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バルサの気質と日本人の気質

杉山茂樹スポーツライター

バルセロナがミランに逆転勝ちをした。

チャンピオンズリーグ決勝トーナメント1回戦。2対0ミラン勝利という第1戦(ミランホーム)の結果を受けて行われたその第2戦で、バルサは4対0で勝利を飾り、通算スコア4対2でベスト8進出を決めた。

2点ビハインドでこの試合を迎えたこの試合。バルサは立ち上がりから攻めた。前半5分にメッシが先制すると、前半39分にもメッシが追加点をマーク。この段階で、スコアをイーブンとした。

そして後半10分、バルサは逆転ゴールを挙げ、通算スコアは3対2に。

ミランの反撃はそこから。ゴール前に引いていたそれまでとは一変。積極的にゴールを狙いに行った。舞台はバルサのホーム「カンプノウ」。つまり、ミランの得点はアウェーゴールだ。ミランが次にゴールを決めれば、通算スコアは3対3ながら、アウェーゴールルールにより、ミランが試合を最逆転することなる。試合はクライマックスに達した。

バルサもクラブの哲学通り、引くことなく4点目を狙いに行ったので、試合はここでようやくかみ合った。緊張感溢れるいい感じの撃ち合いになった。

ミランは惜しいチャンスを何度か作った。だが、終了間際、バルサにダメ押しの4点目を奪われ万事休す。チャンピオンズリーグの舞台から消えていった。

やっぱりバルサは強かった、と、バルサを讃える声が聞こえてきそうである。もちろんそれに反論するつもりはない。しかし、少なくとも僕は、それと同じくらい、ミランの戦いぶりを嘆きたくなってしまうのだ。なぜ、ミランは立ち上がりから、あれだけ引いてしまったのか。ゴール前を固める消極的な作戦に出たのか。敗因はそこにあるのではないか。

ミランというクラブは、伝統的にバルサに比べて攻撃的ではない。これまでの経緯を踏まえれば、引いて守ることは十分予想できたことだ。しかし、バルサに逆転ゴールを奪われた後、前に出て行くミランの姿を見ていると、だったらなぜ最初から引かずに、普通に戦わないのかと思わずにはいられない。実際ミランは、それで惜しいチャンスを作っていた。

これは好み、趣味の問題でもあるけれど、悔いが残る負けだと思う。このホーム&アウェー戦で、ミランが持てる力をフルに発揮した時間帯は、どれほどあっただろうか。その大半は引いて構えていた。それをバルサに強いられた面もあるが、半分は能動的だった。作戦として意図的に演じていた。

それで守りきることができれば、作戦的中という話になるが、結果が出なかった場合は少々哀れだ。悪い負け方に映る。

また、3対2と試合を逆転したバルサが、その後も、それまでと同じように、前に向かって突き進む姿に、違和感を覚えた人も少なくないはずだ。なぜもう少し、引いて守ろうとしないのか。ミランの反撃に混乱するその姿に、大人げなさを感じる人がいたとしてもおかしくない。

もしバルサが、ここでミランにゴールを許し、敗れていたらどういう感想を抱くだろうか。引いて守った末に、逆転負けを喫したミランと、どちらの敗戦に納得するだろうか。

ミランファンはミランの負け方、バルサファンはバルサの負け方を支持するのだろうけれど、僕が支持したいのは、やっぱりバルサの負け方になる。究極の選択に近いモノがあるけれど、いつどんな精神状態であっても、答えは同じだと思う。

繰り返すが、それは完全に好み、趣味の問題だ。堅くいえば主義、哲学。それを無理に押しつけるつもりはない。とはいえ、少々強引にいえば、サッカー評論の核は、好き嫌いになる。主義、哲学を論じ合うモノだと僕は思っている。「僕はこう思う」。これこそが相応しい言い回しになる。

ミランの戦いに違和感を覚えない人がいることは、十分承知しているつもりだ。しかし、そこにあえて踏み込み、ひとこと異を唱えることによって、対立軸はグッと鮮明になる。議論もサッカーのエンタメ性も膨らむと僕は見ているが、それはともかく、最後にひとつ問いたい。

「バルサのようなサッカーを」とは、いま猫も杓子も囁く台詞だが、それを口にする人には、バルサのような覚悟はあるのだろうか。攻撃精神を3対0になっても最大限発揮する覚悟は。

日本人の気質は概してバルサ的というより、ミラン的だと思うのだが。

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スポーツライター

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、プレスパス所有者として2022年カタール大会で11回連続となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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