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4階級制覇王者ローマン・ゴンサレスがライバルとの“危険なリマッチ”に臨む理由

杉浦大介スポーツライター
Photo By Amanda Westcott / DAZN

3月13日(日本時間14日) アメリカ・テキサス州ダラス

アメリカン・エアラインズ・センター

WBAスーパー、WBC世界スーパーフライ級タイトル戦

WBAスーパー王者

ローマン・ゴンサレス(ニカラグア=帝拳/33歳/49勝(41KO)2敗)

WBC王者

ファン・フランシスコ・エストラーダ(メキシコ/30歳/40勝(27KO)3敗)

8年以上の時を超えて

 ボクシングファン垂涎のリマッチが実現する。“チョコラティート”の愛称で親しまれてきた4階級制覇王者ゴンサレスが、現在はリングマガジンのパウンド・フォー・パウンド・ランキングでも8位にランクされるエストラーダと激突。軽量級では名実ともに最高レベルのファイトと言って良い。

 両者は2012年11月17日にロサンジェルス・スポーツアリーナでゴンサレスの持つWBA世界ライトフライ級王座をかけて対戦し、ゴンサレスが3-0の判定勝ち。改めて見返しても、極めてハイレベルな素晴らしい内容のファイトだった。

 当時のアメリカでは今以上に軽量級マーケットが軽視され、2人の知名度が低かったこともあり、この試合はその頃の業界を牛耳っていたプレミアケーブル局のHBO、Showtimeからは見向きもされなかった。Wealth TV(現AWE)で放送された第1戦を見たのはかなり熱心なボクシングファンだけ。しかもメインイベントですらなく(この日の興行のメインはブライアン・ビロリア(アメリカ)対ヘルマン・マルケス(メキシコ)のWBA、WBO世界フライ級統一戦)、そんな背景も手伝って、この激闘は一部のマニアの間で伝説的な戦いとして記憶されている感がある。

 あれから8年以上―――。運命の糸に操られた2人は、今回はDAZNが生配信する興行のメインで雌雄を決する。

 「エストラーダはリング上の作戦実行能力に長けている選手。自分自身にも同じ能力があるので、そういった点でも2人の激しい戦いが繰り広げられると思っています」

 ゴンサレスのそんな言葉通り、好戦的で手数が多く、それでいてスキルフルでクレバーな両者のスタイルが噛み合うことは明白だ。今回もドラマチックでスリリングな内容のバトルになることは必至だろう。

Photo By Ed Mulholland/Matchroom
Photo By Ed Mulholland/Matchroom

英雄はまだ力を残しているのか

 このスポーツの支持者なら絶対に見逃せない一戦だが、一方で、ゴンサレスにとっては極めて危険な試合であるようにも思える。

 2017年にシーサケット・ソーランビサイ(タイ)に2連敗(2敗目は痛烈なKO負け)を喫した時点では黄昏期にいるように思えたニカラグアの英雄だが、以降は4連勝。特に昨年2月にはカリッド・ヤファイ(イギリス)を9回TKOで下して世界タイトルを取り戻し、32歳(その時点)にして評価と名声を回復させた。

 ただ、エストラーダは過去4戦とは格の違う相手である。年齢は3歳違いだが、より全盛期に近い位置にいるのはエストラーダの方。2005年から長いキャリアを積み重ね、多くのハードファイトも経験してきた“ロマゴン”に、この難敵を再び撃破するエネルギーが残っているのか。何より、その点こそが最大の注目ポイントになる。

 「前回残った疑問を取り除くというのが、この試合を望んだ一番の理由です。第1戦も自分が勝ったとは思っていますが、拮抗した試合だったことは認めます。再戦でも勝つことでみんなの中の疑問を取り除き、より大きな道を開くことなります」

 当時のゴンサレスは圧勝続きだったが、その中でもエストラーダには手を焼かされたという記憶は鮮明なのだろう。巨額報酬とともに、一度は苦しんだラテン・ライバルに今度こそ完全な形で勝って因縁に終止符を打ちたいという思いが今戦へのモチベーションになっていることは想像に難くない。そして、この試合に勝って統一王者になれば、実際に“より大きな道”が見えてくる。

近い将来に井岡との統一戦も

 「エストラーダを退けたら、井岡一翔選手と統一戦をやってみたいという思いが強いです。井岡選手の最近の試合(田中恒成戦)を見ましたが、素晴らしいファイターだと思いました。井岡選手と戦ってみたいです」

 キャリアのこの時点でエストラーダを返り討ちにし、12日にタイで復帰戦を行った宿敵シーサケット、あるいは日本が誇るWBO同級王者・井岡とのビッグマネーファイトに駒を進るようなことがあれば、すでに殿堂入り確実なゴンサレスのキャリアに新たな勲章が加わることになる。その時には、“チョコラティート”の名声は別次元に達するだろう。

 しかし、繰り返すが、メキシコの実力派王者とのリマッチは極めてリスキーなファイトである。予想オッズはややエストラーダ優位と出ており、実際にニカラグアのファンが目を覆いたくなるようなシーンが展開される可能性も少なからずあるように思える。両者が被弾するハードバトルの中で、ゴンサレスの歴戦のダメージが決壊するようなことがあれば・・・・・・。

 楽しみであり、見るのが怖くもあるビッグファイト。そんな大一番のゴングがまもなく、テキサスで鳴ろうとしている。歴史の生き証人になる私たちは、紛れもなく軽量級を代表するレジェンドであり続けてきたヒーローの一挙一動から、最後の最後まで決して目を離すべきではないのだろう。

スポーツライター

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している

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