ポルトガル。劇的勝利で8強へ。勝因は「苦戦続き」とレナト・サンチェス

決勝トーナメント1回戦は、負ければその瞬間に終戦ということもあるが、この試合はこれまで見た中で一番の熱戦。劇的な幕切れが用意されたドラマ仕立ての好勝負だった。

クロアチアとポルトガル。開会前、両者の立ち位置はとても近かった。ほぼ同等の前評判だったが、グループリーグの戦いを経て大きく変わった。クロアチアは評価を上げ、ポルトガルは評価を下げた。スペインに勝ち、首位通過したクロアチアに対し、ポルトガルは勝ちなしの3引き分け。16チーム中15番目の成績でベスト16に滑り込んだ。

1回攻めれば1回ピンチを迎えるサッカー。ポルトガルの苦戦の原因は守備の不安定さにあった。ぺぺ、リカルド・カルバーリョの最終ラインが深すぎるために招いた弊害だとこれまでにも述べてきたが、この試合、フェルナンド・サントス監督は、38歳のベテラン、R・カルバーリョの起用を断念。代わってサウサンプトンのジョゼ・フォンテを起用し、ペペとコンビを組ませた。このメンバー変更が吉と出た。

守備の充実こそが、グループリーグ3戦との最大の違いで、あるいはクロアチアにとって、それこそが大きな誤算だったかもしれない。この日のポルトガルに、穴らしい穴はなかった。

一方のクロアチアはもともと手堅いチームで穴がない。安定感は24チーム中、随一と言いたくなる充実ぶりを見せていた。よって、試合は動かなかった。お互い、チャンスらしいチャンスは訪れずハーフタイムを迎えた。

約15分の休憩の間、ピッチ上で1人、入念にアップをしている選手がいた。ポルトガル代表の18歳、レナト・サンチェスだ。後半5分、アンドレ・ゴメスに代わり投入されるや、いきなり存在感を示した。ジョアン・マリオとのワンツーを決め、シュートに持ち込むプレーを披露した。

その最大の魅力は馬力と直進性、それにコンタクト能力の高さだ。彼の投入を機に、ポルトガルにはエネルギーが加算されたようだった。

布陣もクリスティアーノ・ロナウドとナニを2トップに置く、中盤フラット型4-4-2から、ウイリアム・カルバーリョをアンカーに据える4-3-3に変更した。

クロアチアのサッカーを完成品とするならば、ポルトガルのサッカーは未完成品だ。開幕から満足できた戦いはひとつもない。試行錯誤の段階にある。逆にメンバーはいじりやすい。布陣も変えやすい。例えば、38歳の大ベテラン、R・カルバーリョは本来、代えにくい選手だ。スタメン落ちはチームの崩壊に繋がりかねない事件だが、チームがうまくいっていないという現実が、それを可能にした。変更が好ましくないものではなくなっている。

ポルトガルのスタメンは実際、試合毎に変わっている。この試合を含めた4試合で、使ったフィールドプレーヤーは20人中の19人。おそらくポルトガルは出場24チーム中、最も多く選手を使っているチームである。

出場チームが16から24に増えたことで、決勝戦まで7試合に。従来より1試合増え、W杯と同数になった。優勝を狙おうとすれば、メンバーのできるだけ多くの選手をピッチに立たせ、選択肢を増やしておく必要がある。7試合を戦うための采配が求められるが、ポルトガルは結果的にそれができてしまっている。

クロアチアは違った。3戦目のスペイン戦こそスタメンを4人代えたが、この日のポルトガル戦を含め、それ以外の3試合は同じ顔ぶれだ。完成品ではあるけれど、決勝戦からフィードバックして考えると、途中で息切れする可能性が高い起用法だ。この4戦目の戦いでも、変化の幅の少なさは、ポルトガルと比べれば明白で、試合時間が長くなるにつれ、選択肢はバラエティがなくなっていった。

ポルトガルがもし7試合を戦うことになれば、グループリーグで大苦戦を強いられたことが薬になる可能性がある。試行錯誤しながらベスト16入りしたことが、結果的に奏功したことになる。

試合内容はほぼ互角。決定的チャンスもお互いほぼなし。両軍選手はさながら難問に向き合う生徒のようだった。試合は延長に入っても動かず、前半の15分が終了した。しかし、延長戦にありがちなダレはなし。犯人が分からぬまま、残り数ページになった小説を読まされているようだった。

ポルトガルはまたメンバーをいじった。アドリエン・シルバに代えてダニーロを投入。布陣を4-2-3-1にした。

R・サンチェス(1トップ下)、ナニ(右)、C・ロナウド(1トップ)、リカルド・クアレスマ(左)。

クロアチアは延長後半、イバン・ペリシッチが立て続けにシュートのチャンスをつかんだ。2度目のヘディングシュートはポスト直撃だった。運がなかったのかもしれない。その直後、右サイドで奪還したボールがR・サンチェスに渡ると、彼は一気に数十メートル前進。右を走るナニにボールを送った。ナニは、マークに駆け寄ったベドラン・チョルルカのまたの間をトーキックで抜くと、ボールはC・ロナウドの前へ。シュートはGKに止められたが、詰めたクアレスマが難なく押し込み決勝ゴールとした。

クロアチアは最後まで粘った。ロスタイム。ドマゴイ・ビダが回し蹴り気味のシュートを放つ。同点ゴールにはならなかったが、この熱戦に相応しいドラマチックな幕切れだった。

両者の実力ほぼ互角。クロアチアは評価が上がりすぎて、負けられない戦いになってしまったきらいがある。逆に苦戦続きで無欲になれたポルトガル。選手の選択に最も可能性を感じさせるチームとして突如、浮上してきた。15番手から一転、トップ4をうかがう勢いがある。

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、2018年ロシア大会で連続10回現地取材となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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