8月21日 ネバダ州ラスベガス T-モバイル・アリーナ

WBAスーパー世界ウェルター級タイトル戦

WBA休養王者

マニー・パッキャオ(フィリピン/42歳/62勝(39KO)7敗2分)

12回戦

WBAスーパー王者

ヨルデニス・ウガス(キューバ/35歳/26勝(12KO)4敗)

 “事実上の8階級制覇”を成し遂げた英雄パッキャオの約2年1ヶ月ぶりの復帰戦が間近に迫っている。対戦相手はキューバの実力者ウガス。エロール・スペンス・ジュニア(アメリカ)の故障離脱ゆえに迎えた代役対戦者を、42歳になったパッキャオは退けることができるのか。来年5月のフィリピン大統領選に出馬が予想されるパッキャオにとって、今戦がラストファイトとなるのか。

 今回、ラスベガスを訪れた3人の記者に5つの質問をぶつけ、パッキャオ対ウガス戦の行方とパッキャオの今後を占ってみた。

パネリスト

ダン・レイフィール(元ESPN.comの著名なボクシング記者で、現在はフリーランスライターとして健筆を振るう。日本では”ラファエル”と表記されることが多いが、実際の発音は英語読みのレイフィールが正しい Twitter : @DanRafael1)

ディラン・ヘルナンデス(ロサンジェルス・タイムズのコラムニスト。メキシコ系アメリカ人。語学に堪能で、英語、スペイン語、日本語を流暢に話す Twitter : @dylanohernandez)

マルコス・ビレガス(Fight Hub TVの創始者、インタヴュアー。FOXのボクシング中継で非公式ジャッジを務める Twitter : @heyitsmarcosv)

1. パッキャオがウガスに勝つためにやるべきことは?

レイフィール : パッキャオはスピード、タイミングの良さ、クイックネスといった武器をいかし、パッキャオらしく戦えばよい。キース・サーマン(アメリカ)戦のように戦えば勝利は見えてくるし、全盛期の75%くらいの力だったとしても依然として優れたボクサーだ。ウガスも良い選手だが、様々な角度から飛んでくるパッキャオのパワーパンチに対処するのは難しいだろう。

ヘルナンデス : 一夜にして急激に老いることがない限り、パッキャオが有利だ。ウガスはジャブを出すときに顔面が空き、右も大きくなりがちなので、パッキャオはそこにパンチを打ち込めるはずだ。ただ、相手のガードに隙を見つけても、衰えた選手はそこにつけ込むことができなくなるもの。これまでのパッキャオが大きな衰えを見せていないからといって、それが明日に起こらないとは限らない。

ビレガス : サイズで上回る相手に対し、自身のパンチが当たる距離で戦い、カウンターをもらわないこと。パッキャオが自らのスピードとパンチのアングルを生かし、中間距離で戦い、ウガスを下がらせるようであれば自ずと勝利は見えてくる。

フレディ・ローチ・トレーナー(右)はパッキャオの順調な仕上がりを強調している Sean Michael Ham / TGB Promotions
フレディ・ローチ・トレーナー(右)はパッキャオの順調な仕上がりを強調している Sean Michael Ham / TGB Promotions

2. ウガスがパッキャオに勝つためにやるべきことは?

レイフィール : 私がウガスの立場だったら、序盤から積極的に仕掛けると思う。パッキャオは2年以上もリングから離れており、しかももともと速攻型というわけではない。開始早々にウガスが良いパンチを決めれば、つけ込む隙が生まれるかもしれない。序盤を制することができなかった場合、パッキャオのパンチを見切るのは容易ではなくなる。ウガスは顎が強いように見えるし、パワーもまずまずで、アマチュアの経験も豊富な好選手だが、それでも独特の角度から放たれるパッキャオの連打は厄介だろう。

ヘルナンデス : ポイントとなるのは、パッキャオが攻めてきた時に、その攻撃を食い止める術がウガスにはあるかどうか。ウガスはキューバ人であっても足を使うタイプではないが、規律正しく、注意深く戦い、パッキャオを好調時の奔放なリズムに乗せないように気を配るべきだ。サイズでは上回っているので、必要とあらばホールディングで受け止めるのもいい。

ビレガス : ウガスは他のキューバ人選手ほどに足を使うわけではないが、だからといってパッキャオと必要以上に打ち合うべきではない。テクニックはあっても、スピード、フットワークでは劣っており、いずれにしても厳しい試合になる。うまくタイミングを測り、カウンターを狙うべきだろう。それがうまくいかなかった場合、オーストラリアで番狂わせを起こしたジェフ・ホーンと同じように、距離を詰めてフィジカルに戦うのも良いではないか。

日本でもお馴染みのイスマエル・サラス・トレーナー(左)とともにパッキャオ の撃破を目論むウガス Sean Michael Ham / TGB Promotions
日本でもお馴染みのイスマエル・サラス・トレーナー(左)とともにパッキャオ の撃破を目論むウガス Sean Michael Ham / TGB Promotions

3. 対戦相手の直前変更はどちらに影響すると思うか?

レイフィール : 両選手ともにもうベテランだから、大きな影響があるとは思わない。ただ、もともとアンダーカードでファビアン・マイダナ(アルゼンチン)という無名選手と防衛戦を行うはずだったウガスは、代わりにメインで“レジェンド”と戦って高報酬を得ることになったわけで、人生最大の機会を得てエキサイトしているだろう。一方、パッキャオはウガスを見過ごしはしないとしても、スペンス戦ほどのメガファイトではなくなったことに心のどこかで落胆している部分はあるかもしれない。

ヘルナンデス : パッキャオは70戦以上をこなしてきた大ベテラン。ウガスもキューバでのアマチュア時代から様々な相手と戦ってきている。2人とも経験豊富なだけに、大きな問題にはならないだろう。

ビレガス : パッキャオはサウスポーのスペンスと戦うため、ウガスはオーソドックスのマイダナと戦うため、それぞれ長いキャンプを行ったわけだから、もちろん影響はある。ただ、パッキャオは2008年にデビッド・ディアス(アメリカ)と戦って以降、常にオーソドックスの選手と戦ってきており、右利きの相手にはもう慣れているに違いない。一方、アマ歴が長いウガスも多くのサウスポーと対戦経験があるに違いないが、パッキャオのようにスピードがあり、どこからパンチが飛んでくるかわからない選手に対処するのは簡単なことではない。影響はウガスの方に大きいのではないか。

4. 試合予想

レイフィール : パッキャオが明白な判定勝ちを飾る。私はウガスもリスペクトしているが、実績の違いは大きい。もう2年前の話とはいえ、サーマン戦でのパッキャオはまだ力を残していた。

ヘルナンデス : 序盤からパッキャオがペースを掴み、6、7回にKOする。早い回に主導権を握りきれなかった場合、パッキャオは疲労し、勝負は判定にもつれ込むと見る。

ビレガス : パッキャオが終盤にTKO勝ちする。ワンパンチKOではないだろうが、パンチをまとめてストップに持ち込む。

レイフィール記者もパッキャオ有利と予想している 撮影・杉浦大介
レイフィール記者もパッキャオ有利と予想している 撮影・杉浦大介

5. ウガス戦はパッキャオのラストファイトになるか?

レイフィール : まず試合を見ないことには、その話をするのは難しい。ちょうどパッキャオのキャリアを追いかけてきたフィリピン人記者と話したばかりだが、私の意見も彼と同じで、もしもウガスに敗れた場合には、おそらくこれが最後の試合になるだろう。一方、勝った場合、大統領選挙への出馬によってブランクはできるとしても、またリングに上がるのではないか。

ヘルナンデス : 実際に最後の試合になるとは思わないが、個人的にはそうなることを望んでいる。これまでのボクシング界で繰り返されてきたように、年老いた選手が若手に痛めつけられる姿は見たくない。フリオ・セサール・チャベス(メキシコ)がオスカー・デラホーヤ(アメリカ)に負け、デラホーヤがパッキャオに痛めつけられたように、パッキャオもスペンスに引導を渡される流れになっていた。パッキャオはここで引退し、そんな連鎖を止めて欲しい。ただ、予想するなら、パッキャオは来年の大統領選挙前に人気を得るためにもう1戦を組み、より若い選手に敗れるだろう。

ビレガス : パッキャオのチームの一員が「これが最後になるかもしれない」と話しているのを聞いた。その一方で、11月にもう一戦挟むかもしれないという噂もある。ただ、眼疾を患ったスペンスはそれほど早く復帰はできないはずで、だとすれば3ヶ月後に戦うべき相手はいない。テレンス・クロフォード(アメリカ)戦はパッキャオには危険すぎるだけに、対戦相手の選択肢はほとんど残っていない。フィリピンで格下相手に引退試合を行うという可能性もあるかもしれないが、様々な状況を考えればこれがラストファイトになっても驚かない。

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