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「私が勝つことはわかっている」 井上尚弥と戦うノニト・ドネアの胸中 WBSS決勝直前独占インタビュー

杉浦大介スポーツライター
(写真:ロイター/アフロ)

今回のインタビューは5日の記者会見後、WBA世界バンタム級スーパー王者ノニト・ドネア(フィリピン)が滞在するホテルで収録された。

”敵地”で戦うという実感はない

ーーまず5日の最終記者会見の印象を話してください。

ND : 長かったですね(笑)。いや、質疑応答を翻訳しなければいけなかったから長くはなりましたが、よくまとまった良い会見だったと思います。会見に限らず、日本ではあらゆるイベントが非常に整理されていて、新鮮な印象を受けています。

ーー日本はそういう国ですよね。あらゆるものが整っている。

ND : そう、日本はそうですね。会見もとてもスムーズで良かったと思います。

ーー日本の人たちはあなたに莫大なリスペクトを抱いているので、“完全アウェー”という実感はないのでは?

ND : 確かにその通りです。ソーシャルメディアでも日本の多くの人たち、ファンが私のことも応援してくれています。人々はとても親切で、友好的。普段(のアウェーでの試合)とは違いますね。ただ、そのことに驚いてはいません。これまでも日本を何度も訪れてきて、この国にも多くの友人がいますし、ファンにも歓待を受けてきました。そして、日本の人々はもともと周囲への尊敬の念に満ちている。だから今回の対応にも驚きはありません。 

ーー試合まであと2日ですが、コンディションはいかがですか?時差への対策も万全でしょうか?

ND : 順調ですよ。予定通り、日本に来る前にフィリピンで2週間を過ごしたので、時差に関してもまったく問題ありません。体重調整も順調で、計量時にはリミットちょうどのはずです。

ーー計量後には何を食べる予定ですか? 

ND : ラーメンです。私はラーメンが大好きなんです。その点に関しては日本人ぽいのかもしれません(笑)。減量で塩分が出た身体には、実はイタリアンのパスタなんかよりもラーメンの方が良いんですよ。だし汁から塩分、麺で炭水化物、チャーシューでプロテインを補給できますからね(笑)

ーー計量終了後にはラーメンを食べるのがルーティーンなんですか?  

ND : いえ、普段はまずイタリアンをたくさん食べて、ディナーにステーキを食べます。 

リングの中こそがホーム

減量の疲れなど見せず笑顔で筆者の質問に答えるドネア (撮影はレイチェル夫人)
減量の疲れなど見せず笑顔で筆者の質問に答えるドネア (撮影はレイチェル夫人)

ーー試合前のイベントで井上選手と頻繁に顔を合わせていますが、以前と比べて印象は変わりましたか?

ND : 私は試合直前にはそういった風に対戦相手を見たりはしないんですよ。相手の分析はトレーニングキャンプ中にもう十分にしてきました。だから、会見にはただリラックスして臨む。フェイスオフでも相手の様子を見たりはしないし、いつも通りに過ごしたつもりです。

ーー先ほどアウェーという感じはしないという話をしましたが、一方で井上に対する日本のファン、関係者の期待の大きさも感じられたのではないかと思います。

ND : それによって私のやることが変わるわけではありませんが、確かに彼に対する期待は莫大に見えました。彼にはプレッシャーもかかってくるでしょうね。日本の人たちにとって非常に重要なファイト。そういった試合が開催されるのはボクシング界にとっても良いことです。日本のボクシングが盛り上がってきているのは知っていますし、それを目の当たりにできるのは私にとっても喜びではあります。

ーー会見時に英国で戦った経験について訊いた時、「リングの中が私のホームだ」と話していました。海外での試合経験が、今回の助けにもなっているという意識はないんですね。 

ND : どこでの戦いであろうと私には関係ありません。これまでに様々な場所でスパーリングを経験してきたし、アマチュア時代から多くの国を旅してきました。誰の国であろうと、リングの中は変わりません。10歳の時以来、人生の多くの時間をリングの中で過ごしてきました。そこが私にとっての“ホーム”。リングの中こそが私が快適に感じられる場所なんです。

ーー井上選手相手には「ドネアはアウトボクシングするべきだ」と言う人がいれば、「最初の3ラウンドに勝負をかけるべきだ」と言う人もいます。本番まであと2日となった今、ファイトプランをどう考えていますか?  

ND : 以前にも話した通り、今の私には“適応能力”が大切な武器になっています。様々な戦術を用意してあるし、スキル、パワー、スピードのすべてを備えているつもりです。その時々で、勝利に近づくために必要なことをやっていく。相手がどうやって臨んで来ようと、適応できると信じています。

ーー11月7日、井上選手に勝ったら、世界タイトル以外に、あなたは何を得られるんでしょうか?

ND : 自分がかつていた場所に戻れると思っています。現状、ボクシング界の人間は私ではなく彼の方に注目しています。ここでビッグネームである彼に勝つことによって、私は以前と同様の力を残していると証明できる。それによって、バンタム級の4団体統一王者という目標に向かって新たなステップを踏み出せるはずです。

ーー今回の会見で、井上選手は「まだ見てみたい景色は山ほどある」という言葉を残していました。彼が言ったことをどう解釈しますか?

ND : 今回、仕事を果たせば、彼にも新たな可能性が見えてきます。私はこれまでスーパーバンタム級、フェザー級といった上の階級でも戦い、実績を残してきました。そんな私というテストを突破することで、彼には今後への展望が見え、視界もよりクリアになるのでしょう。

ーー運命的な一戦であり、井上選手にとっても、あなたにとっても紛れもなく重要な試合です。明後日、どんな戦いを予想しますか?

ND : 私が勝ちますよ。それだけです。勝つことはわかっています。今回の試合には既知感を感じていて、それゆえに自信を持って臨むことができます。人々は今の私はもう全盛期は過ぎたとか、歳をとっているとか、スローダウンしているとか言いますが、実際には今回ほどハードに練習をしたことは過去にもありません。これほど確信を持って戦えるのは、2011年にフェルナンド・モンティエル(メキシコ)に勝って以降では初めてのこと。今の私に勝つのは、誰にとっても難しい。今回の試合は、私がバンタム級戦線のトップに再浮上する一戦になるのです。

スポーツライター

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している

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