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”夢を売る場所”で世界に届くか 今週末、伊藤雅雪がディズニーワールドの近隣でWBO世界Sフェザー級戦

杉浦大介スポーツライター
Photo By Mikey Williams/Top Rank

7月28日 フロリダ州キシミー シビックセンター

WBO世界スーパーフェザー級王座決定戦

クリストファー・ディアス(プエルトリコ/23歳/23戦全勝(15KO))

伊藤雅雪(伴流/27歳/23勝(12KO)1敗1分)

米国内での話題性はもう一つだが

 最初に断っておくと、今回のディアス対伊藤戦のアメリカ国内での注目度は決して高いとはいえない。同日にはマイキー・ガルシア(アメリカ)対ロバート・イースター・ジュニア(アメリカ)という世界ライト級統一戦がロサンジェルスで開催され、ボクシング界の関心はそちらに集中している。

 米国の主要なボクシング記者はLAに行くはずで、キシミーに取材に訪れるのはプエルトリコ、日本のメディアくらいではないか。

 ディアスは過去2戦はマディソン・スクウェア・ガーデン・シアターのアンダーカードに起用され、ニューヨークのファンにはある程度おなじみになった。特に昨年12月にはワシル・ロマチェンコ(ウクライナ)対ギジェルモ・リゴンドー(キューバ)という”マニアのスーパーファイト”のセミに登場。ここでブライアント・クルス(アメリカ)から4度のダウンを奪ってあげたTKO勝利は鮮やかで、知名度アップという点では大きかった。

 ただ、ディアスは無敗プロスペクトではあっても、例えばフェリックス・ヴェルデホのように母国のファンから常に熱い期待を浴びてきたスター候補ではない。

 ディアス対伊藤戦は“ESPNで全米中継の大舞台”と一部で喧伝されたが、実際にはESPN+のストリーミング中継のみ(視聴料は月4.99ドル)。今春から新たに始まったこの動画配信サービスの契約者はまだそれほど多くはないはずで、これまで配信されたボクシング番組の視聴件数は10万件にも満たないと囁かれる。前述通り、ガルシア対イースターのいわば“裏番組”で放送される今週末のタイトル戦も、視聴者はかなり限られるはずである。 

 と、こうして話題性の乏しさばかりを挙げてきたが、だからといって今回のWBO世界スーパーフェザー級王座決定戦が価値がないファイトだと言いたいわけではもちろんない。むしろその逆である。

 例え前評判は高くなくとも、土曜日が終わる頃、「ディアス対伊藤戦こそが今週末のベストファイトだった」と言われる可能性も十分あるのではないか。見逃したファンは悔しい思いをすることになっても不思議はない。この2人はスタイル的に見事に噛み合いそうで、好試合は必至に思えるからだ。

白熱の好勝負が有力

 思い切りの良い左フックが特徴のディアスは瞬発力が持ち味で、特にインサイドで勢いを感じさせる。正統派のボクサーである伊藤とは、激しい距離の奪い合いが濃厚。序盤からディアスが果敢に距離を詰め、伊藤も応戦し、見せ場の多いタイトル戦になりそうである。

 地の利もあって戦前の下馬評はディアスに大きく傾いているが、サイズ、経験で勝り、叩き上げのたくましさを感じさせる伊藤に勝機がないとは思わない。基本がしっかりしているのは心強いし、頻繁に米国で練習を積んできた努力も生きるはずだ。前半から相手の回転力に圧倒されてしまう可能性は否定できないものの、後半勝負に持ち込めばチャンスは出てくる。

 特にディアスには8ラウンド以上を戦った経験はなく、テストマッチと呼べるような試合はほぼ皆無。爆発力はあってもやや粗っぽく、適応能力は証明されていない。挫折を知らないプエルトリカンのスピーディなフックに冷静に対応し、伊藤が得意とする右パンチが徐々に生きてくる展開になれば・・・・・・。

”夢を売る場所”での歴史的戴冠なるか

 スリリングな攻防の末、この試合はドラマチックな結末も十分に考えられる。少なくとも、だらだらした凡戦になる要素は見当たらない。そういった意味で、ロマチェンコの後継王者を決める一戦はなかなか興味深いファイトである。

 26日の最終会見の際、準備してきた英語で伊藤が挨拶した映像を見て、改めて好感を持ったファンは多かったのではないか。例え流暢ではなくとも、現地の言葉で話そうとするアスリートは海外では好意的に捉えられる。とりあえず掴みはOKで、あとは肝心のリング上でどんなパフォーマンスができるか。

 勝てば1981年の三原正(三迫)以来、実に37年ぶりとなるアメリカでの日本人ボクサーの世界タイトル獲得。そんな記録だけでなく、ディズニーワールドからほど近い会場での世界戦で、小気味良い打ち合いでファンを沸かせた上で、記憶にも残るマジカルな戴冠劇を期待したいところだ。

スポーツライター

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している

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