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ポジション別日本代表の優先順位(3)評価を落とした香川真司と本田圭佑。ハリル好みのアタッカー序列とは

杉山茂樹スポーツライター
(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

ポジション別ハリルジャパンの優先順位(3)

●第2列及びインサイドハーフ編

起用された選手=香川真司、原口元気、乾貴士、本田圭佑(※)、武藤嘉紀(※)、久保裕也、浅野拓磨(※)、小林悠(※)、清武弘嗣、宇佐美貴史、永井謙佑、武藤雄樹、倉田秋、南野拓実、小林祐希、斎藤学、今野泰幸(※)、井手口陽介(※)、山口蛍(※)、柴崎岳(※)

(※は他のポジションでも出場)

 ハリルホジッチが好んで使う4-2-3-1の第2列目の3と、使用する頻度が増している4-3-3のインサイドハーフ。ここで検証するのは、中盤より高い位置でプレーする攻撃的なポジションについてだ。

 4-3-3に登場するインサイドハーフは、今野、井手口、山口など守備的MFに分類される選手たちが目立つ。4-2-3-1の3とキャラが近しいのは柴崎、倉田ぐらいだ。

 4-3-3は4-2-3-1より攻撃的な布陣。これが一般的な解釈だが、ハリル式4-3-3は必ずしもそうではない。高い位置で相手を止めたいという狙いが見て取れるが、中盤でゲームを作るイメージは湧いてこない。

 いわゆるアタッカーは増えた。それは日本のストロングポイントであり、だから海外組の数も増えたのだが、10番的というか、ゲームメーカー的な選手は減少傾向を示す。これは世界的な傾向でもある。ヘタフェで2トップの一角として出場する柴崎の姿がそれを物語る。10番タイプの選手が構える位置は上がっているか、あるいはセンターハーフの位置まで下がっている。彼らには幅の広さが求められている。

 そこで香川である。プレー可能なエリアが狭い。サイドはできない。FW的でもなければ、センターハーフ的でもない。しかし日本では本田とともに2大スター。ハリルホジッチの優先順位も高い。4-2-3-1の3の中央(1トップ下)が基本ポジションになるが、ここを動かせないとなると、選手交代の選択肢は減る。ベンチに下げる選手と異なるポジションの選手を投入する、いわゆる戦術的交代は行ないにくい。

 繰り返すが、第2列は日本のストロングポイントである。持ち駒は豊富だ。しかし、香川は横や縦にズラすことができない選手なので、その利点がメンバー交代を通して生かしにくいのだ。監督泣かせの使いにくい選手。それが選手として伸び悩む原因でもあると考える。

 その点、本田は多機能的だ。右も左も真ん中も可。CFもインサイドハーフも可能だ。監督には使い勝手のよい選手だ。しかしその長所は、パフォーマンスの低下というマイナス面を、消してあまりあるものなのか。

 香川と本田に対するハリルホジッチの評価は、ここにきて確実に下降中だ。第2列付近のポジション争いは、混沌とした状態にある。

 本田が居場所とした右サイドで、出場機会を増やしているのは、若手の久保と浅野。W杯本大会出場を決めた先のオーストラリア戦で、先制ゴールを叩き出した分だけ、浅野が優勢か。

 左は先行していた原口を乾が猛追。優先度でかわしたかに見える状況だ。所属のヘルタで出番が減った原口。エイバルで順調にプレーを続けている乾。穴は宇佐美だろう。所属はブンデスリーガ2部ながら、ハリルホジッチから高い評価を得ている。というより、好かれているという印象だ。

 6月のシリア戦でも、実績不十分にもかかわらず追加招集されている。このまま、フォルトゥナ・デュッセルドルフで順調に出場し続ければ、先行する2人の間に割って入る可能性がある。

 宇佐美とは対照的に、ハリルホジッチの評価が低そうに見えるのが清武だ。セビージャからC大阪に戻り、国内組に転じると、その傾向はいっそう顕著になった。今年行なわれた代表の6試合で、出場したのは3月のタイ戦のみ。しかも途中交代で、わずか16分の出場だった。

 国内組ながらアウェーのオーストラリア戦などで先発を飾ってきた小林悠も、今年6月のシリア戦以降、招集されなくなった。右サイドもCFもこなせる多機能型。J1でも現在、得点ランキングで3位につける実力者だ。その招集見送りは、国内組<海外組を象徴すると言えるだろう。

 個人的に「思い切って抜擢しろ!」と言いたくなるのが鹿島の高卒ルーキー、安部裕葵だ。小さくて俊敏。やってやるぞという前向きな精神が身体に滲み出ているところがいい。センス、技術、アイディアに富む18歳のアタッカー。今年7月、セビージャとの親善マッチでは、自慢のドリブル&フェイントで、痛快きわまるゴールを決め、その名を高らかにアピールした。デビュー当時の香川の2歩先を行くような、日本サッカー界を活性化してくれそうな選手だと見る。

●CF編

起用された選手=岡崎慎司、大迫勇也、興梠慎三、川又堅碁、金崎夢生、ハーフナー・マイク、杉本健勇、武藤嘉紀(※)浅野拓磨(※)、本田圭佑(※)

(※は他のポジションでも出場)

 2016年10月、イラクに辛勝したホーム戦まで、岡崎は20試合中14試合に先発。CFの軸だった。

 2015~16シーズン、所属するレスターがプレミアで快進撃。まさかの優勝を飾ると、岡崎を見る周囲の目も変わった。翌2016~17に出場したチャンピオンズリーグではベスト8に輝く。これは香川、本田、長友と並ぶ、日本人では2位タイ(1位は内田の準決勝進出)の好成績になる。

 キャリアに大きな箔をつけた岡崎だったが、ハリルホジッチの評価は低かった。オーストラリアとのアウェー戦では、ついに先発の座を奪われた。本田の0トップ。CFが本業ではない本田にポジションを奪われるというCFとしての屈辱を、2010年南アフリカW杯に続き、またも味わうことになった。7年前に岡崎が見せた悔しそうな表情を思い出さずにはいられない。

 とはいえ、それは理に適った作戦ではあった。ハリルホジッチがこの試合で選択した4-3-3は、従来の4-2-3-1に比べ、CFと2列目の選手とが離れた関係にある。ここでCFに求められるのはキープ力。時間を稼ぐポストプレーだ。それに長けた本田のCF起用は妥当な選択だった。実際に機能したかどうかは別にして。

 4-2-3-1の場合でも1トップ下の香川との兼ね合いを考えると、CFはポストプレーヤーの方がふさわしい。香川も岡崎同様、相手に背を向けたプレーが得意ではないので、岡崎・香川のコンビを採用すれば、高い位置でボールが収まりにくくなるのだ。

 CF岡崎と1トップ下でコンビを組む相手には、香川より本田の方が適している。しかし、ハリルホジッチは本田を、1トップ下ではなく右で使う。オーストラリア戦以降、CFの座に岡崎ではなく大迫が座り続けることになった大きな理由だ。

 かつて大迫について「ゴールに積極的ではない」と、ネガティブな言葉を漏らしたハリルホジッチだが、いまその言葉は聞かない。ボールの収まるCFとして大迫は確かに機能している。4-3-3の使用頻度がここにきて高まっている理由も、ポストプレーが得意なその存在と深く関係していると見る。

 一方、ハリル采配に賛同できないのは、大迫が台頭する直前、岡崎とポジションを争っていた金崎の処遇だ。所属の鹿島の試合で、交代を命じられてベンチに下がる際、石井正忠監督(当時)の握手を拒否したとされる事件が起きたのは去年の夏。それを問題視したハリルホジッチは、いまだ金崎の招集を見送っている。しかし、そこまでこだわる問題だろうか。逆に、ハリルホジッチの監督としての器が小さく見える。

 金崎はポストもできれば飛び込むこともできるいわば万能型。代表に欲しいCFだと思われるが、国内組<海外組の理屈がそこに介在しているのだとすれば、第2列のところで述べた小林悠の件と同様、ナンセンスだ。

 CFには調子のいい選手を使えという鉄則がある。該当者は積極的に試すべきなのだ。

(集英社 Web Sportiva 9月17日掲載原稿)

スポーツライター

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、プレスパス所有者として2022年カタール大会で11回連続となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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