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症状が悪化したイラン戦。ハリルジャパンはパスサッカーを捨てた?

杉山茂樹スポーツライター

イラン戦を通して、ハリルジャパンの将来に明るい光を見た人はいないだろう。暗雲に覆われ視界不良に陥ったまま。症状は試合を重ねるたびに悪化している。 

ハリルホジッチの就任以来、日本代表のサッカーの質は大きく変化した。ひと言でいえば、つまらない。勝ち負け以前の問題として、単純に見ていて楽しくないのだ。その試合観戦をきっかけに、サッカーファンになる人はどれほどいるだろうか。サッカーの魅力を再認識する人も少ないだろう。ハリルジャパンはエディージャパンの反対語になっている感じだ。

不正確。ミスが多すぎる。持っている実力より、大抵の選手が下手に見えてしまう。何よりパスが繋がらないところに不快感を覚える。

これまでにはなかった展開だ。

少なくともアギーレ時代まで、パスはよく繋がった。10本ぐらいパスを繋いでも、10メートルぐらいしか前進しなかったり、進むべき方向が間違っていたり、その割に決定的なチャンスは少なかったりしたが、良くも悪くもそれが日本のスタイルだった。つまりパスを繋ぐことでマイペースを確保する「パスサッカー」だった。

その看板は、ハリルホジッチ就任を機にすっかり降ろされた状態にある。パスサッカーの負の側面のみならず、正の側面まで失われている。

その昔、トルシエがいきなり「フラット3」をやり始めた時に似た状態にある。来てみたらビックリ。そんな感じだ。

「方向性は間違っていない」

ブラジルW杯敗退後、原博実サッカー協会専務理事、大仁邦彌会長ともどもそう口にした。方向性とは具体的に何を指すのか曖昧だったが、従来のやり方に大きな間違いはないとの判断を彼らはそこで下している。日本サッカー協会として、方向性を大きく修正しようとしたわけではなかった。そしてまず、アギーレがやってきた。アジアカップではベスト8に沈んだが、方向性に疑問を抱くことはなかった。ザックジャパンの負の部分を修正しながら、前進しようとする姿勢は見て取れた。

その延長線上にハリルホジッチは位置していない。攻撃的サッカーが守備的サッカーに変わったとは言わないが、日本代表の正の部分はすっかり失われている。

これでも「方向性は間違っていない」と言い切れるのか。もう一度訊ねてみたくなる。

だからといって、新しい立派な看板が掲げられたわけではない。それで日本代表に新たな魅力が備わったのなら、あるいはその予感を感じさせてくれるなら、ギリギリ納得したくなる。次回W杯は、新たな価値観に懸けてみようじゃないかと言い出す人がいてもいいと思う。だが、就任以来数ヵ月が経過してもこの有様では、そのまま前進することに激しく抵抗したくなる。巨大迷路に迷い込んでしまった状態。まさに五里霧中だ。

正の側面は消える一方で、負の側面は依然として残ったままだ。ボールは良い形で奪えないし、逆に悪い形で奪われる。この監督で大丈夫なのか。監督交代を叫ぶ声がまだ耳に届くことはないが、声は上げないまでも、内心マズイんじゃないと思っている人は多いと思う。

選手の質が右肩上がりにないことは事実だ。メディアが「プラチナ世代」としきりに煽る武藤嘉紀、宇佐美貴史、柴崎岳らは、かつての中田英寿、小野伸二、中村俊輔に匹敵するだろうか。「ブロンズ世代」がいいところだ。香川真司、本田圭佑、岡崎慎司に今後、昇りの階段は用意されているだろうか。今季のチャンピオンズリーガー、0。これが現在の日本を端的に物語る数字だ。

世界ランキング(現在55位タイ)通りだと思う。これを2018年6月までに、16番以内に持っていくためには、サッカーの質がよほど優れている必要がある。考え得る限り最高のサッカーをしないと、そのラインには届かない。すなわち、可能性はゼロではないと踏んでいるわけだが、そのためには、思いっきり優れた代表監督の存在が不可欠になる。

2018年6月。つまり2年8か月後から逆算すれば、計画は大幅に遅れている。新国立競技場の建設より、だ。この状況にもっと慌てるべきだろう。ハリルジャパンをこのまま放置することは、楽観主義者の発想だ。予選を勝ち進むその姿をメディアは毎度「結果は出している」と肯定する。この言い回しをお約束のように使うが、アジア予選は結果ではない。過程だ。

アジア2次予選を戦ういまの段階は、マラソンでいえばせいぜい5キロ地点。通過して当たり前の状況だ。「結果」を出している相手は、世界ランク100番台の国。ハリルジャパンを取り巻くムードを見ていると「ベスト16に行きたくないのか」と言いたくなる。

ハリルホジッチがやりたいことは見えている。攻撃にスピードを求めようとしているわけだが、それは従来の方法論でも十分に演出できる。スピードではなく、スピード感。言い換えれば、緩急だ。投手が140キロのストレートを速く見せる方法。目の錯覚を利用する方法を追求すれば、日本サッカーの問題は解決する。

その一つが、シリア戦後の原稿でも述べたとおり、サイドチェンジであり、サイドにおける前後の流動性だ。サイド攻撃。サイドバックの活躍とその高いポジショニングだ。そのためにはどうするかを追求せず、高校サッカーを見るかのような、無理矢理で、単純かつ非論理的な攻撃に走るハリルジャパン。

日本には、無理を可能にするロッベン、ファン・ペルシーのようなスーパーFWはいないのだ。このサッカーではアジア最終予選さえ危ない。4、5番手争いがいいところだと僕は思う。

(集英社・Web Sportiva 10月14日掲載原稿)

スポーツライター

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、プレスパス所有者として2022年カタール大会で11回連続となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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