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「井上尚弥対カシメロの統一戦はどうなるのか」 ボブ・アラム・プロモーター独占インタビュー

杉浦大介スポーツライター
(写真:ロイター/アフロ)

 *インタビューは5月8日、電話で行われた

井上対カシメロの行方

ーー4月25日に予定され、延期が決まった井上尚弥(大橋)対ジョンリール・カシメロ (フィリピン)戦に関して何か最新情報はありますか?

ボブ・アラム(以下、BA) : トップランクは6月に無観客興行を再開する方向で準備を進めています。無観客で多くのイベントを主催する予定で、井上も今夏の興行に登場してくれれば素晴らしいと思っています。ただ、問題は井上がアメリカに来られるかどうか。井上、伊藤雅雪(横浜光)、オーストラリアのマロニー兄弟といった渡航ビザを所有している外国の選手にそれが可能なのかはまだわかりません。現在、リサーチを進めているところです。

ーーアメリカに入国できたとしても、現状では2週間は隔離されなければいけません。選手は調整が極めて難しく、その点も障害になると思いますか? 

BA : 大きな問題とは考えていません。ネバダ州では安価の新しい検査方法が準備され、5時間以内に結果が出るとのこと。それを利用すればウイルスに感染しているかどうかは迅速に判断されるため、入国後の隔離期間はごく短く済みます。そして、私たちはラスベガスのホテルに隔離されたエリアを設け、そこではすべてが殺菌されます。ジムなどの練習施設も準備され、井上もウイルスを持つ人間と接触することなくトレーニングができるのです。

ーーカシメロのショーン・ギボンズ・プロモーターが、「井上対カシメロの再戦ターゲットは7月25日」と話したという記事が出ました。その日程での挙行は可能だと思いますか?

BA : その日程がどこから出て来たものかは私にはわかりません。まずは井上をはじめとする外国の選手たちがアメリカに来られるのかを知ることが先決。アジアの選手だけでなく、カール・フランプトン、ジョシュ・テイラーといったイギリスのボクサーたちも同じです。ビザの問題ではなく、彼らがアメリカまで辿り着けるかどうかがわからないのです。

ーー井上の入国が難しかった場合、カシメロ戦が日本で開催されることはあり得ますか?

BA : そうは思いません。日本では9月まで大規模なボクシング興行は開催できないと私は聞いています。 

村田諒太の今後も未定

ーー井上戦が挙行できないとして、カシメロは6月から始まるトップランクの無観客興行シリーズで別の相手と戦うことになるのでしょうか?

BA : カシメロはすでにアメリカにいるので、いつでも戦えます。井上が渡米できなかったとしたら、他の選手と試合することになるでしょう。

ーーその場合の対戦相手の候補として、ジョシュア・グリーア・ジュニア(アメリカ)の名前がすでに挙がっていますね。 

BA : グリーアか、あるいは(渡米できた場合の)ジェイソン・マロニー(オーストラリア)も候補になるはずです。

ーー同じトップランク傘下の村田諒太(帝拳)選手に関する最新情報はありますか?

BA : 現状、特にありません。村田に関しては本田さん(帝拳ジムの本田明彦会長)が動いてくれています。とにかく今の問題はボクシングそのものではなくコロナウイルス。世界中のボクサーが大打撃を受けていて、例えばタイの挑戦者と対戦予定だったテイラーもいつ試合ができるかわからない。私にもすべての答えを見つけるのは難しい状況です。

ーー一昨日、サウル・“カネロ”・アルバレス(メキシコ)と話したのですが、彼は依然として日本での試合を望んでいるということでした。ただ、ビッグファイトのプランを進めるのは不可能ですね。

BA : カネロが日本で村田と戦いたがっているのは私たちもよく知っています。しかし、今は一歩ずつ前に進んでいくしかありません。日本で大観衆を入れたイベントが可能になるのがいつになるのかも分からないのですから。

新シリーズの詳細

ーーこれまでプロモーターとして多くを経験されてきましたが、今こそが最も難しい時間だと言えるのでしょうか?

BA : その通りです。私はこのスポーツに関わってもう55年になりますが、こんなことはもちろん初めて。私だけではなく、誰にとっても未知の世界です。

ーーただ、先ほどもお話があったように、トップランクの6月からの無観客興行シリーズは具体化してきていると考えて良いですか?

BA : その方向でネバダ州のアスレチック・コミッションとも話を進めています。6月から夏にかけて多くの興行を打つ予定。毎週、小さな会場で2、3の無観客イベントを行っていきたいと考えています。

ーーほとんどの興行がラスベガス開催なのでしょうか?

BA : カリフォルニア州のコミッションとも話はするつもりです。ただ、すべて無観客興行で、それをラスベガスで開催できるのであれば、私たちの拠点であるベガスに留まる方がいろいろと便利なのです。ラスベガスほど多くのホテルが利用できる場所は他にはありません。ファイトウィーク中にはホテルのレストランも隔離して利用できますし、様々な意味で理想的です。(一部で候補に挙がった)フロリダは他のプロモーターが利用すればいいでしょう。

ーータイソン・フューリー(イギリス)対デオンテイ・ワイルダー(アメリカ)のようなビッグファイトの無観客挙行は無理ですが、ホセ・ラミレス、シャクール・スティーブンソン、テオフィモ・ロペス(すべてアメリカ)といった人気選手が登場するのではないかと言われています。再開興行のメインイベンターは誰が務めるのでしょうか?

BA : それについてはまだわかりませんが、まもなく発表できるでしょう。再開直後の週も少なくとも2度の興行を予定しており、多くの選手が出場することになるはずです。

 ボブ・アラム 1931年12月8日生まれ トップランク社のCEO

 過去にモハメド・アリ、シュガー・レイ・レナード、オスカー・デラホーヤ、フロイド・メイウェザー、マニー・パッキャオといった多くのスーパースターをプロモートし、”世界最高のボクシング・プロモーター”と称される。88歳になった今でも現役で、世界中を休まず飛び回るバイタリティの持ち主。現在は村田諒太(帝拳)、井上尚弥(大橋)、伊藤雅雪(横浜光)という日本人選手も傘下に抱える。

スポーツライター

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している

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