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データで見る欧州クラブ(2)。強いスペイン勢。弱るイタリアを英独が追う

杉山茂樹スポーツライター

チャンピオンズリーグ(CL)はグループリーグ第5節が終了。バルセロナ、レアル・マドリード、アトレティコ・マドリード(以上スペイン)、バイエルン(ドイツ)、ユベントス(イタリア)、マンチェスター・シティ(イングランド)、パリSG(フランス)、ベンフィカ(ポルトガル)、ゼニト(ロシア)が決勝トーナメント進出を決めている。

おなじみの名前が並ぶ中で、多少とも意外といえるのは、バレンシアを下して唯一5連勝を飾ったゼニトだろうか。ただゼニトもこれで5シーズン連続のCL出場。経済力を背景に力をつけてきたロシア勢の代表格として存在感を増してきた。番狂わせとは言えない。欧州クラブランキングは11位。ベスト16入りは順当な結果だ。

CL、ヨーロッパリーグ(EL)などの過去5シーズンの戦績を基に、毎年弾き出される欧州クラブランキング。その過去24年のトップ10を示したものが次の表だ。また下記の順位は、そこにランクインした回数を基に弾き出した上位10クラブだ(カッコ内はトップ10入りした回数。同じ回数の場合は平均順位で勝る方を上位とした)。

UEFAクラブランキング1993−2016〔※印はタイ)
UEFAクラブランキング1993−2016〔※印はタイ)

1位=バルセロナ(24回)、2位=R・マドリード(20回)、3位=バイエルン(17回)、4位=マンチェスター・ユナイテッド(17回)、5位=アーセナル(15回)。6位=ミラン(14回)、7位=ユベントス(13回)、8位=インテル(13回)、9位=ポルト(11回)、10位=チェルシー(10回)。

欧州の10大クラブと言っていい。

国別に分類すれば、イタリア3、イングランド3、スペイン2、ドイツ、ポルトガル各1となる。表からも明らかなのは、イタリアに現在、勢いがないことだ。2016年現在のランキングでトップ10内にいるのはユーベ(8位)ただ一つ。ミランとインテルは、それぞれ23位、27位と圏外に大きく後退中だ。過去2年間はトップ10にいたクラブが一つも存在しなかった。

イタリアに勢いがあったのはこの表の前半部分。2000年までになる。サンプドリア、ラツィオ、そして96年に2位まで上り詰めたパルマ。イタリア3強(ミラン、インテル、ユーベ)以外の3クラブ、計6クラブがトップ10入りを果たすなど、かつてのセリエAは現在とは比較にならないほど高いレベルにあった。

ラツィオとパルマは、ミラン、ユーベ、インテル、ローマ、フィオレンティーナとともに、いわゆる「ビッグ7」に属していた。セリエAで優勝の可能性を秘めたクラブ。一言でいえばそうなるが、それは欧州の強豪と同義語だった。だが現在、イタリアのクラブに、そのまま欧州でも強豪として通った2000年以前の面影はない。

イタリアと正反対の図式を描いているのはスペイン。バルサとR・マドリードは現在もかつても、ほぼ変わらぬポジションにいるが、2000年以降は、「2強」以外のクラブも、トップ10内に目に付くようになった。

バレンシア、アトレティコ・マドリード、セビーリャ、デポルティーボ。かつてのイタリアで言うところの3強以外(パルマ、フィオレンティーナ、ラツィオ、ローマ)以上の成績を、欧州クラブ戦線で残している。

欧州の10大クラブは、いわば平均していつも強いクラブだ。現在のミランのような例外はあるが、浮き沈みはそれ以外のクラブより少ない。ということは、その国の状態は、それ以外のクラブの動向、浮き沈みを探ることで明らかになる。欧州の姿は見えてくる。

14~15シーズン、R・マドリードとCL決勝を争ったアトレティコ。99~00、00~01シーズン、連続してCL決勝に駒を進めたバレンシア。

ちなみに、前述したスペインの2強以外の4クラブは、合計すると24年間で22回、トップ10にランクインしている。クラブ別では、1位がバルサで24回、2位はR・マドリードの20回。つまり、4チームの合計は、R・マドリードに勝ることになる。2大クラブならぬ3大クラブ。ただし3番目はそのつど入れ代わる。名前がハッキリしないその3番目のクラブが、どこまで欧州で活躍するか。それこそがスペインリーグの健康度を推し量る物差しだと言える。

ドイツのブンデスリーガは、2強ではなく1強だ。欧州10大クラブに属するのはバイエルンただ一つだ。国内2番手のドルトムントの欧州クラブランキングは現在18位。その他でランク経験があるのはシャルケ、ブレーメンで、各1回ずつだ。バイエルンを含む4クラブすべてを合わせたドイツ勢としても、トップ10入りは計23回にとどまる。

バルサ単体(24回)にも及んでいない。今季のCLこそはバルサ対バイエルンの決勝対決が見たいと思っている人は少なくないと思われるが、そこでバイエルンがバルサを下しても、ブンデスリーガとスペインリーグの関係には影響は及ばない。バイエルン以外がどれほど頑張るか。それなしにスペインとの差は詰まらない。

イングランドが他と異なるのは、欧州10大クラブに入った3クラブ(マンU、アーセナル、チェルシー)と、リバプール(トップ10入りした回数は12位)で、ほぼすべてが完結していることだ。リバプールに続くクラブがいない。

ここ何年か、リバプールに代わる存在として欧州を湧かせているマンチェスター・シティは現在のランキング15位。10位以内に飛び込み、この表内に現れるためには、CLでベスト8入りする必要がある。だが、これまで出場した5回中、マンCは4回ベスト16で泣いている。ベスト8の壁を越えられずにいる。今季の行方が注目される。

イングランドの4クラブがトップ10入りしたすべての回数は40回。これは、スペイン65回、イタリア53回に次ぐ欧州3位の成績になる。4位はドイツで23回とは前述の通りだが、これは欧州戦線に基づくリーグランキングそのものだ。まだまだ突き放す勢いがあるスペイン。スペインを追う立場と言うよりイングランドに追われる立場にあるイタリア、近年、脚色が若干鈍りつつあるイングランド。その差を最近僅かに詰めたドイツ。

フランス、ポルトガル、ロシア等がその後方に控える。欧州サッカーの歴史と現実、各クラブの立ち位置等々をイメージしながら今シーズンのCLを眺めると、ストーリー性はいっそう増す。戦いの意味は膨らむと思う。

(Web Sportiva 11月27日掲載原稿)

スポーツライター

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、プレスパス所有者として2022年カタール大会で11回連続となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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