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鹿島は優勝できるのか。ACL決勝で浦和に敗れたアルヒラルに共通する不安要素とは

杉山茂樹スポーツライター
ACL決勝。自らコケたアルヒラル(写真:ロイター/アフロ)

 アジアチャンピオンズリーグ決勝でアルヒラルを倒し、クラブW杯出場を果たした浦和レッズ。内容では、その第1戦(1−1=アウェー)、第2戦(1−0=ホーム)とも、劣勢を強いられた。ボール支配率は第1戦が32%対68%で、第2戦も36%対64%。これでよく勝ったとは、正直な感想だ。浦和が勝ったと言うより、アルヒラルが負けたと言いたくなる試合だった。

 実際に、そうした言い回しをしたくなったのは、その翌日のことだった。0−0で引き分けた鹿島アントラーズ対柏レイソルの一戦を観戦し終えた直後である。柏が健闘したと言うより、鹿島が攻めあぐんだ試合。この試合に抱いた印象と、浦和対アルヒラルの印象が重なって見えたのだ。

 浦和とイメージが重なったのは柏で、アルヒラルと重なったのは鹿島。アルヒラルと鹿島が苦戦した理由には、共通の要素があった。

 まずアルヒラル。各選手の懐の深いボールキープ術と、細かなパスワークをベースにゲームを支配。まさに個人の能力で浦和を圧倒した。大会のベスト11に、アルヒラルから3人が選出されたのに対し、浦和は0。これも両者の差がうかがい知れるデータだ。ホーム戦、アウェー戦ともに惜しいチャンスは数知れず。アルヒラルはしかし、その割に決定的なチャンスが少なかった。浦和のディフェンスを完全に崩すことができなかったのだ。

 敗軍の将は、よくこう弁明する。

「チャンスは数多く作ったが、決めきることができなかった」

 しかし、問われているのはチャンスの度合いだ。単なる惜しいチャンスなのか、決めて当然の決定的チャンスなのか。チャンスという言葉ほど、広範な意味を持つものはない。例えば、ハリルホジッチがアルヒラルの監督なら、会見で上記の台詞を述べ、決定力不足を嘆いていた可能性は高い。決定的なチャンスを作れない理由は語りたがらないだろう。サッカーの質に関わる重要な問題だからだ。

 アルヒラルは決勝戦で、枠内シュートを2試合あわせて、なんと32本も放っている。だが、そのほとんどはGK西川周作の守備範囲だった。シュートが正面を突きやすいサッカー。言い換えればそうなる。

 攻撃が真ん中に偏ったからだ。攻撃の幅を十分に取らず、ゴールの正面から迫ったため、ディフェンダーに早々と中央を固められたのだ。ディフェンスの門が十分に開いていない状態でシュートを狙っても、コースは限定される。GKの守備範囲内に向かいがちだ。アルヒラルの敗因は、サイドを有効に活用しなかったことに尽きるのだ。

 鹿島の攻撃は、それに比べればずいぶんよかったが、やはりよい時に比べれば、内に偏っていた。サイドハーフ(左・レアンドロ、右・遠藤康)の絞り込みが早いのだ。

 左のレアンドロは、左で構える時間そのものが短い。半分以上の時間、内にポジションを取っている。個人技も高ければ得点力もあるチームのエース格。しかも利き足は右だ。真ん中のルートを進みたくなる気持ちは分かるが、相手もいの一番に真ん中を固めるので、最後には無理矢理感が現れる。チャンスは作れても崩し切ることは難しいサッカーに陥っていた。

 それに比べると右の遠藤康はサイドにいる時間が長い。だが、利き足が左なので、ゴールラインまで前進する機会が少ない。途中で切り返して内に入る傾向がある。試合途中、その遠藤に代え、本来右サイドバックの伊東幸敏が投入されるのが今季の鹿島の交代パターンだが、こうなれば右の流れは、改善される。

 一方、左は、レアンドロに加え、サイドバックの山本脩人も右利きだ。ゴールライン際まで縦に進み、左足で折り返す雰囲気は持ち合わせていない。

 そうした現象を察知してか、2トップの一角を占める金崎夢生は、サイドによく流れてプレーする。しかし、真ん中から外に流れるので、サイド攻撃はその瞬間、止まる。仕切り直しになる。サイドバックの攻撃参加を絡めたスピード感に富む攻撃ができにくい状態になる。

 柏戦。シュート数は25対7で、枠内シュートは7対1の関係だった。鹿島はチャンスの数で柏を大きく上回ったが、絶対に決めなければならないシュートを外したというケースはなかった。シュートは相手GK中村航輔の正面ばかりを突き、0−0に終わった。

 大岩剛監督も、そのあたりは十分理解しているようで、試合後のコメントでもサイド攻撃の問題について言及していた。少なくとも左サイドに、左利きの選手を1人置くことができれば、この問題はだいぶ改善されるはずだが、次戦、Jリーグ優勝を懸けた磐田との戦いは、もう目の前に迫っている。サイド攻撃にまつわる問題点を、短期間で解決できるのか。優勝の行方は、その1点に絞られている。鹿島自身に委ねられているのだ。

 試合を優勢に進めながら、攻撃が中央に偏り、思いのほか決定的チャンスを作れない。強者がこの症状に陥れば、番狂わせが生まれる確率は上昇する。

 欧州チャンピオンズリーグでは、かつてに比べ、番狂わせの発生率は激減した。ダークホースが強豪を倒しながら勝ち上がるという例を、ここ10年、ほとんど見ることはない。少なくとも、大会のベスト11に1人も入らないチームが優勝した例は一度もない。強者が、左右の幅を使い、バランスのよいサッカーを仕掛けるようになっているからだ。欧州では、戦力差が結果にストレートに反映しやすいサッカーが展開されている。さらに言えば、W杯も近年、そうした傾向を示す。

 アジアと日本は、まだ別世界に置かれているのか。強者が自らコケる試合は、あまり見たくないのである。

スポーツライター

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、プレスパス所有者として2022年カタール大会で11回連続となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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