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ジダンのレアル・マドリーにCL連覇はあるか。欧州「4強クラブ」の今季と来季

杉山茂樹スポーツライター

11度目の欧州王者に輝いたレアル・マドリード。だがチャンピオンズリーグ(CL)決勝、アトレティコ・マドリード戦におけるパフォーマンスはかなり低調だった。決着は延長PK。世界に向けて何かインパクトを残したわけではない。勝者という表現がここまでしっくりこない例も珍しい。

メッセージ性の高さで上回ったのはアトレティコ。勝者の資格もアトレティコにあるように見えたが、本領をいかんなく発揮したとは言い難かった。今回はいけそうだと欲が出たのか、動きはどこか硬かった。だが、大会全体を通してみれば、高評価を与えたくなる。

準々決勝でバルセロナに、準決勝でバイエルン・ミュンヘンにそれぞれ勝利を収め、決勝ではR・マドリードに引き分けた。いわゆる3強に対して収めた成績は2勝1分。もし決勝戦が90分ではなく、準々決勝、準決勝と同様に80分の試合ならR・マドリードを仕留めることができたのではないか。ついそう言いたくなる。

3強+アトレティコ。この4チームを中心に回る近年のCLだが、今季(2015~16)の冒頭に立ち返れば、バルサの2連覇なるかがテーマだった。

1988~89、89~90のミラン以来、2連覇を達成したチームは4半世紀以上、現れていない。昨年、ベルリンでの決勝でユベントスを下したとき、このバルサならいけるかも、とピンと来たのは僕だけではなかったはず。わずか1年前の話だ。 

サッカーは運が結果に及ぼす割合が3割あるとされる。単年の勝利には、敗者にタラレバ話で嫌みを言われそうな余地を残すが、2連覇となるとそれはない。文句なし。真の王者になる。アリゴ・サッキに率いられた当時のミランが、そんな感じだった。プレッシング・サッカーという遺産を現代にもたらすことになるスーパーチーム。その域にバルサが迫れるかが今季の焦点だった。

バルサは、欧州サッカー史にスーパーチームとして名を残すことができなかった。準々決勝で、クラブの年間予算わずか1億5000万ユーロ(約190億円)のアトレティコに、その倍以上の予算を誇るチームが、模範的なサッカーを披露され、敗れ去る姿は醜態に近いものがあった。そうした意味で、今季のバルサは敗者だった。

そのアトレティコに準決勝で敗れたバイエルン。こちらはバルサほど格好悪くはなかった。バイエルンにとってもアトレティコは格下。勝つべきはバイエルンだったにもかかわらず敗れた。とはいえ、バイエルンのサッカーには、嘆くべき要素が少なかった。悪くないサッカーをしていながらバイエルンは敗れた。バルサの体たらくを嘆きたくなったそのアトレティコ戦とは、まるで異なる内容だった。

ジョゼップ・グアルディオラとルイス・エンリケの差を見せられた気がした。敗れ去る姿の違いだ。「敗れる時は美しく」とは、クライフの言葉だが、今季敗れ方が美しかったのはグアルディオラだった。

つい先日まで我が世の春を謳歌していたバルサ。15~16シーズンが終了したいま、こちらの関心は、イマイチ判然としない勝者ではなく、分かりやすい敗者に向く。

バルサはR・マドリード、アトレティコを抑え、国内リーグを制した。瞬間、カンプノウはお祭り騒ぎに包まれた。CL決勝が行なわれる2週間前の話になるが、R・マドリードがCLを制したいま、バルセロナ周辺にその余韻はあるだろうか。CLと国内リーグ。重いタイトルはどちらかといえばCLだ。その肝心のタイトルを、宿敵R・マドリードに持っていかれた。

国内リーグも落としていれば、ルイス・エンリケの立場は危うかったろうが、そこのところは死守したとなると続投は濃厚だ。しかし、ルイス・エンリケのサッカーでバルサは大丈夫だろうか。僕には怪しく見える。

2年間続かない。このジンクスは来季、ジネディーヌ・ジダンの双肩にものしかかってくる。グアルディオラも、ジョゼ・モウリーニョも、カルロ・アンチェロッティも達成していない2連覇の偉業を、ジダンがいきなりクリアしてしまう可能性はどれほどか。

とはいえ所詮は新人監督だ。プレッシャーは名将より低い。しかも、欧州一に輝いたとはいえ、決勝はPK勝ち。内容もよくなかった。満足度の低い優勝。昨季のバルサとはその点で大きく異なる。美味しいモノをお腹いっぱい食べてしまった満足感こそが、2連覇のモチベーションを下げる一番の要因になるが、それがジダン率いるR・マドリードには見られない。そのPK勝ちに、思い切り胸を張る厚かましさはない。少々照れくさい勝利との自覚が監督並びにチームに浸透しているなら、連覇の可能性は今回のバルサより膨らむ。

次に2連覇するチームはどこか。その立役者となる監督は誰か。名門度、名将度は、その偉業を達成した瞬間にハネ上がる。バルサ、R・マドリードのいずれかから、それが誕生すれば、もう片方は立ち直れない程のショックに苛(さいな)まれる。R・マドリードのピンチは一転、バルサの大ピンチに切り替わった。おごる平家ならぬ、おごるバルサは久しからず、である。

一方で、一度もおごったことがないアトレティコのディエゴ・シメオネは、来季で就任6シーズン目となる。高位を浮き沈みなくキープ。実は、最も美味しいポジションに延々居座ることができている。そして監督がグアルディオラからアンチェロッティに変わるバイエルン。4強の時代は来季も続くのか。後続の追い上げが、欧州サッカーを面白くする一番の良薬であることに違いはないのだが。

(初出 集英社 Web Sportiva 6月1日掲載)

スポーツライター

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、プレスパス所有者として2022年カタール大会で11回連続となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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