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「2020年中にベルチェルトかヘリングに挑戦したい」元WBO世界Sフェザー級王者 伊藤雅雪(横浜光)

杉浦大介スポーツライター
Photo By Top Rank

 元WBO世界スーパーフェザー級王者 伊藤雅雪(横浜光) 

 28歳 26勝(14KO)2敗1分

スーパーフェザー級で再び世界へ

ーー2020年は大事な年になると思いますが、分かっている限りで今後のプランを話して頂けますか?

MI : トップランクと話はしていまして、2020年はじめに次の試合をするというのが現在のプランです。1月の月末か、2〜3月か。いずれにしてもスーパーフェザー級で戦う可能性が高そうです。11月にWBC王者ミゲール・ベルチェルト(メキシコ)、WBO王者ジャメル・ヘリング(アメリカ)が防衛戦を行ったので、その後にどちらに狙いを定めるかということになると思います。その2人のどちらかに直で向かえればいいんですけど、待つことになった場合には、1試合、誰か強い相手とやることになるかもしれません。

ーーライト級転向の話もありましたが、やはりスーパーフェザー級ですか?

MI : 本音を言えば、体重のこともあるので、ライト級でやりたいというのが正直あります。ただ、タイトルに近いのはスーパーフェザー級。僕の実績的にも、ライト級でやるとなれば何試合かこなしていかなければいけないですよね。僕の中ではタイトル挑戦に一番近い道でっていうのを帝拳の本田(明彦)会長にも話してますし、もちろんうちの会長にも話しています。スーパーフェザー級のタイトルをもう一度取って、階級のことはその後にまた考えたいかなというのがあります。

ーー次戦もトップランクとの契約内の試合ということになりますか?

MI : 帝拳を通じてですけど、トップランクと話しています。トップランクはもともと「アメリカでやるならいつでも」というスタンスで言ってくれていました。年末にタイトル戦をできたらやりたいっていうのがあったので、そこをめがけて9月に日本でやったという経緯があります。その時点でもトップランクは年内にもう1試合を組むと言ってくれていて、エリミネーター的な試合が組まれる可能性があったんです。11月30日にラスベガスでオスカル・バルデス(メキシコ)と対戦する話もありました。バルデスのスーパーフェザー級初戦の相手候補になっていたんですが、結局、なくなったんですけど。

ーーここで少しヘリング戦を振り返ってください。今、思い出して、うまくいかなかった部分は?

MI : 言い訳になるかもしれないですけど、考えれば考えるほど、戦い方を間違えた試合だったなというのはすごく思います。技術的な部分、戦術の部分でやられたという感じ。パンチはよく見えていましたし、スピードも僕の方が速かった。パワーも僕の方があるし、打ち合った感覚も僕の方が良かった。それなのに、場所が悪いとか、攻め方が悪いとか、そういったところで焦ってきて、飛び込みがちになってしまった。それでどんどん悪い方向に向かってしまったという感じです。

ーーボクシングマガジンの企画でヘリングにインタヴューした際には、「イトウはサウスポーが苦手というより、自分のようなアウトボクサーへの対処が難しかったのでは」と話してました。それについて思うことは?

MI : アウトボクサーとは何度もやってきているんですけど、得意という感覚がないのは確かなので、それはあると思います。プラス、サウスポーというのが一番苦手なんだと思うんですけど。ただ、1つ、2つのヒントをもらって、今ならできるなという風には思い始めています。本当に戦っている時にはヘリングに劣っている部分を1つも感じなかったですからね。もちろん、それこそボクシングなんですけど。

ーーコンディション調整は万全だったんでしょうか?

MI : うーん、実はジム移籍のこともあって、昨年12月30日の試合が終わってから、ヘリング戦の40日前にアメリカに行くまでの間、ほとんどジムで練習できなかったんですよ。2〜3ヶ月くらいジムワークができず、フィットネスジムで練習してました。あとは内山高志さんのジムに週に1、2回行って、一人で練習したりだとか。結局、横浜光ジムへの移籍の話が終わったのは、ヘリング戦の3日前の5月22日でした。もちろんそういうことを招いたのは僕の問題なんですけど、アメリカに行くまでのトレーニングが不足していたかなというのは悔しい部分としてあります。

ーーこのことが伊藤選手に影響したなどとはもちろん思っていないですが、取材する側として、ヘリング戦の前、その先のこと、統一戦やビッグファイトのことばかりを聞きすぎたという反省が自分の中にあります。

MI : 聞かれる前から、間違いなく僕の頭にもありました。たぶんチーム全員の中にもそれがあったんだと思います。楽観視していたわけではまったくないですが、やっぱり多少のブレみたいのはあった。当日も試合会場を間違えて30分くらい余計に時間がかかったりとか、リングインの直前にチャンピオンベルトをホテルに忘れたことに気づいたりとか。負ける日ってこんな感じなのかなと。いつも通りではなかったというか、油断があったと思うので、改善しなければいけないですよね。

ーーヘリングが試合後にベルトを返しに来た名シーンがありましたが、あのベルトは自身のものではなかったということですか? 

MI : あれは借りたベルトだったので、ヘリングが返しに来たときも「これは俺のじゃないんだけどな」って思ってました(笑)

インタヴューは11月6日、横浜光ジムで収録された (杉浦大介)
インタヴューは11月6日、横浜光ジムで収録された (杉浦大介)

大きな価値がある”統一戦”が目指せる位置に戻りたい

ーータイトルを失った後、これで引退とか考えず、すぐに復帰に向けて頭を切り替えたんでしょうか?

MI : ある種の開放感はありました。それまで必死にやってきて、やめる時ってどんな時かが自分にもわからなかったので、一瞬、「あ、これがやめる時なのかな」とか、「解放されて良い時なのかな」と思ったところもあったんです。ただ、試合後に控え室を出たくらいで、周りはもう次の話をして下さっていて。決めるのは僕なんですけど、自然と「あれじゃやめられねえだろう」っていう感じになっていきました。

ーー負けた後に周囲が離れていくというのはよく聞く話ですが、伊藤選手の場合はどうでした?

MI : 意外に変わらないなというか。スポンサーの人や周りの人が離れたっていうのはなかったので、ありがたいような、一方で余計に情けないと感じましたね。みんなが期待してくれて、応援してくれていたのに、自分が結果を出せなかった。僕も含め、みんなが統一戦のことを考えていたんですよね。あそこでしっかり防衛して、ベルチェルトと統一戦っていうのは大きな価値があるものだったと思うので、本当に悔しいです。

ーーヘリングにさえ勝っていれば、同じトップランク傘下のベルチェルトの統一戦はあっさり決まっていたでしょうね。 

MI : そうでしょうね。ベルチェルトはヘリングを見て、「こいつ面倒臭そうだな」と思って統一戦はなしにしたんでしょうけど(笑)。僕としても、ベルチェルトにしろ、ヘリングにしろ、どっちかに勝てばまた統一戦が見えてきます。そういう意味では、それこそが僕が取り戻すべきものだなという風には感じています。

ーーベルチェルトとも今でも対戦したいですか?

MI : やりたいですね。現在のスーパーフェザー級では名前が売れてますし、実力もあります。僕とは噛み合うなという風にも感じてます。ベルチェルトとやって、激闘の末に勝ったら“バズる”なというのもあります。一方、ヘリングに関してはやはりリベンジしたいですね。将来、僕がどこに行っても、ヘリングに負けたというのは付きまとうので、それにケリをつけたいなというのがあります。

ーーヘリングとリマッチが実現するとしたら、どう戦いますか?

MI : ポジションを気にしながら、じりじり前に出ます。あのパンチだったら僕は倒れないと思うので、前に出ていって、1、2発目はガードでいいんで、まずポジションをしっかり取る。前回は向こうから見て右側、僕から見て左側に回られてしまって、パンチが当たらないから余計に飛び込んでいってしまった。ヘリングは本当に巧いですけど、打ち合ってくれたら負けないんで、良いポジションに身体を持っていくというのが課題になると思います。

ーー手よりもまずは足という感じですか? 

MI : 足のポジションと、位置。結局、最終的にはコーナーに詰めなければいけないと思うんですけど、この間はその詰め方が悪かった。ヘリングが上手だったボディアッパーへの対策もしなければいけないですけど、ポジション、体勢が良ければそれも大丈夫かなと思います。飛び込みざまに体勢が悪いからそういうパンチももらってしまうわけですから。

ーーヘリングは自分のスタイルを持っていて、それ以上をやろうとしない選手だから攻略は容易ではないですよね。 

MI : 1ラウンドごとを見ていくと大した差はないんですけど、どっちかといったらヘリングだなというラウンドが続いてしまう。ただ、次にやるんだったらもう倒しにいきますね。

ーーどのタイミングでタイトル戦が実現するにせよ、2020年は勝負の年になりますね。現時点での今後の目標は? 

MI : 次はライト級で2階級とも考えたんですが、スーパーフェザー級での方がタイトル戦をできるかもしれないという雰囲気を感じたので、現時点では来年もスーパーフェザー級でやりたいと思っています。ヘリングに負けた後、1、2年は待たなければいけないかと思っていたんですが、1、2戦後に挑戦できるということであれば、この階級で再びタイトル獲得を目指していきたい考えています。まずはベルチェルかヘリングとやらせてもらって、そこから統一戦というのが現在の目標ですね。

スポーツライター

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している

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