初めて本田圭佑を見た時と似た衝撃。 鹿島の新人・安部裕葵にピンときた

(写真:築田 純/アフロスポーツ)

「オッ」と思わせる若手に遭遇することは、観戦の醍醐味のひとつだが、Jリーグには期待しにくい。無いものねだりになりつつあることも事実。かつてゴロゴロ存在したものは、いつのまにか激減。枯渇した状態にある。

日本サッカー界最大の問題と言えるが、よって、発見した瞬間の感激は大きい。天然記念物に遭遇したような貴重さ。鹿島アントラーズのFW安部裕葵(あべ・ひろき/18歳)を見た瞬間、まさにそう感じた。

4月1日、J1第5節。安部の投入は、FWペドロ・ジュニオールとの交代で、時間は後半29分。スコアは0-0だった。

相手は最下位の大宮アルディージャ。鹿島にとっては、アウェーとはいえ、絶対に負けられない戦いだった。にもかかわらず、石井正忠監督は瀬戸内高校(広島)を卒業したばかりの高卒ルーキーを、いきなりピッチに送り込んだ。期待のほどがうかがい知れるというものだ。

その1、2分後だった。安部はMF土居聖真に、意外なタイミングでラストパスを配球。即興的ながら企画力、発想力に富んだショートパスをラストパスとしたのだ。

結果的に土居のシュートは入らなかった。土居がゴールを決めたのはその数分後。アシストはFW鈴木優磨から送られた縦パスだった。

クリスティアーノ・ロナウドのゴールパフォーマンスをすることでも知られる鈴木も、将来が期待される若手。メディアは決勝ゴールをアシストした彼にスポットを当てた。

だが、こちらの目は安部のほうによりピンときた。何と言っても、魅力的に見えるのは、相手と対峙したときの面構えだ。「蛇とカエル」の関係でいう蛇。171cmの小兵ながら、カエルを威圧するかのようなふてぶてしさ、偉そうな態度を見て閃(ひらめ)いたのだ。

この選手はいける。相手をこうした目で威嚇できる選手は必ず伸びる、と。

Jリーグで2試合目の出場を果たしたのは、4月22日のジュビロ磐田戦。今度はスタメンだった。なんとかしてやろうと、デビュー戦同様、立派な面構えで磐田に立ち向かった。しかし、プレーは空振り。安部は前半で交代の憂き目に遭った。

磐田の中村俊輔の活躍もあり、鹿島が磐田に0-3で敗れた試合だ。安部を先発で起用した弊害が露呈した一戦と言ってもいい。

大宮戦と磐田戦。違いは起用されたポジションにあった。大宮戦が2トップの一角だったのに対し、磐田戦は左サイドハーフ。選手に多機能性を求める石井監督ならではの起用法だが、安部は要求を十分消化できなかった。前半、左サイドが機能しなかったことが、敗因のひとつになっていた。

前半45分でベンチに下がった安部だが、面構えは最後まで立派だった。最後まで「やってやるぞ!」という雰囲気を漂わせながら、前向きにプレーした。

雰囲気があるのだ、プレーに。安部にあって他の一般的な若手にない要素はこれ。そして、安部には実行力がある。本田圭佑を初めて見たときに似た感覚に襲われる。同年代の選手の中ではピカイチだと思う。

だが、5月末から韓国で開催されるU-20W杯の日本代表メンバーに彼の名前はない。選出された過去もない。どうやら、内山篤監督のお眼鏡には、適っていないようである。

大事な局面で使ったり、多機能性を育もうとサイドハーフで使ったり、高い期待値を寄せる石井監督とは、見解が異なる様子だ。もっとも、U-20日本チームに選ばれず、大会に出なければ、その分、鹿島で出場する機会は巡ってくる。むしろ、こちらで揉まれたほうが伸びるのではないかと思う。

年代別の代表チームから漏れても、その後、大きく成長した選手はいくらでもいる。わかりやすい例では長谷部誠だ。

2004年アテネ五輪に臨むチームに彼は選ばれなかった。惜しくもというより、最初から構想外のような扱いを受けていた。日本チームには痛手になったが、長谷部には励みになった――とは、こちらの勝手な解釈だが、見るからに向こうっ気の強そうな安部の場合も、そうなる可能性は高いと踏む。

言い換えれば、高校総体の優秀選手に選ばれたにすぎない選手を、スカウトし、獲得するや、新年度の初日(4月1日)から試合に使う鹿島に感心する。強さの片鱗を見る気がする。安部裕葵選手の今後の成長を見守りたい。

(集英社 Web Sportiva 4月26日掲載原稿)

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、2018年ロシア大会で連続10回現地取材となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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