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伊藤雅雪「ロマチェンコと戦う可能性は十分ある」 29歳の元世界王者が語る今後の目標

杉浦大介スポーツライター
写真:山口裕朗/アフロ

元WBO世界スーパーフェザー級王者 伊藤雅雪(横浜光)

インタビュー前編 伊藤雅雪「リスクは僕の方にある」 元世界王者が三代大訓との対戦を決めた理由語る

ラスベガス・リング登場の話もあったが

ーー伊藤選手と三代大訓(ワタナベ)との対戦は楽しみですが、一方でトップランクがラスベガスに作り上げた“バブル(隔離空間)”で試合をして欲しいという期待感もありました。ただ、前回話されていた通り、オファーはあったものの、条件的に良くなかったんですね。

伊藤雅雪(以下、MI) : トップランクも興行に起用する選手が足りていないようで、何度か声をかけてもらいました。ただ、自分にとって意味のある試合にはならなそうだと感じたんです。

ーー伊藤選手の対戦相手候補としてエイブラハム・ノバの名前がSNS上で出ていましたが、ノバ戦の具体的なオファーはなかったんですか?

MI : カール・モレッティ(トップランク副社長)がノバの名前を出したんですよね?ノバ戦のオファーは結局、僕のところには来なかったです。ノバとライト級で戦えるのであれば意味のある試合になるので、それならばやりたいという気持ちはありました。ただ、オファーが来るかな、来るかなと思っていたんですが、結局届かなかったので、待っているのももったいないと考えるようになったんです。トップランクは「アメリカに来るんだったらいつでも試合は組むよ」という感じで、具体的に誰とやるっていうオファーではありませんでした。

 注) エイブラハム・ノバ(アメリカ/26歳) トップランクと契約を結ぶプエルトリコ系の無敗プロスペクト。NABAスーパーフェザー級王者で、戦績は19戦全勝(14KO)。

ーートップランクのサマーシリーズはAサイド選手が格下と戦う顔見せ的なマッチメイクが多いという批判がありました。伊藤選手の試合もそうなっていた可能性が高かったんでしょうね。

MI : 僕もチューンナップ的な試合になりそうだよと言われていました。やって意味があるような選手は、(“バブル”での試合でも)1度はギャラが低くてもやらなきゃという感じでやっていたみたいなんですけど、あの環境での興行が長くなって、2戦目、3戦目はやりたがらなくなっているらしいです。そうなると僕がやるとしても対戦相手の選択肢が限られ、中堅か、もっと微妙な選手になってしまいますよね。この時期にアメリカに行ってそういう試合をやることに果たして意味があるのかと考え、ファイトマネーも考慮に入れた上で、やるべきではないと感じたところがありました。

ーーラスベガスで試合となったら、アメリカ入国後に2週間の隔離が必要だったんですよね?

MI : はい、それも厳しいなというのはありました。日本開催だったらいいですけど、飛行機でアメリカまで飛んでいって、到着後に2週間隔離されてというのはけっこう心配事が多いですよね。最初にオファーされた日程はオスカル・バルデス(メキシコ)がジェイソン・ベレス(プエルトリコ)と戦った7月21日だったんですが、その話が来たのは5月末だったんです。2週間の隔離期間を考えれば、7月頭には現地に入らなければいけないですが、ちょっと練習期間が足りないとも感じました。特に僕がオファーをもらったのは何人かコロナの陽性反応者が出て、(“バブル”での)試合が頻繁にキャンセルになっていた時期。しかもウェイトはスーパーフェザー級。ちょっと不都合が多過ぎで、そういったリスクを冒してまでやる試合とも思えなかったんです。

世界戦線で”Bサイド”は望むところ

ーー今後はライト級でというお話ですが、トップランクはスーパーフェザー級に多くの好選手を揃えています。ミゲール・ベルチェルト(メキシコ)対バルデス、ジャメル・ヘリング(アメリカ)対カール・フランプトン(イギリス)といった好カードが内定していますが、これらの試合の勝者から来年早々にもオファーがあった場合はどうされるんですか?

MI : そこは迷わないようにとは思っていますけど、実際は迷っちゃうかもしれませんね(笑)。ただ、僕はスーパーフェザー級ではもうベストの戦いができないと思っています。普段の体重はある程度絞った上で68、69キロなので、減量となると筋肉を削る作業になってしまうんですよ。だから試合のための調整は減量がほとんどになってしまう。それが嫌なので、スーパーフェザー級はもうないと言っておきたいですね。ライト級に上げることで、ある程度、自分を解放した部分もあったので。

ーーライト級はワシル・ロマチェンコ(ウクライナ)が複数のタイトルを持っているために世界挑戦すら難しいという見方も一部でされてますが、実際には10月17日にロマチェンコとテオフィモ・ロペス(アメリカ)との統一戦が決まり、この試合が終わったら一気に王座がばらけるかもしれませんよね。複数の王座が空位になり、王座決定戦出場という線も出てきます。

MI : その可能性はかなりあると自分でも思いますし、実際にあると言われてもいます。トップランクもライト級はあまり選手が多くないですからね。ロマチェンコが10月に統一戦やって、来年2、3月くらいまでに今後どうするのかという話になったときに、僕がライト級の世界ランキングで一桁台にいることができたなら、タイトル戦のチャンスは出てくるかなというのは感じています。それまでにライト級の世界ランキングにも入っている吉野修一郎(三迫)と戦って、勝てば、ランキングもさらに上がるかもしれません。もちろん世界戦線に入る前に1、2戦はタフファイトをサバイブしなければいけないと思うんですけど、それはむしろ大歓迎。そんな試合に絡むようなポジションにいなければいけないなと考えています。

ーーロペスがロマチェンコに勝ったとしても、ロペスはずっと減量苦の話をしているので、ロマチェンコ戦後すぐにスーパーライト級に上げてしまうかもしれません。

MI : ロペスは体格的に僕と同じかむしろ少し小さいくらいですけど、ライト級でも体重が厳しいとずっと言ってますよね。彼はロマチェンコに勝ったらさらにビッグネームになるので、そうなったらスーパーライト級にも上げやすいんでしょう。ロマチェンコにしろ、ロペスにしろ、どっちが勝ってもこの試合でライト級は一区切りになりそうなので、僕としてもライト級に上げるのにタイミング的には良いのかなという感じはしています。

ーーロマチェンコがロペス戦後もライト級に残った場合、伊藤選手との対戦はない話じゃないですよね。

MI : 結構あるんじゃないですか。さっきも言った通り、トップランクはライト級にそれほど選手を持っていないというのもあります。下の階級の前チャンピオンという肩書は選択肢に入るでしょうし、ロマチェンコの次のビッグファイト前のチューンナップファイトとしても選んでくれる可能性は十分あるでしょう。

ーーいずれにしても、伊藤選手が近い将来にアメリカで強豪と対戦するとしたら、“Bサイド”の扱いになりそうです。

MI :トップランクは非情なので、僕に温厚な目は向けないでしょう。そういう意味では、僕に厳しい試合を組んでくれると思うんですよ。仰る通り、トップランク傘下同士の試合だとしても、僕は“Bサイド”になるはずです。そこまで辿り着くというのが今の目標でもあります。僕がその場所に到達するために、国内でやり残していることがあるので、まずは三代、吉野戦を目指し、日本でサバイバルするのが自分的にも良いことだと思っています。

●プロフィール

伊藤雅雪(いとうまさゆき)。1991年1月19日生まれ(29歳)、東京都江東区出身。アマ経験なしでプロ入りし、全日本フェザー級新人王、WBC世界ライト級ユース王座、OPBF東洋太平洋スーパーフェザー級王者などを獲得。2018年7月28日、アメリカのフロリダ州キシミーでクリストファー・ディアス(プエルトリコ)に3-0判定勝ちし、WBO世界スーパーフェザー級王座を獲得した。同タイトルは1度防衛後、2019年5月25日にジャメル・ヘリング(アメリカ)に敗れて王座陥落した。プロ戦績は26勝(14KO)2敗1分。

スポーツライター

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している

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