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「お互いに世界王者になろう」WBO王者・谷口将隆とWBA 王者・京口紘人。ライバル同士の約束と友情

杉浦大介スポーツライター
撮影・杉浦大介

 6月10日、WBA世界ライトフライ級スーパー王者・京口紘人(ワタナベ)はメキシコのグアダラハラで同級正規王者エステバン・ベルムデス(メキシコ)と4度目の防衛戦を行う。ケガもあって、約1年3ヶ月ぶりとなったリング登場が危険な敵地でのタイトル戦。重要な一戦を迎える京口を、ジムメイトのWBO世界ミニマム級王者・谷口将隆もメキシコに同行してサポートしている。

 2016年にワタナベジムに入門し、ともに世界王者になった谷口と京口。兄弟のように仲がいい現在28歳の2人はどのように友情を育み、どうやって成長してきたのか。京口の防衛戦の2日前、メキシコのホテルで谷口にじっくりと話を聞いた。

学生時代の元ライバルがジムメイトに

――京口選手との関係は、親友&ライバルという感じでしょうか?

谷口将隆(以下、MT) : 親友、ライバル、同期といろいろですね。(ワタナベジムの)寮も一緒で、“同じ釜の飯を食った仲”という言い方もできます。仲はいいですよ。本当に一緒に過ごしやすくて、この歳になるとそういう人間は少ないと思うんです。彼から吸収するものもあります。同じジムでやってきて、こうして(世界王者という)立場も一緒になりました。

――京口選手も谷口選手が近くにいると心強そうな感じがします。

MT : だからこうしてここにいます(笑)。今回は完全にサポート役です。昨年3月のアメリカでの試合の時もそうでしたが、(同行するのが)当たり前になっていますね。それはそれで嬉しいことです。彼にサポートされてばかりで、自分は力になっていないと思っていたんですけど、(来て欲しいと)言ってくれるのなら少しでも力になれているんだなと思いますし、嬉しいです。

――今では互いに世界王者同士ですが、京口チャンピオンがすごいなと思うのはどういったところでしょう?

MT : ボクシング(の技術)ももちろんなんですけど、最近すごいなと思うのは、いい意味で図太い神経ですね。どういう環境になっても適応、対応できる。メキシコの試合でも、普通の日本人ならコンディションに影響があるじゃないですか。それがいつも通りに過ごしている。いい意味での鈍感さ、図太さというのは彼の強みだなと思います。いろんなすごい面があるんですけど、最近思うのはそういうところです。

――2人が知り合ったのはいつ頃でしょうか?

MT : 2016年、ワタナベジムに一緒に入門して同僚になりました。ただ、もともと中学校3年生から知り合いで、以降はライバルみたいな感じでずっと試合をしていました。僕は兵庫、彼は大阪の出身だったので、近畿大会、全国大会で対戦したり、大学でも関西同士だったのでリーグ戦で当たったりしましたね。

――2人の対戦成績は?

MT : 6回対戦して、2勝4敗です。京口には「(差は)一生埋まらないな」と言われています(笑)

――3勝3敗に持ち込めなかったのが悔やまれますね(笑)

MT : 最後、大学のリーグ戦で戦ったんですけど、その時点まで2勝3敗だったんです。僕が勝てば3勝3敗。その前年は僕が2連勝していたので、まあ大丈夫やろうという考えでした。彼の方は(並ばれるのが)めちゃくちゃ嫌だったみたいで、すごい研究、対策をしてきて、普通に負けてしまいました。そこで僕が勝って、3勝3敗だったらまた違った人生だったかもしれないですね(笑)

メキシコでの京口の練習時も谷口は常にサポートする 撮影・杉浦大介
メキシコでの京口の練習時も谷口は常にサポートする 撮影・杉浦大介

上京時の公約を守る

――2人で同じジムに行こうと話し合って、ワタナベジムを選んだんですか?

MT : いえ、それも面白い話があるんです。さっき話した大学最後のリーグ戦の際、ワタナベジムの元トレーナーだった井上(孝志)さんが京口をスカウトにきたんですよ。そのときに対戦していたのが僕でした。京口に負けたやつも取ってみようとなったみたいで、井上さんが僕にも声をかけてくれたんです。それでお互いに行きますってことになったわけです。ワタナベジムの目玉は京口だったので、入門当時の僕は彼のおこぼれだったんです(笑)

――そう仰いますが、元ライバルの2人が親友同士になり、今やどちらも世界チャンピオン。素晴らしいストーリーだと思います。

MT : 「お互いに世界チャンピオンになろうな」って言って、東京に出てきました。そうやって昔、交わした約束を守れたというのは、すごい自信になりますし、これからの人生で糧になることだと思っています。

――京口選手が試合をしている時はどういった気持ちなのでしょう?

MT : 緊張しますね、やはり。京口以外にもジムに仲の良いメンバーがいるんですけど、京口や彼らの試合は自分の試合よりも緊張して、はらはらしながら見ています。

――京口選手は今回、メキシコで約1年3ヶ月ぶりの試合に臨みます。ケガもあってしばらく試合ができない間、辛そうな姿も見てきたと思いますが、どんな戦いを期待しますか?

MT : 京口が大きいケガをしたのはたぶん初めてだったと思います。だから試合ができない間、不安は大きかったと思います。そんな彼と他愛もない会話から、試合したいなといったことまで、いろいろな話もしてきました。これまでの彼の姿を見てきたからこそ、今回は特に良い結果を残して欲しいですね。

スポーツライター

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している

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