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最強王者カネロを直撃「村田諒太との共通点、日本への思いと井上尚弥の評価」

杉浦大介スポーツライター
(筆者撮影)

 世界中のボクシングファンの注目を集めたゲンナジー・ゴロフキン(カザフスタン )対村田諒太(帝拳)戦から2日―――。

 現地時間4月11日、アメリカ・カリフォルニア州サンディエゴのジムで練習する4階級制覇王者サウル・“カネロ”・アルバレス(メキシコ)を訪ねた。かつて村田との対戦が話題になったこともあるカネロ。現役最強とも称さる王者は、5月7日のWBA世界ライトヘビー級王者ドミトリー・ビボル(ロシア)とのタイトル戦をクリアすれば、村田を下したばかりのゴロフキンとの第3戦が内定していると伝えられる。

 そのカネロは、ゴロフキンをどう見ているのか。かつて憧れた日本への思いは依然として抱いているのか。英語が上達し、通訳も必要なくなったカネロは、これまでのキャリアを丁寧に振り返ってくれた。その過程で、“日本史上最大の一戦”で敗れたばかりの村田とカネロの共通点も浮かび上がってきた。

まさかの一言から始まったインタビュー

――まずは4月9日に開催されたゴロフキン対村田戦の感想を聞かせてもらえますか?

サウル・アルバレス(以下、SA):実はその試合の映像をまだ見ていないんですよ。DAZNで配信された時間帯は早朝でしたし、まだハイライト映像さえも見ていません。どちらが勝ったかは知っているし、試合を報じる写真は見ました。結果を聞いても、驚きはありませんでした。ただ、村田はとてもいい戦いをしたとも聞いています。

(写真:森田直樹/アフロスポーツ)
(写真:森田直樹/アフロスポーツ)

――本当はゴロフキン対村田戦の分析をあなたにお願いしようと思っていたのですが、質問を変えます。ゴロフキン戦後、村田は「プロ転向後、ボクシングが楽しくなかった」と言って涙を流しました。あなたはどうでしょう?ボクシングを今でも楽しめていますか?

SA : 私はボクシングが大好きですよ。説明するのは難しいですが、本当に好きなんです。ジムにいると、このスポーツをするために生まれてきたんだと感じられます。リングで戦うとき、ジムでトレーニングするときの気分は最高です。その気持ちはずっと変わりません。

――あなたと村田はタイプもキャリアも違いますが、母国の期待を一身に背負ってきたという意味で似た部分はあるように思います。村田は莫大なプレッシャーを背負って戦い続けたのだと思いますが、あなたは重圧を感じませんか?

SA : キャリアを振り返ってみると、若い頃はそういったプレッシャーを感じていました。周囲の人たちは、私に多くのことを期待しているように感じられたんです。ただ、今では私も経験を積み、自分が何をすべきかがわかるようになりました。ジムのトレーニングでも、試合でも、自分の仕事をやればいいんだと気づいたんです。

メイウェザーに負けて学んだもの

――重圧を感じなくなったのはいつ頃ですか?

SA : (2013年9月の)フロイド・メイウェザー(アメリカ)戦のあとです。あの試合までは、いろんな人と接する中で、あれをしなくちゃいけない、これをしなければいけないとプレッシャーを感じていたように思います。ただ、メイウェザー戦では敗れはしましたが、「いつか自分がベストファイターになるんだ」と感じ、やるべきことをやればいいと思うようになりました。あの試合前後から多くのことを学んだと思っています。

(写真:ロイター/アフロ)
(写真:ロイター/アフロ)

――ゴロフキン戦の試合後、「やっと少し楽しめた」と述べた村田の話ともやはり共通点があるように感じられます。個人的には、2018年9月のゴロフキンとの再戦に勝利してから、あなたは表情が穏やかになり、よく笑うようになったと感じています。

SA : あの試合も確かに大きかったですね。あそこで(ゴロフキンに)勝って、私は全盛期にいると感じることができました。実はあの頃まで、プライベートに問題を抱えていて、それがプレッシャーにつながっていました。それが試合前、プライベートまで含めた自分の人生が変わり、おかげですべてがいい方向に向かっていったんです。

――何が問題だったのか明かしてもらうことはできますか?

SA : いや、それはだめです(笑)

ビボルとの対戦を選んだ理由

――そうですよね(笑)。それ以降、連勝を続けるあなたは5月7日、ライトヘビー級でも評価の高いビボルに挑戦します。スキルとフットワークに秀でた相手だと思いますが、なぜ対戦相手に選んだのでしょう?

SA : 私は挑戦するのが好きだからです。ビボルは本当にいい選手ですよ。堅実で、ライトヘビー級で長期間、王者であり続けてきました。私は常にそういった選手と戦いたいという思いがあります。難しい相手だからこそ、挑戦したいと思えるのです。

――ビボルの長所はどこにあると感じていますか?

SA : 強さ、賢さの両方を持った選手でもあると思います。特に試合の立ち上がりは私にとって非常に難しい戦いになると予測しています。判定までいくかもしれない?そうかもしれませんね。ただ、ボクシングでは何が起こるかわからないもの。私はいつでもKOを狙っていくとだけは言っておきます。

――ライトヘビー級戦線は、6月にWBC、IBF王者アルトゥール・ベテルビエフ(ロシア)とWBO王者ジョー・スミス・ジュニア(アメリカ)が3団体統一戦を行う計画があります。その勝者と対戦し、スーパーミドル級に続き、ライトヘビー級も4団体統一するのが今のあなたの目標なのでしょうか?

SA : それは魅力的なプランです。スーパーミドル級に続き、ライトヘビー級も統一し、2階級を2年以内という短期間で統一できたら素晴らしいでしょう。ボクシングの歴史に名前を刻むことが私の目標であり、それが今のモチベーションになっています。

ゴロフキンとの第3戦にいま思うこと

――ビボル戦に勝利した場合、その後はゴロフキンとの第3戦が内定していると伝えられています。この時点でなぜゴロフキンとの第3戦を決断したのですか?証明すべきことがまだ残っているのでしょうか?

SA : 私はまず、次のビボルとの試合に集中しなければいけません。すべてはそれからです。ゴロフキン戦に関しては、(プロモーターの)マッチルーム・スポーツとDAZNのアイデアでした。(ゴロフキンとの第3戦を)実現させれば、ファンが喜ぶこともわかっています。

――マニー・パッキャオ(フィリピン)対ファン・マヌエル・マルケス(メキシコ)のシリーズのように、あなたとゴロフキンは何度戦ってもファンを喜ばせる激闘になると見る人もいますが、そんな予想について思うことは?

SA : そうだといいですね。もちろん私が勝つことが条件ですが(笑)。今の私は自信があり、自分が全盛期にいると感じることができています。ただ、リングの上では何が起こるかはわからないものです。

――一方で、ゴロフキンが40歳を迎えた現時点でのスーパーミドル級での対戦では、31歳のあなたが圧勝すると考える人もいます。

SA : 簡単な試合なんてあり得ませんよ。ボクシングは難しいものであり、イージーな戦いは存在しません。私はそう考えて臨んでいます。一生懸命練習して、自分の仕事をやれば楽勝できると思う人もいるのかもしれませんが、実際はそうはならないのです。(ゴロフキン戦に限らず、)すべての試合で同じです。

(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)
(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

「日本での試合はずっと私の夢」

――今が全盛期と何度か仰っていますが、あとどのくらいボクシングを続けるのでしょうか?

SA : それはわからないですよ。あと5、6年かもしれないですし、もっとかもしれません。少なくとも今は、ボクシングをやらない自分というものが想像できません。

――あなたは以前から来日戦の希望を述べていますが、いずれ日本でも戦いたいという気持ちに変わりはありませんか?

SA : いつか実現させられたらいいですね。もうずっと前の話ですが、亀田ブラザーズの試合の際にトレーナーのエディ(・レイノソ)と一緒に日本に行ったのは今でもいい思い出です。会場に集まった日本のボクシングファンの反応や歓声がとても印象的でした。すぐに気に入って、ここで戦いたいと思ったんです。それ以降、日本での試合はずっと私の夢の1つであり続けてきました。

――世界最高級の選手として評価される日本人ボクサー、井上尚弥(大橋)のことは知っていますか?

SA : もちろんですよ。井上の試合は何試合か見ましたが、本当に素晴らしいボクサーだと感じました。自信に満ち、それでいて規律がしっかりしていますね。パワーがあり、前に出ていく積極的な戦いぶりが好きです。強さと頭の良さを兼ね備えた選手だと思います。いずれパウンド・フォー・パウンドでも1位に?彼には間違いなくそれだけの能力があると思います。

 サウル・“カネロ”・アルバレス

 1990年7月18日生まれ 31歳 メキシコ、グアダラハラ出身

 戦績:57勝(39KO)1敗2分 スーパーウェルター級、ミドル級、スーパーミドル級、ライトヘビー級を制し、4階級制覇を達成。2020年12月以降、スーパーミドル級の3人の王者を下し、わずか約11ヶ月間で同級の4団体統一を果たした。リングマガジンが定める全階級ランキング、パウンド・フォー・パウンドでは堂々の1位にランクされる。

過去のインタビュー記事

「村田諒太と日本で戦うのか?」4階級制覇王者カネロ・アルバレス直撃インタビュー

 【この記事は、Yahoo!ニュース個人の企画支援記事です。オーサーが発案した企画について、編集部が一定の基準に基づく審査の上、取材費などを負担しているものです。この活動は個人の発信者をサポート・応援する目的で行っています。】

スポーツライター

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している

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