は13人)と、さらに上昇していた。今回もおそらく32チーム中、最高齢のチームになるだろう。代わり映えのしない顔ぶれを見ただけで苦戦が予想された。

 もうひとつ、アルゼンチンが抱える問題はリオネル・メッシのポジションだ。守備能力がゼロに近いこの選手をどこに置くか。ディエゴ・マラドーナが監督を務めた2010年大会では中盤で起用。準決勝のドイツ戦ではプレスを浴び、0-4で大敗する最大の要因になっていた。

 守備ができない10番タイプが激減していくなかで、2010年のアルゼンチン型は、現代サッカーへのアンチテーゼのようにも見えたが、それは甘い解釈だった。ドイツによってその旧式サッカーは、木っ端微塵に粉砕された。

 2014年のアルゼンチンは、その反省からか、メッシをできるだけ高い、リスクの低い場所に置く作戦をとった。アルゼンチンの決勝進出はそれが奏功したといってよかった。

 そして今回。サンパオリ監督は4-4-2の2トップを、セルヒオ・アグエロと組ませるスタイルを採用した。ところが1点先取した後、同点に追いつかれて1-1のスコアで後半に突入すると、メッシは中盤まで引いてきた。守備的MFの高さまで下がることも頻繁だった。

 この日はアイスランドにプレスを浴びて逆襲の餌食になることはなかったが、下がれば下がるほど、メッシの魅力=ペナルティエリア内での特別な才能は失われた。怖さは半減。メッシはメッシでなくなっていった。

 この前日、ソチ五輪スタジアムで観戦したポルトガル対スペイン戦が頭をよぎった。クリスティアーノ・ロナウドの爆発力を最大限、活かそうとしていたポルトガル。それはアルゼンチンとは対照的な姿だった。スペインの守備陣は、C・ロナウドがボールに触れるたびに、恐怖に晒(さら)されることになったが、アイスランドの守備陣は、必ずしもそうではなかったのだ。

 C・ロナウドとメッシは現代のサッカー界にとって、まさに宝物だ。それをどちらのチームが有効に使えているか。至宝として扱っているか。ポルトガルがスペインに互角に立ち向かえた理由はそこにあった。

 気負えば気負うほど、メッシはゲームメーカーに成り下がる。その結果、トップにはアグエロが残ることになるが、屈強なアイスランド相手に1トップを任せるには小さい。ポストプレーも得意ではない。メッシが下がると、アルゼンチンのバランスは大きく崩れるのだった。

 周囲が抜群に巧いのなら問題ない。だが、アルゼンチンの選手は、例えばいまのスペイン人選手に比べ、技巧度で劣る。ポルトガルがC・ロナウドに活躍してもらわなければ困るように、アルゼンチンもメッシに活躍してもらわなければマズい状態にあるのだ。少なくとも優勝は狙えない。

 若手に勢いのある選手がいないので、メッシのワンマンチーム度は高まるばかりである。しかし、それを活かす仕組みができていない。アルゼンチンは試合巧者とは言えなくなっている。スペインに技巧で劣るなら、せめてポルトガル的であってほしいが、その覚悟はない様子。アルゼンチンがロシアW杯で何かを起こすことは難しいと見る。

(集英社 webSportiva 6月17日掲載原稿=「メッシのための滅私奉公も空回り。高齢アルゼンチンの先行きに暗雲」に加筆)

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スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、2018年ロシア大会で連続10回現地取材となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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