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史上最高の女子ボクサーへの道 WBA、IBF女子世界ミドル級王者クラレッサ・シールズ インタヴュー

杉浦大介スポーツライター
Photo Marilyn Paulino/Salita Promotions

クラレッサ・シールズ(アメリカ) 23歳

WBA、IBF女子世界ミドル級王者

 2012年のロンドン、2016年のリオデジャネイロ五輪のミドル級金メダリスト。アマで77勝1敗と圧倒的な戦績を残すと、2020年の東京五輪で五輪3連覇を目指すのではなく、プロ入りの道を選択した。プロでも8戦8勝(2KO)で、ミドル、スーパーミドル級の2階級制覇を達成。4月13日にはWBC、WBO王者クリスティーナ・ハマー(カザフスタン/ドイツ)との女子世界ミドル級4団体統一戦が決まっている。プレミアケーブル局Showtimeのサポートを受け、アメリカ女子ボクシング界の期待を背負う。

 このインタヴューはボクシングマガジン3月号に一部が掲載された。編集部の許可を得た上で、ここに完全版を掲載する。

重要なのは”最高の選手同士が戦うこと”

ーー去年は4戦全勝で多くの主要媒体から女子のMVPに選ばれましたが、ここまでの自身のプロキャリアには満足していますか?

CS : まずまずといったところです。2018年は確かに素晴らしかったですが、2019年はもっと良い年になると思っています。みんなにリスペクトされるようになるまで満足はしません。誰とでも戦いたいし、どんな選手にも勝ちたい。多くの王者に勝って、引退した後でも簡単には破られないようなレコードを残したい。後から良い女子ボクサーが出てきても、シールズは乗り越えられないと思われるような選手になりたいんです。

ーー当初はパワフルなイメージでしたが、多才さも評価されています。自身のボクシングの中で最も誇りに思う部分は? 

CS : 常に冷静でいられることです。プロでの最初の数戦ではエキサイトしすぎてしまい、それは簡単ではありませんでした。プロはファンの雰囲気が違うし、関わる人々も違う。そんな中でもいつでも落ち着き、練習でも試合でもクレイジーにはならないことが大事。(昨年6月の)ハナ・ガブリエル(コスタリカ)戦のあと、今後はエキサイトすることなく、いつでも冷静でいようと心に決めたんです。練習の際から落ち着き、微笑みながら取り組めるようになりました。

ーー向上させなければいけないと感じる部分は? 

CS : しっかりと拳で相手を捉えるようにすること。叩くように打つのではなく、よりパンチを真っ直ぐに打ち込むことですね。

ーーアマチュア、プロのボクシングの間で最も大きな違いはどこに感じますか? 

CS : アマチュアは4ラウンド、プロでは10ラウンドとラウンド数が違うくらいですかね。プロでは相手は強くはなりますが、アマにも強い選手はいました。試合に臨む際の私のエナジー、心持ちなどはほとんど変わりません。あと、もちろんプロではお金がもらえるところが違います(笑)

ーーアメリカで女子ボクシングは盛り上がりを見せていますが、さらに大きくするためには何が必要だと考えていますか?  

CS : 最高の選手同士が戦うことが重要です。私はハマーと戦い、ケイティ・テイラー(イギリス)はアマンダ・セラーノ(プエルトリコ)と戦う。強い選手は直接対決していくべきです。またテレビ中継される興行で良い試合をすることの意味が大きいことは言うまでもありません。そうすることによって、女子ボクシングも男子と同等に魅力的なものだとわかってもらえるはずです。

ーーより多くのKOを重ねることも大事だと思いますか? 

CS : KOが重要なのは間違いないですが、女子ボクシングは1ラウンドが2分のため、KOがより難しいのは事実です。男子は3分なので、相手を痛めつけ、疲れさせるための時間が十分にある。もう少し時間があれば、私も過去数戦ではKO勝ちできていたと今でも思っています。

ーー女子も1ラウンドは3分であるべきと思いますか? 

CS : ボクシングはすべて同等の条件で行われるべき。私は女子も男子と同じように3分間、12ラウンドであって欲しいです。

ーー次戦はWBC、WBO王座ハマーとの4団体統一戦になりますが、ハマーの印象は?

CS : 自分を綺麗に見せることに労力をつぎ込んでいる選手です。自分に本当の自信がないから、周囲の人々の心を惹きつけるためにそうしなければならないのでしょう。いわばモデル・ボクサー。良い選手ですが、本物のビッグファイトを経験したことはありません。トラッシュトークで相手を威圧しようとしたりしていますが、怖がらせることができなかったら自信を失ってしまうのではないでしょうか。付け加えると、彼女は私が嫌いなので、私も彼女が嫌いです(笑)

Photo By Marilyn Paulino/Salita Promotions
Photo By Marilyn Paulino/Salita Promotions

いつか日本でも試合がしたい

ーー自分以外で最高の女性ボクサーを選ぶとしたら誰になりますか? 

CS : うーん、少し考えなければいけませんが・・・・・・一人挙げるならケイティ・テイラーですかね。スキルがあるし、プロでも向上しています。試合をするたびにより良い選手になっていると思います。

ーー最終目標は「史上最高の女性ボクサーになること」だと話していますが、これまでの史上最高は誰だと思いますか? 

CS : スキルの面ではルシア・ライカ(オランダ)だとよく言われていますね。それからアン・ウルフ(アメリカ)も凄いパワーを持っていて、彼女はKOアーティストと称されるべきファイターでした。レイラ・アリ(アメリカ)の名前を挙げる人もいると思いますが、より多くのタフファイトを経験したウルフが上でしょう。プロで敗戦も経験しましたが、その相手にもリマッチで雪辱しました。これまでで最強はライカかウルフだと思います。

ーー男性、女性にかかわらず、子供の頃に好きだった選手は? 

CS : 女性ボクサーでフェイバリットと呼べる選手はいなかったです。男性ボクサーで見るのが好きだったのは、シュガー・レイ・ロビンソンとジョー・ルイス(ともにアメリカ)でした。

ーー五輪2連覇を果たしましたが、そのままアマチュアで戦い続けて2020年の東京五輪を目指すことは考えなかったですか?  

CS : もちろん考えましたよ。今でもその機会があればと考えることはありますが、もう難しいでしょう。とても難しい選択でした。2度も金メダルを獲得し、3個目も勝ち取れることはわかっていました。そこで「人々のリスペクトを勝ち取り、最高の女子ボクサーとして認められるためにやるべきことは?」と自分自身に問いかけたんです。オリンピックの女子ボクシングはプロよりも規模が大きいかもしれない。ただ、2012年から2016年の間に気づいたのは、五輪の間の4年間は試合がテレビ中継もされず、世間の目から消えてしまうということ。2012年にファンになってくれた人も、2016年までに私が引退したと思ったそうです。それに比べ、プロになればテレビで試合が中継され、お金がもらえます。それらを総合し、史上最高の女子ボクサーになるためにはプロにならなければいけないと感じたんです。レイラ・アリやウルフが名声を勝ち得たのも、アマチュアではなくプロで活躍したからです。

ーーいつか、プロボクサーとして日本で戦うことに興味はありますか?

CS : もちろんですよ!良い報酬を用意してくれて、強い対戦相手を見つけてくれれば、間違いなく行きます。私はこれまでも多くの国を訪れてきました。日本にも良い選手がいるはずですが、誰であろうと私に打ちのめされることになります(笑)

ーー23歳ですでに多くのものを手にしましたが、何歳くらいまでボクシングを続けたいと考えていますか? 

CS : 35歳くらいですかね。ただ、1戦ごとに集中したいので、あまり先のことは考えていません。ボクサーとしても人間としても向上していきたい。お金も大事ですが、私が戦うのはボクシングが好きだからです。

ーー引退後に何がしたいかプランはありますか? 

CS : まだまったくわかりません。28、29歳くらいで子供が産みたいですね。そして35歳になる前には結婚したい。演技の勉強もしているし、モチベーショナルスピーカーもやってみたいし、ジムも経営してみたい。ブロードキャスターもいいですね。ただ、今はまだ全然わかりません(笑)

スポーツライター

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している

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