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ニューヨーカーを熱くさせるニックスの好スタート 名門復権には何が必要なのか?

杉浦大介スポーツライター
ジュリアス・ランドルは大活躍でニックスを引っ張っている。(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

名門チームが泥沼の低迷脱出へ

 当たり前のことだが、やはり無観客ゲームは残念である。もしもファンが動員できていれば、ニューヨーク・ニックスが最初の8戦を5勝3敗で終えた時点で、“殿堂”と呼ばれるマディソン・スクウェア・ガーデン(MSG)はそこにいたことを感謝したくなるほどの大歓声に包まれていただろうからだ。

 ニックスが今季5勝目を挙げた1月6日のユタ・ジャズ戦は特に劇的だった。一時は34-52と大差をつけられ、第4クォーター途中でも68-73とリードされながら、終盤に猛追。最後はオースティン・リバースの14連続得点などで112-100と鮮やかな逆転勝利を飾った。

 「楽しんでいるよ。ファンにその一部となってもらえないのは不運なことだ。早く戻ってきて欲しい。大歓声でザ・ガーデンを揺らすためにこのチームに来たんだから」

 この日は30得点、16リバウンドでチームを引っ張ったジュリアス・ランドルの言葉も滑らかだった。

 ニックスは4日のアトランタ・ホークス戦でも15点差をひっくり返して勝っている。ドラマチックな勝ち方を好むのは、どこの街のファンでも同じ。開幕6連勝を飾った2012〜13シーズン以降では最高のスタートを切ったチームに、ニューヨーカーは再び熱くなり始めているのだ。

ランドルの活躍、そしてディフェンス

 ここまで平均23.2得点、11.8リバウンド、7.1アシストをマークするランドルのプレーは際立っている。最初の10試合で200得点、115リバウンド、70アシスト以上をクリアするオスカー・ロバートソン以来史上2人目の選手になった26歳のフォワードは、今季のチームの大黒柱的存在になりつつある。

 2019年ドラフト1巡目全体3位指名のRJ・バレット、守備の要になりつつある7フッターのミッチェル・ロビンソンといった有望株も成長中。リバース、エルフリッド・ペイトン、レジー・ブロックらのベテランも貢献し、若手のリーダーになっている。

 何より大きいのはやはりディフェンスの向上だろう。10日のデンバー・ナゲッツ戦前の時点で、ニックスの平均104.1失点、対戦相手のFG成功率43.4%はどちらもリーグ2位、対戦相手の3P成功率30.1%は同1位。前述した逆転勝利も、堅守で後半まで射程距離にいられたからこそ可能になった。

妥協を許さないシボドーHCはチームのカルチャーを変えるか
妥協を許さないシボドーHCはチームのカルチャーを変えるか写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ

 「すべてはディフェンスとリバウンドから始まる。まだターンオーバーを減らす必要があるが、全般的には互いのためにプレーできていると思う。勝つためには、毎日ハードワークすることが大事。ディフェンスをし、リバウンドを掴み、ターンオーバーしなければ、勝つチャンスがあるものだ」 

 今季から新たにチームのHC(ヘッドコーチ)に就任したトム・シボドーはホークス戦後、満足げにそう述べていた。

 厳格なシボドーはもともとディフェンス指導に定評がある。シカゴ・ブルズをHCとして率いて1年目の2010~11シーズン、堅守を基盤にいきなり62勝。その後も2015年まで5年連続で好勝率を残したキャリアがある。その時同様、守備意識をチームに浸透させることができれば、7シーズン連続プレーオフ逸と低迷を続けるニックスの行く手にようやく光が見えてくるのかもしれない。

まだ先は長いとしても

 もちろん開幕直後に好調だったからといって、しばらくどん底にいたチームが“名門復活か”と騒ぎ立てるのは少々早すぎる。ロースター全体を見渡せば、やはりタレント不足は明白。最初の10戦中、90得点にも届かなかったゲームがすでに4戦と、特にオフェンスの武器の少なさは如何ともし難い。

 現状では安定して勝ち星を手にするのは難しく、ホームで行われた8日のオクラホマシティ・サンダー戦、10日のデンバー・ナゲッツ戦は精彩なく連敗。せっかく好スタートを切ったのに、この時点で5勝5敗と勝率5割に戻ってしまった。

 まだ多くのポジションで層が薄いため、バレット、ランドルが平均プレー時間ではリーグ1、2位という負担の大きさも気になる。ディフェンスの良さゆえに大崩れはないとしても、今後勝率は少しずつ低下していく可能性は高いのではないか。カンファレンス10位のチームでもプレーインゲームに出場できる今季はプレーオフに色気を出したくなるところではあるが、実際にはニックスはまだポストシーズンを考える段階ではあるまい。

 ただ・・・・・・それでも希望がなかった近年と比べ、ニックスが適切な方向に向かい始めているのは間違いないのだろう。6日のジャズ戦後、これまでNBAで5チームに属してきたリバースのこんな言葉を聞き、希望を抱いたファンは少なくなかったはずだ。

 「これまで酷いチームに属したこともあるけど、このチームはそうじゃない。今後、どうなっていくかはわからないけど、スピリットが違う。向上の意欲、コーチ陣が違う。あなたたちがこれまで取材してきたニックスとは違うよ」

リバースの勝負強さとリーダーシップはニックスに欠かせない武器となりつつある
リバースの勝負強さとリーダーシップはニックスに欠かせない武器となりつつある写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ

 こうして復権に向けて足を踏み出したニックスが参考にすべきは、同じニューヨークに本拠地を置くブルックリン・ネッツの方向性だろう。

 近年のネッツはキャリス・レバート、ジャレット・アレン、スペンサー・ディンウィディー、デアンジェロ・ラッセル(現ミネソタ・ティンバーウルブズ)といった若手を上手に育て、2018~19シーズンはスーパースター不在ながらプレーオフ進出。フロント、コーチ陣の評判も良く、おかげでFA権を得たスーパースターたちから行き先候補として真剣に考慮されるに至った。結果として、2019年のオフにはケビン・デュラント、カイリー・アービングの獲得も可能になったのだった。

 そんな例に倣い、ニックスもまずは自前の基盤を作れるかどうか。それができれば、フランチャイズに良い流れが生まれる。まだ先は長いが、好ムードが漂い始めた2020~21シーズンはその第1歩になり得る。

 今後もしっかりとディフェンスし、勝利を予期する雰囲気を作っていきたいところ。目論み通りに進めば、パンデミックが終わり、ファンがアリーナに帰ってくる頃、再びザ・ガーデンが揺れるような大歓声を浴びることも不可能ではないはずである。

スポーツライター

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している

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