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ハリルJ「初召集の24歳」に注目。 パンチ力ある右ウィングがいた!

杉山茂樹スポーツライター
伊東純也。北朝鮮戦では筆者の期待通り活躍した。写真:岸本勉/PICSPORT

 E-1選手権に臨む日本代表。選ばれた選手はすべて国内組だ。

 海外組を中心に構成されるA代表に満足できるなら、さして重要な意味を持たない大会ということになるが、現状はそうではない。現在のメンバーにこれ以上の期待は寄せられない。新たな選手をどれほど取り込むことができるか。誰を加えたらA代表の総合力は上昇するか。これが日本の浮沈のカギを握るポイントになるはずなので、この大会にはスカウト目線で向き合う必要がある。

 A代表のみならず、日本サッカー界全体を見渡したとき、層の薄さを痛感するのは右ウィングだ。4-2-3-1の3の右。4-3-「3」なら「3」の右。現在ポジションを争っているのは久保裕也と浅野拓磨。先のブラジル戦、ベルギー戦でも、この2人が均等に出場した。

 しかし、どちらも光る何かを発揮することはできなかった。少なくとも、原口元気と乾貴士が競り合う左に比べて見劣りした。その背後で控える右サイドバック(酒井宏樹)のサポートが、左(長友佑都)より見込めないことも関係がある。プレーが単独になりがちなところも評価を下げる原因である。だがそれ以前に、久保と浅野は右ウィングというポジションに相応しい雰囲気に欠ける。適性を感じさせないのだ。

 浅野も久保も、かつては主に2トップの一角として、サイドではなく中央寄りでプレーしていた。日本代表が採用する4-2-3-1、あるいは4-3-3の布陣に落とし込もうとしたとき、とりあえず一番適当なのが右サイドだったという感じだ。布陣の変化に伴い、ポジション移動を余儀なくされた選手たちなのだ。

 左の原口、乾についても似たようなことが言える。左ウィングのスペシャリストとして成長してきたわけではない。4-2-3-1や4-3-3など、3FW系の布陣が日本に浸透したのはわりと最近のことだ。4-2-3-1を見かけるようになったのはつい10年前くらい。4-3-3はもっと最近だ。それぞれの布陣は世界より約10年遅れで日本に入ってきた。それ以前はFWといえば、2トップが定番のスタイルだった。

 それまでサイドアタッカーは、4バックならサイドバックであり、3バック(5バック)ならウィングバックだった。日本にはサイドハーフさえ存在しなかった。サイドバックより一列高い位置で構える、もう1人のサイドアタッカーが存在しない布陣を長きにわたり採用してきた。該当するポジションがなければ、それに相応しい適性を備えた選手は育たない。

 右利きの選手にとって難易度が高いのは、左ではなく右だ。右利きの右ウィングが相手の左サイドバックを縦に抜いて出るためには、特殊かつ高度なテクニックが必要になる。右利きの左ウィングが相手の右サイドバックを縦に抜くプレーより、遙かに難易度が高い。原口、乾が右に回っても、左サイド並みの活躍は期待できないのだ。

 右利きの右ウィングは、世界的に見ても貴重だ。バロンドール級の名選手となれば、ルイス・フィーゴほぼ1人に限られる。そのドリブルテクニックが芸術品に値したことは、引退して時間が経てば経つほど鮮明になるのだった。右サイドハーフのデヴィッド・ベッカムは、ドリブル下手ながら、キックに一日の長があったからこそ一流で通った特殊な例になる。

 ルーカス・バスケス(レアル・マドリード)、ジェラール・デウロフェウ(バルセロナ)、クリスティアン・プリシッチ(ドルトムント)など、あるレベルに達した右利きの右ウィングを、最近になってようやくポツリポツリと見かけるようになったが、世界を見渡しても、数人程度だ。日本代表の右ウィングが久保、浅野に落ち着くことも、そういう意味では特段、驚くべきことではないのである。

 だが、右利きの右ウィングの発見を諦めてはいけない。もちろんそれなりのレベルに達している必要があるが、Jリーグで目を引く活躍をしているとなれば、即、代表に呼び寄せなくてはならない。

 柏レイソルの右ウィング(右サイドハーフ)、伊東純也は、もう少し早い段階で呼ばれていなければならなかった選手だ。ハリルホジッチには、海外組というブランドに勝る貴重な存在には見えなかったのだろうか。

 そのプレーは少々粗い。洗練されているとは言い難いが、他の選手にはない魅力の持ち主であることもまた確かなのだ。右利きながら目の前の左サイドバックを縦に抜いて出る圧倒的な力がある。フィーゴのような抜群のフェイントがあるわけではないが、一瞬で前に飛び出すキレと速さ、そして馬力、キックのパンチ力も備えている。久保、浅野以上に、だ。

 これまでの日本人にはなかったタイプ。ハリルホジッチもその貴重さをようやく認識したのか、遅まきながら今回、初めて彼を招集した。問題は呼んでどれほど使うかだ。

 経験を必要とするタイプである。縦の勝負には、絶えず失敗もつきまとう。最初から機能する可能性は低い。失敗にどこまで目をつぶれるか。貴重なスペシャリストであるという認識の度合いと、それは密接に関係している。日本の攻撃力は、右を強化しなければアップしない。筆者の強く思うところだが、ハリルホジッチの頭の中はどうなのか。

 E-1選手権。注目したい選手は数多く存在するが、伊東純也は少し別格だ。根本的な問題を一気に解決してくれる、救世主になるかもしれない魅力を秘めている。   

(集英社・Web Sportiva 12月8日 掲載)

スポーツライター

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、プレスパス所有者として2022年カタール大会で11回連続となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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