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UAE戦の勝因は謙虚なプレーと今野泰幸。日本代表にスターは不要だ

杉山茂樹スポーツライター
UAE対日本の舞台となったハッツァ・ビン・ザイード・スタジアム 写真 杉山茂樹

「(川島)永嗣さんのファインセーブと、相手FWのゴール前での空振りに救われた」と試合後に語ったのは、後半37分までベンチを温めていた岡崎慎司だった。一方で、監督のハリルホジッチは、「アウェーでゲームをコントロールする力があることを証明した。美しい勝利」と自画自賛。胸を張った。

日本とUAE。両者の間にはしかし、ハリルホジッチが言うほど力の差はなかった。日本がゲームをコントロールしたかに見えたのは終盤。相手が焦りを伴う雑なプレーに転じた結果だ。

前半のボール支配率は45対55。最終スコアは2-0ながら、内容的には接戦だった。相手が2、3度あった決定機をモノにしていたら、結果はどうなっていたかわからない。

同意したくなるのは岡崎の分析だ。UAEとのアウェー戦に勝利したことを無邪気に喜ぶ気にはなれない。だが、今回のアジア予選で最大の一戦を制し、突破の可能性を膨らませたことは事実。この現状をどう捉えるか。ホッと胸をなで下ろすぐらいにとどめておかないと、先が案じられる。

試合は日本が勝ったと言うより、UAEがこけた――との印象の方が強い。

UAEの何人かは、日本人より上と言いたくなる多彩な個人技の持ち主だ。2015年アジア杯では日本にPK戦勝ち。このアジア最終予選の開幕ゲームでも2-1で勝利している。さぞ個人技に自信を深めていたに違いない。今回も、ワザでねじ伏せてやる。そんな過信を感じた。エースのオマール・アブドゥルラーマンのプレーぶり、とりわけポジショニングに、である。

4-2-3-1的な布陣の3の右。であるにもかかわらず、半分以上の時間、彼はそこにいなかった。高度な技術を披露したかったのだろう。真ん中に入り込み(悪く言えば好き勝手に動き)、アタッカーというよりゲームメーカー的な振る舞いをした。攻撃のバランスはそれによって崩れた。いるべきところに人がいない。パス回しに円滑さを欠いた。

日本にとって怖かったのは、アブドゥルラーマンに高い位置でプレーされることだ。高度な技術を日本ゴールに近い場所で発揮されれば決定的なピンチに繋がるが、パスの出し役にとどまるなら、巧さは発揮されても怖さは減退する。

一方、日本のサッカーは謙虚だった。UAEとの過去2戦は、「巧い選手は巧い選手に弱い」というサッカーの格言を地でいくような戦いをした。相手に高い個人技を発揮されて焦った。”巧さ比べ”では自分たちの方が上と余裕をもって構えたら、試合が始まると相手の技巧に翻弄され、「マズい。こんなハズではなかった」と泡を食い、半ばパニックに陥った。

格上気分を全開に臨み失敗した過去2戦の教訓が、今回に活かされていた。相手の巧さを認めた上で、勤勉、真面目、忠実に、驕(おご)りなく戦った。相手に個人技を発揮されても、焦らなかった。UAEは逆に、カッカしない日本の冷静な対応に慌てた。

日本はバランスも整っていた。左右対称。穴がなかった。マイボール時においては、右(久保裕也)も左(原口元気)も真ん中(大迫勇也)もある、選択肢の多い大きな展開ができていた。

本田圭佑がスタメンを外れたことも幸いした。出場していれば、おそらくUAEのアブドゥルラーマン的な動きになっていた――とは、代表でのここ何試合かのプレーを見れば容易に予想がつく。「俺が、俺が」的なプレーをする選手がUAEには存在したが、今回の日本にはいなかった。日本のプレーはいつになくシンプル。ケレン味がなかった。

だが作戦面での一番の当たりは、やはり今野泰幸を長谷部誠の代役として起用したことにある。ここ最近の長谷部とこの試合の今野。どちらがよかったかと言えば、この試合の今野だ。長谷部以上の働きだった。

長谷部と山口蛍。この従来のコンビには問題があった。山口はどちらかと言えば守り屋。一方、長谷部はかつては高い位置でプレーできたが、年齢とともに得意なエリアは下がっていった。所属のフランクフルトではついにセンターバックでプレーするまでになっていた。

4-2-3-1の2でゲームを作るのが今日的なチームだとすれば、長谷部と山口が2を務める日本の4-2-3-1は古めかしいサッカー。長谷部が欠場する今回、山口と組ませる相手探しは、そうならないような選手で。もし今野を使うのなら4-3-3への布陣変更を考えるべし――と、筆者は試合前に書いたものだが、奇しくもハリルホジッチはそれと同じ方法論を採用した。

山口をアンカー、今野を右のインサイドハーフで起用する作戦は奏功した。とりわけ今野が持ち味を発揮し、2点目のゴールまで奪うおまけ付きの活躍を演じたことは大きな勝因であり、収穫のひとつになる。

長谷部と今野。これからこの2人の関係はどうなるのか。33歳と34歳。同じポジションに大ベテラン2人を同時起用するわけにはいかない。ハリルホジッチが今後、両者をどう扱うか。興味深い。

焦りの色が濃くなり拙攻を繰り返すUAE。日本はいいムードで終盤を迎えた。後半33分。ハリルホジッチは、そうした中で本田をピッチに送り込んだ。活躍の久保に代えて。

それ、どうなの? と首を傾げたくなる交代だった。それならば他の選手に出場機会を与えるべきだと思う人は多いはずだ。勝利に水を差した感、なきにしもあらずの交代だった。

本田と並ぶもう1人のエース、香川真司にもひと言いいたくなる。活躍度の低さは、同じく4-3-3のインサイドハーフでプレーした今野と比較すれば一目瞭然。70分でベンチに退いたが、ハリルホジッチが不満を抱いていたことは、ベンチ前で見せる仕草や表情からも明らかだった。

貫きたいのはこの流れだ。新しい流れと言ってもいい。驕りのない謙虚なプレーこそ日本の生命線だ。それができないスターは不要。UAE戦を見ながらあらためてそう思った。

(集英社Web Sportiva 2017年3月24日掲載原稿)

スポーツライター

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、プレスパス所有者として2022年カタール大会で11回連続となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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