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西川対東口。槙野対昌子。三浦対植田。長友対車屋。日本代表レースを探る(1)GK、DF編

杉山茂樹スポーツライター
写真:岸本勉/PICSPORT

 W杯本番まで残り5ヶ月を切った。と言っても、欧州での親善試合が予定される3月まで、代表チームとしての活動はない。代表レースの行方は、所属チームでどれほどよいプレーを見せるか、結果を残すかに懸かっている。しかし、Jリーグの開幕は2月24日だ。欧州遠征メンバーが発表されるのは3月上旬なので、国内組のアピールの場は1、2試合に限られる。事実上ないに等しい。国内組を絞り込む作業は、昨年末に行われたE1東アジア選手権をもって9割方完了したと見るのが自然だ。

 そこで浮上した選手は誰か。現在、欧州でシーズンを戦う従来のスタメン組の中で調子が上がらない選手と、国内組との入れ替えはどの程度行われるのか。さらには、代表レースから脱落したかに見える本田圭佑(パチューカ)、香川真司(ドルトムント)、岡崎慎司(レスター)に復活の余地は残されているのか。このあたりが代表レースの主な見どころになる。

 過去の代表チームを振り返れば、大抵、終盤でドタバタした。順当なステップを踏んだケースは少ない。最たる例は2010年南ア大会に臨んだ岡田ジャパン。そのラスト半年を切ってからの迷走ぶりは半端ではなかった。期待値は本番が近づくほど低下した。迷走した末、選手の大幅な入れ替えを余儀なくされたことが逆に奏功。好結果を生む要因になった8年前の例に従えば、ドタバタ劇はむしろ望むところである。

 ここでは、代表レースが波乱の展開になることを期待しつつ、代表レースの行方をポジション毎に探ってみることにしたい。

GK 西川対東口。3枠を巡る争いは中村航輔の台頭で混沌

川島永嗣 写真:岸本勉/PICSPORT
川島永嗣 写真:岸本勉/PICSPORT

 従来のスタメンである川島永嗣(メス)の優位は動きそうもない。所属チームは現在フランスリーグ最下位。しかし、川島はそこで順調に先発出場を重ねている。試合勘はある。33歳という年齢も、経験がものを言うGKにとって、ハンディにはならない。

 注目は2番手争い。従来のプライオリティに従えば、西川周作(浦和)がクラブW杯出場のためにE1東アジア選手権を欠場するなら、そのスタメンの座は東口順昭(G大阪)で決まりのはずだった。ところが、そこで3試合中2試合に先発したのは若手の中村航輔(柏)だった。東口の出場は1試合に終わり、もう1人選ばれていた権田修一(鳥栖)は、中村台頭の煽りを受け出場機会を失った。

 中村は初戦の北朝鮮戦で、決定的なシュートをセーブするなど活躍。しかし、その余勢を駆る形で起用された3戦目の対韓国戦では4点を奪われ哀れな姿を曝け出した。評価は上がったのか下がったのか。西川、東口を越えたのか否か。

 とはいえ、W杯本大会の最終メンバー23人の中には残るだろう。30歳を越すGKばかりを3人選ぶわけにはいかないからだ。若手を1人入れておかないとバランスは取れない。今後につながらない。この常識的な考えが適用されるなら、ライバル関係が成立するのは西川対東口になる。

 とはいえ、世界との差に最も開きがあるのがこのGKのポジションだ。W杯本大会で番狂わせを起こすためには、前回ブラジル大会のケイロル・ナバス(コスタリカ)のように、超人的なセーブを何本も決める必要があるのだが。

CB 槙野対昌子。三浦対植田

昌子と植田 写真:岸本勉/PICSPORT
昌子と植田 写真:岸本勉/PICSPORT

 センターバック(CB)のスタメン枠は、4バックで戦うことは間違いなさそうなので2だ。これまでの経緯から、吉田麻也(サウサンプトン)は当確だろう。あらゆる候補選手の中で、最もスタメンに近い選手と言ってもいい。しかし、プレミアリーグでのプレーは安定しているとは言い難い。W杯のレベルに限りなく近いプレミアで、日本人ナンバーワンCBの危なっかしいプレーを見せられると(昨年末のマンU戦のような)、日本の現実を思い知らされたようで、憂鬱な気分になる。

 2番手は槙野智章(浦和)。ミハイロビッチ監督時代の浦和では3バックの左を務めたため、4バックを布く代表チームに入ると、行き場を失う傾向があった。センターバックの控えであると同時に、左サイドバック(SB)長友佑都(インテル)の控えも兼ねた。いわば便利屋として使われていた。しかし、CBとしてスタメンを飾っていた森重真人(東京)が代表メンバーから外れ、さらには、所属の浦和レッズが昨季後半、監督交代を機に布陣を3バックから4バックに変更したことも槙野には幸いした。所属クラブと、代表とのポジションと一致したことで、中途半端さは一掃された。

 だが、その座は決して安泰ではない。クラブW杯出場のために欠場したE1東アジア選手権では、槙野を僅差で追う昌子源(鹿島)がキャプテンを任され、3試合にフル出場。中国戦でロングシュートを決めるなど、中心選手としての存在感を露わにした。槙野対昌子。争いの構図は鮮明になっている。

 23人枠中、CBの椅子は通常4。吉田、槙野、昌子に続く、4人目を懸けた争いも熾烈だ。E1東アジア選手権で、昌子の次に出場機会が多かったのは三浦弦太(G大阪)。これまで彼と競う関係にあった植田直通(鹿島)は、右SBとして起用された。ユーティリティ性を試されたわけだ。4人目のCBが同時に右SBのバックアッパーを兼ねるなら、その1人分の余剰を他に回すことができる。メンバーのやりくりに頭を悩ませる監督にとって、これは好都合だ。植田はCBのみで起用された三浦より、有利な立場にあるとも言える。

 しかし問題はそのレベルだ。植田なら、Jリーグ最終節で怪我をしたため、代表辞退を余儀なくされた西大伍(鹿島)の方が、SBとしてはよほどいい。植田の高さは確かに魅力だが、肝心のSBらしさがない。植田を右SBで使ったハリルホジッチのアイディアに、無理を感じずにはいられない。

 期待された谷口彰悟(川崎)は、1試合の出場に終わった。初戦の北朝鮮戦こそスタメンで起用されたが、以降2試合では出番なし。振り返れば、彼は2年前中国の武漢で行われた時も、ハリルホジッチから同じような扱いを受けている。監督との相性の悪さを思わずにはいられない。監督が変われば中心選手になれそうな選手だが。

SB 長友対車屋。左右非対称は改善されるのか

車屋紳太郎 写真:岸本勉/PICSPORT
車屋紳太郎 写真:岸本勉/PICSPORT

 従来のスタメンは長友(左)と酒井宏樹(マルセイユ・右)だ。しかし、ハリルホジッチの方針なのか、日本の両サイドは左右対称ではない。長友が前で攻撃と絡もうとするのに対し、酒井宏は後方に待機する時間が長い。攻撃は単発で、4−2−「3」−1(4−3−「3」)の「3」の右との連携も良好ではない。この左右非対称を相手に見抜かれ、対応策を練られると、日本の攻撃はさらに鈍化する。

 交代の1番手は、右も左もできる酒井高徳(ハンブルガー)だ。アギーレ時代は酒井宏より出場機会を多く得たが、監督交代を機に立場が逆転。出場機会を減らした。好プレーも披露するがミスも多い。バタバタする不安定な側面もある。左右のバランスを重視すれば、酒井高徳に軍配は挙がるが、そもそもハリルホジッチは、左右非対称を解消すべき問題だと思っているのだろうか。

 解決する気があるならば、西のE1東アジア選手権欠場は痛かった。日本代表に付ける薬として、4−2−「3」−1(4−3−「3」)の「3」の右を後方から支援するゲームメーカー的センスを持ったサイドバックの存在は不可欠だからだ。

 西に代わって代表入りした室屋成(東京)は、初戦の北朝鮮戦に先発を飾るも、その後の2試合は、SBの本職ではない植田にポジションを譲った。監督のコメントから察するに、室屋にチャンスはなさそうだ。

 ドイツから帰国し、鹿島入りした内田篤人がどれほどプレーできるのかにも注目したい。往年と遜色ないレベルにあるなら加えるべき選手だが、鹿島の右SBには西がいる。鹿島は内田をどこで使おうと考えているのか。

 左SBでスタメンを張るのは長友だ。ミスは減り、クレバーさも増した。スタメンの中で最も計算ができる選手と言えるが、往年の牛若丸的な動きは失われつつある。そのバックアッパーは右SBも兼ねる酒井高だった。しかし、その兼任案は、E1東アジア選手権で3試合中2試合に先発した車屋紳太郎(川崎)の台頭で、消滅する可能性がある。

 酒井高は右利きながら、右利き独得の癖がない。左に回れば左利きのようにプレーする。まさに右利きらしいプレーをする長友にはない魅力の持ち主だが、車屋は純然たる左利きだ。

 左SBの上の位置で、スタメンを争う乾貴士(エイバル)、原口元気(デュッセルドルフ)の利き足はともに右。左サイドで構えるコンビのどちらかは左利きであるべきだとの理想論(常識論)に立てば、車屋に追い風は吹く。

 また、上記の3人(長友、酒井高、車屋)にはない魅力を持つのがE1東アジア選手権の中国戦に出場した山本脩人だ。守備力はこの選手が一番高い。クレバーでプレーに落ち着きもある。あるいは、その前で構える選手が左利きであり、年齢がもう少し若ければ、貴重な戦力になれただろう。

 長友対車屋。左SBの争いは2人に絞られていると言っていい。

 

スポーツライター

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、プレスパス所有者として2022年カタール大会で11回連続となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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