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タイに大勝でも日本代表に問題点。「長谷部の代わりの今野の代わり」

杉山茂樹スポーツライター
写真:岸本勉/PICSPORT(本文中も)

タイに4-0で勝利した日本。しかし、両リームの身体能力が入れ替われば、結果は逆だった。タイにもう少し身体能力があれば、球際の強さがあれば、相手ゴールに蹴り込む力があれば、日本は敗れていた可能性が高い――と言いたくなるほど、日本は好ましくないサッカーを展開した。思わず応援したくなるラブリーなサッカーをしたのはタイ。その清々しいプレーぶりが際立つ試合だった。

日本はひと頃より確実に弱くなっている。それは前戦のUAE戦でも抱いた印象だ。2-0で勝利を収めたにもかかわらず、強いとは言えないサッカーを繰り広げた。UAE戦は、相手に実力で急接近されたという事実を認め、ならばどうすると、”強者風”を吹かさず、謙虚な姿勢で”弱者のサッカー”に徹したことが、勝利した一番の理由と言えた。

タイ相手にはそれができなかった。格上意識を前面に押し出し、横綱相撲を取ろうとした。しかしそれができるほど、いまの日本は巧くない。タイもかつてのように下手ではない。サッカーには「巧い選手は巧いプレーに弱い」という格言があるが、巧いつもりでいる日本は、タイの技巧を目の当たりにして焦った。やりにくそうな雰囲気は、開始8分に香川真司の先制ゴールが決まっても、20分に岡崎慎司の彼らしいヘディングシュートが決まっても、消えることがなかった。

25分、中盤でフリーになりながら左足のインサイドで蹴った横パスをミスしたのは香川。その直前にも彼は前線に送ったパスを引っかけられていた。酒井宏樹、森重真人にもミスが出る。吉田麻也も主将らしからぬ危なっかしい姿をさらけ出す。長友佑都に至っては、積極的にプレーに関わろうとしていないようにさえ見えた。

とりわけ、真ん中より後方で、通常あってはいけないプレーが続出した。

守備的MFの山口蛍も同様に危うかった。長谷部誠、今野泰幸不在の中で、中心になるべきはこの選手だ。4-2-3-1を敷くなら、その2を中心にビルドアップを図るのが現代サッカー。だとすれば山口はチームのヘソだ。ところが仕切れない。円滑にボールに絡めない。積極性に乏しく、なによりヘソとしての自覚に欠けるように見えた。

写真:岸本勉/PICSPORT
写真:岸本勉/PICSPORT

この試合、山口とコンビを組んだのは酒井高徳。長谷部の代役であり、今野の代役として先発を飾った。所属のハンブルガーではこのポジションで起用されており、本人としては抵抗なかったのかもしれないが、日本代表でここをプレーするのは初。いきなりで大丈夫なのかという不安を抱えての出場だった。

本職は右も左もこなす多機能型のサイドバックだ。さらに守備的MFまでこなせば鬼に金棒。このような選手が1人いると、W杯本大会など短期集中大会においてメンバーのやりくりは楽になる。可能性はどんどん追求してほしいが、ここでいきなりそれを披露されると、少なくとも見る側の違和感は膨らむ。

長谷部、今野がケガで戦列を離れたための応急措置と言えば聞こえがいいが、今野は先のUAE戦まではメンバー外だった選手。ケガ人は事実上、長谷部1人だろう。それなのにこの有様。ドタバタ劇に見えてしまう。

長谷部が離脱すると、ハリルホジッチは「長谷部なしのチームは考えられない」と嘆いた。しかし、長谷部不在を想定外とするチーム作りをしてきたのは、他ならぬハリルホジッチ自身だ。34歳5カ月でW杯本番を迎えるベテランを、唯一無二の存在に仕立て上げた。そのリスク管理を怠ったツケが露呈しているのがいまの姿だ。

今野に代わりに追加招集された遠藤航は、所属の浦和ではセンターバックとしてプレー中だ。守備的MFとしての勘が鈍った状態にある彼を、今野(長谷部)の代役として招集しても、試合で使えないことはわかっていたはずだ。そこに引き出しの少なさが見てとれる。

写真:岸本勉/PICSPORT
写真:岸本勉/PICSPORT

UAE戦では代役の今野が長谷部を上回る活躍を披露した。「長谷部なしのチームは考えられない」との台詞は、今野の活躍ですっかり重みを失った状態にあるが、いずれにせよ、ハリルホジッチは今野に救われ、窮地を脱した。

だが、サッカーの神様は、結果オーライのハリルホジッチ采配に新たな試練を課す。今野のケガだ。そしてその結果、ハリルホジッチはタイ戦に山口、酒井高を送り出す選択をした。

試合に勝ったので、まさに結果オーライだが、ゲームをうまく運べない理由の半分近くは、この2人に起因していた。大ベテラン長谷部でひたすら押してきたツケが表面化した格好だ。もしこの試合がオーストラリア戦、サウジアラビア戦だったら。そう考えると、ハリルホジッチは強運の持ち主になるが、この巡り合わせも結果オーライになるのだろうか。

いいサッカーができなかった一番の理由は、長谷部、今野の不在だ。2人がケガから回復すれば、そのまま揃って先発するのが最も好ましい姿に見える。ただし、2人の年齢は合わせれば67歳だ。

ハリルホジッチが代表監督に就任して2年あまり。行なった試合は25を数える。もっと有効な時間の使い方はなかったのか、と言いたい。2018年6月から逆算してチーム強化の計画を練ってきたのか。結果ほしさのあまり、その場しのぎのメンバー起用に陥ったのではないか。「長谷部なしのチームは考えられない」の台詞に、とりわけ怪しさが漂う。結果オーライはいつまで続くのだろうか。

(集英社 Web Sportiva 3月29日掲載原稿)

スポーツライター

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、プレスパス所有者として2022年カタール大会で11回連続となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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