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CL決勝トーナメント1回戦。バルサ、開始2分で45本のパス成功→ メッシの一撃→チェルシー崩壊

杉山茂樹スポーツライター
チェルシーを通算スコア5-2で下しベスト8に進出したバルセロナ(写真:ロイター/アフロ)

 チャンピオンズリーグ(CL)決勝トーナメント1回戦、バルセロナ対チェルシー。チェルシーホームの第1戦は1-1。第2戦を前に、両者は6分4分の関係にあった。

 試合がこのまま終わればバルセロナの勝ち。追いかける立場にあったチェルシーだが、立ち上がりから3-4-2-1の4の両サイド(マルコス・アロンソとビクター・モーゼス)が最終ラインに下がる5バックの態勢で守った。高い位置からプレッシャーをかけず、引いて構えて様子をうかがおうとした。敗因はここにあった。

 バルサは悠々とパスを回す。キックオフから連続して繋がったその本数は31本に及んだ。チェルシーで初めてボールに触れた選手は、左センターバックのアントニオ・リュディガーで、31本目のパスを受けたバルサの右ウイング(右サイドハーフと言うべきか)ウスマン・デンベレが試みた縦突破をスライディングタックルで止めたシーンになる。だが、ボールはタッチアウトに終わった。

 バルサの連続パスはさらに続いた。セルジ・ロベルトのスローインを32本目とすれば、リオネル・メッシがセルヒオ・ブスケツから受けた横パスは42本目になる。

 そこでドリブルを開始したメッシは、43本目のパスをデンベレとのワンツーにしようとした。だが、その44本目となるリターンのパスは、マルコス・アロンソの足に当たり、メッシに戻らなかった。連続パス記録は、ここで途絶えたかと思った瞬間だった。そこに登場したルイス・スアレスが、こぼれ球を拾い、縦に疾走していたメッシへのラストパスとしたのだった。

 繋いだパス45本。46本目は、チェルシーGKティボ・クルトワの股間を抜け、チェルシーゴールに吸い込まれる一発になった。

 開始して2分あまりで、チェルシーは一度もボールを保持することなく、バルサに通算スコア2-1とされるゴールを奪われた。自軍ゴール前を思い切り固めたハズなのに、2分でこじ開けられてしまった。試合前に立てた当初の計画は、この瞬間、あっさり崩れ去った。引いて構え、機を見てカウンターを仕掛ける守備的サッカーをこのまま続けるわけにはいかなくなった。

 前に出ざるを得なくなったチェルシー。慣れない攻撃的サッカーに転じた結果、齟齬(そご)が生じた。前半20分、中盤でセスク・ファブレガスが悪いボールの奪われ方をしたのはその表れだ。カウンターからメッシにドリブルを許し、そしてデンベレに決められた。バルサにやらせたいサッカーを、自分たちがさせられることになった。

 後半18分、再びメッシに奪われた3点目のゴールも同様のパターンだった。前掛かりになるところ、ビルドアップのパスを中盤で引っかけられた。守備的なチームが攻撃的に転じることを余儀なくされ、そしてミスを繰り返し0-3で敗れた。自分たちらしさをまるで発揮することなく、舞台から去った。いい負け方とは言えない。

 5バックで守るチームの矛盾を露呈したような敗れ方である。攻めざるを得なくなった場合への備えができていない。その結果、逆に守りが弱くなった。強いはずの守りに乱れが生じた。

 それもこれも、立ち上がりに原因がある。キックオフ直後からバルサがパスを回す間に、5バックの並びは少しずつ乱れていった。バルサのパスは、右に左に幅広く回った。右サイドにウイング然とデンベレが張って構えたため、最近の試合で目立ったような、攻撃が真ん中に偏ることはなかったのだ。

 先制ゴールを決めたメッシが42本目のパスを受けた場所は、ペナルティエリアの(向かって)右角より内側だった。ゴール正面やや右寄りという感じだったが、チェルシーの5バックは大きく右側(バルサから見れば向かって左側)にずれていて、メッシの目の前にいたのは左ウイングバック、マルコス・アロンソだった。そこから、メッシはワンツー崩れで先制点をゲットしたが、前進するコース上にチェルシーのディフェンダーは誰もいなかったのだ。

 2分強、バルサが左右のバランスよく連続してボールを回している間、鉄壁だと思っていたその守備網は、少しずつ崩れていた。相手がいくら守りを固めても、理詰めに攻撃を仕掛ければゴールを奪うことができる。攻撃的サッカーが興隆する一方で、守備的サッカーがマイナーな域にとどまる理由は、CL25年の歴史の中で、そういう例が枚挙にいとまがないからだ。

 とはいえ、チェルシーにも惜しいシーンはあった。シュートは2度、ゴールの枠を叩いていたし、PKが与えられても不思議はないプレーもあった。スコアは3-0ながら、実力的にそこまでの開きはなかった。

 1-1で引き分けた第1戦も同様だ。ゴールの枠を叩いたシュートは2度あった。悪くないメンバーを抱えているのだから、オーソドックスに戦えばいいのに、と思わずにはいられない。

 一方、勝利したバルサも3-0(通算4-1)というスコアほどの強さを見せたわけではない。デンベレを起用したことで、左右のバランスは改善されていたし、ピッチも広く使えていたが、メッシ頼みという感じが否めなかったことは確かだ。レアル・マドリードのクリスティアーノ・ロナウドへの依存度を、それは大きく超えている。

 ブックメーカーの優勝チーム予想は、マンチェスター・シティが一番手。2位バルサ、以下、レアル・マドリード、バイエルン(3位タイ)、ユベントス、リバプール(5位タイ)、セビージャ、ローマ(7位タイ)と続くが、現在のバルサはそこまで強いだろうか。

 潜在能力はレアル・マドリードの方が上に見える。バルサらしさという点でも、マンCに劣る。最後に優勝した2014~15シーズンと比較して、新たなセールスポイントは生まれていない。なにより、大金をはたいて獲得したコウチーニョやパウリーニョが、確かな戦力として機能していない。

 この日、右ウイングとしてCLデビューを飾り、2点目のゴールを決めたデンベレに、レアル・マドリードでいうところのマルコ・アセンシオ、ルーカス・バスケスのような役割が果たせれば、可能性は膨らむが――。チェルシーに大勝しても、優勝するには依然、何かが不足しているような気がしてならないのだ。

(集英社 webSportiva 3月15日掲載)

スポーツライター

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、プレスパス所有者として2022年カタール大会で11回連続となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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