西野ジャパンの失われた可能性。左サイドに左利きがいない

2014年ブラジルW杯 日本 1-2 コートジボワール 長友対アウリエール(左)(写真:Action Images/アフロ)

 発表された27人のメンバーから削られる4人は誰なのか。新たに加わるとすれば、所属チームがベルギーリーグのプレーオフの最中であるという事情で招集を見送った久保裕也(ヘント)ぐらいだ。

 サッカーの中身について、いまだ明確に語っていない西野新監督だが、このようにおおよそのメンバーが発表されると、諸々、想像を働かせやすくなる。

 まず鮮明になるのは、失われた可能性だ。足りない要素はもはや補うことができない。そうした意味で、落選させたくなかった選手は誰か。中島翔哉、杉本健勇、怪我のため本番に間に合いそうもないとされる小林悠。アタッカー陣の名前がまず頭を過ぎるが、僕の見解では、左サイドバック(SB)の車屋紳太郎が真っ先に来る。

 左SBのスタメン候補は長友佑都。身体は小さいが、俊敏で牛若丸的な要素を持つ日本人らしい選手。国際経験も豊富で、日本代表に欠かせない選手であることは確かである。しかし、31歳という年齢も関係するのか、馬力は一頃に比べ下降線を辿る。

 加えて右利きだ。本来なら、左SBには左利きを置きたい。

 その前方で構える左ウイング(4-3-3の3の左、4-2-3-1の3の左)が、左利きなら右利きでも構わない。バランス的に問題ないが、アタッカー陣の顔ぶれを見渡せば、左のウイング候補は全員右利きだ。左利きは右サイドでのプレーが想定される本田圭佑に限られる。

 原口元気、乾貴士、宇佐美貴史。左ウイングの候補には右利きばかりが並ぶ。ポリバレントではないとの理由で落選した中島翔哉(右利き)も、このポジションを定位置にする。

 酒井宏樹と本田圭佑がコンビを組みそうな右サイドは、右利き+左利きだ。バランスは保たれるが、候補者全てが右利きで占められる左サイドは、右+右の関係にならざるを得ない。

 車屋が欲しかった理由だ。中島翔哉に多機能性を求めるなら、なぜ車屋を外したのか。西野新監督は、その話の流れで攻撃陣の起用法に柔軟性を持たせたい考えを述べた。たとえば4-2-3-1なら、その3を、メンバー交代の際にいじり、つまり、戦術的交代を駆使し、攻撃に変化をつけていきたいーーと考えているようだった。

 ならば、なおさら車屋という左利きのSBは残しておくべきだった。後方から支援する左SBが左利きである方が、3の左(左ウイング)には幅広い活躍が期待できる。

 両SBとウイングがサイドで関係を築けば、ピッチの両サイドには2対2の構図が出来上がる。「相手のSB+ウイング」対「自軍のSB+ウイング」。そこでウイングが活躍するためには、あるいはSBが活躍するためには、それぞれのサポートが不可欠だ。どちらのチームがそれを円滑に行えるか。

 サッカーには「サイドを制すものは試合を制す」との格言がある。かつては「中盤を制すものは試合を制す」だったが、SBの重要性が増したことに伴い変化した。最近では、「サイドバックが活躍した方が試合に勝つ」にまで発展している。

 ピッチを正面スタンド、あるいはバックスタンドから見据えれば、平均的なポジションが高くなったSBは中盤選手同然に見える。両サイドにおける2対2は、外側の中盤対決と言い表すこともできる。

 相手のSBに活躍を許し、2対2の関係に敗れたことで敗戦に追い込まれた試合として記憶に新しいのが、4年前のブラジルW杯初戦、対コートジボワール戦だ。

 日本が敗れた場所は自陣から見て左サイド。左SBは長友で、4-2-3-1の3の左は香川真司だった。しかし、香川は、居心地のよさを求めるかのように、多くの時間、ピッチの真ん中付近にポジションを取った。その結果、日本の左サイドは相手の右サイドに対し、1対2の関係に陥った。

 長友は健闘した。頑張って前に出たが、コートジボワールも日本の左サイドに狙いを定め、攻撃を仕掛けてきた。真ん中、左、右。攻撃のルートを3つに分けたとき、コートジボワールの攻撃は60%(真ん中25%、左15%)、右サイド(日本の左サイド)に偏っていた。日本が陥りやすい傾向を読み切っていたのだ。

 その同点ゴール、逆転ゴールは、いずれも右からのサイド攻撃の産物だった。本来なら、香川が対面で攻撃参加を抑止しているはずの相手右SB(セルゲ・アウリエール)は、フリーの状態で前線に進出。コートジボワールは、その攻め上がりを起点に2ゴールを奪った。

 忘れられない出来事だ。サイドで後手を踏んだことが逆転負けの要因であることは明白で、まさに「サイドバックが活躍した方が勝つ」を地で行くような試合だった。

 今回、香川は左ウイング候補には入らないはずだ。現状、候補は原口、乾、宇佐美の3人だが、4年前の香川になる可能性は低い。彼らがむやみにピッチの真ん中付近に長い時間、ポジションを取ることはないだろう。

 しかし、実力上位のコロンビア、セネガル、ポーランドにサイドの関係で勝れるかと言えば、怪しい。左サイドにおける左+右の可能性は、残しておくべきだったのだ。

 右+右より右+左の方が、攻撃に深みを出しやすい。ゴールライン際からのマイナスの折り返しが期待できる。ゴールを逆算するプレーがより期待できるのだ。少なくとも、攻撃は多彩になる。

 サイドアタッカーは、最低でも両サイド各4人選ばれる。右は右利き3人、左利き1人になりそうだが、左は右利きばかり4人。アンバランスと言わざるを得ない。

 香川は、使われるとすれば4-2-3-1の1トップ下(3の真ん中)だろう。サイドは右も左も得意ではない。4-3-3ならインサイドハーフになるが、その気質はおおよそ中盤的ではない。ポジションがほぼ1トップ下に限定されるポリバレントではない選手だ。

 4-2-3-1の3を務める選手は、その3つあるポジションのうち2つこなすのが当たり前というご時世にあって、香川は珍しいタイプだ。真ん中の選手を動かせないとなると、戦術的な交代の選択肢は激減する。

 ハリルジャパン時代がまさにそうだった。香川を他のポジションで使えないことが、戦術的交代の妨げになっていた。ポリバレントではないのは、中島翔哉だけではない。西野監督の香川の取り扱いにも目を凝らしたい。

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、2018年ロシア大会で連続10回現地取材となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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