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スペンスJr.は実力者ピーターソンにも圧勝 サーマン、ガルシア、クロフォードらとの対戦は実現するか

杉浦大介スポーツライター
Photo By Amanda Westcott/SHOWTIME

1月20日 ブルックリン バークレイズセンター

IBF世界ウェルター級級タイトルマッチ

王者

エロール・スペンスJr.(アメリカ/28歳/23勝全勝(20KO)

7回終了TKO

元2階級制覇王者

ラモン・ピーターソン(アメリカ/33歳/35勝(17KO)4敗1分)

新星の圧勝劇

 戦前からスペンスが断然有利と予想された今戦では、王者は勝つだけでなく勝ち方が重要だとみなされた。その期待通り、スター候補は12107人の観衆にため息をつかせるほどの強さを披露する。トップレベルの実績豊富なピーターソンに圧勝したことで、米ボクシング界期待の星はまた一つ階段を上ったと言って良い。

 「KOできると予期していたけど、こんな風に支配できるとは考えていなかった。良いパフォーマンスができたと思う。ピーターソンという素晴らしいファイターと戦って、良い結果が出せた」

 スペンス本人がそう振り返った通り、開始ゴング直後からどちらが優勢かは誰の目にも明白だった。ガードの固い相手をボディで崩した王者は、その後に顔面に強打を返して楽々と主導権を掌握。ステップワークとアッパーの使い方の上手さも際立った。5ラウンドに左右フックでダウンを奪うと、以降も元2階級制覇のベテランを打ちのめし続けた。

 多少の被弾もものともせず、自信満々に強打を叩きつけるパワーボクシングは爽快感たっぷり。1発浴びたら、直後にコンビネーションで数倍のお返しをするのだから相手はたまらない。7回終了後にピーターソン側のバリー・ハンター・トレーナーが試合を止めた際にも、ストップも当然の空気が場内に漂っていた。

攻撃的なスター候補

 「現時点で自分がパウンド・フォー・パウンド(PFP)No.1だと言うつもりはないが、そこに向かっていると思う」

 試合後の会見でスペンスはそう述べたが、文句のない形で初防衛を飾った後で、実際に多くの媒体が発表するPFPランキングでもさらに順位を上げるだろう。

 前記したように被弾傾向はあるが、本人が「まだディフェンスに向上の余地がたくさんある」と述べているのは心強い。何より魅力的なのは、フロイド・メイウェザー、アンドレ・ウォードに代表される近年の多くの米国人トップファイターとは一線を画し、スペンスは生粋のパワーとキラーインスティンクトを持っていることだ。

 基本に忠実で、パンチが多彩なだけでなく、相手を制圧しようという攻撃的なメンタリティを保持している。単なる点取りゲームではない“ファイト”を展開してくれるという意味で、どこかオールドファッションな趣も漂う。もちろんアウトボクシングや試合運びのうまさが持ち味の選手を否定する気は毛頭ないが、スペンスの分かり易さは興行の世界では魅力だ。

 「今日やったことを続ければ、周囲が気づいていくだろう。エキサイティングなファイトをすれば、多くの客が呼べるようになるんだ」

 “メイウェザーとは違い、トラッシュトークを好まないスペンスがスーパースターになるにはどうしたら良いか”と問われ、このイベントのプロモーターを務めたルー・ディベラはそう答えていた。

 今後も強敵と戦い、オフェンス重視のスタイルで勝ち続ければ、知名度は必然的に上昇する。順調にいけば、サウスポーのデストロイヤーが遠からずうちに世界ボクシング界の主役の1人に躍り出る可能性は高い。

次のターゲットは誰か

 スペンスにとっての近未来の鍵は何と言ってもマッチメイクである。

 「今年は3試合はしたい。今日は大きなダメージは受けてないから、5、6月にまたリングに上がりたいね。できれば故郷のダラスでも試合がしたい」

 今戦までの16ヶ月間で1戦をこなしただけで、アメリカでのリング登場はゼロに終わっただけに、スペンス本人にも試合ペースを上げたいという強い希望があるようだ。

 ピーターソン戦の後にも盛んに話題になっていた通り、WBA、WBC王者キース・サーマン(アメリカ)との統一戦、ウェルター級に昇級予定の元スーパーライト級王者テレンス・クロフォード(アメリカ)との決戦の実現が今後の焦点になる。ただ、肩のケガでブランクを作ったサーマンとの対戦は早くて今年末。まだウェルター級で試合をしておらず、プロモーターの違いという難関もあるクロフォードとの激突は来年以降だろう。

 問題はこれらのハイライトに辿り着くまでに、アル・ヘイモンがどれだけの舞台をスペンスに用意するかである。

 過去にサーマンに敗れたダニー・ガルシア(アメリカ)は、2月17日にブランドン・リオス(アメリカ)戦の予定。Showtimeがスペンスの次戦のために枠を空けているという6月には十分に間に合う。しかし、近年は煮え切らないマッチメイクでファンを落胆させているガルシアは、リスキーなライジングスターとの対戦を受けるかどうか。あるいはサーマンへの指名挑戦権を持つショーン・ポーター(アメリカ)が、IBF王座に矛先を変えることはあり得るのか。

 ともあれ、ファンが近未来を楽しみにできる攻撃的なタレントが頭角を現したことを素直に喜びたい。メイウェザー、マニー・パッキャオ(フィリピン)の時代はほぼ完全に終わり、世界ウェルター級はスペンス、サーマン、クロフォードを中心とした新時代に移行しようとしている。

 その移り変わりのスピードを早めるためにーーー。試合内容でファンを喜ばせられる稀有な正統派パンチャーが、リング登場ペースと対戦相手の質にも恵まれることを心から願いたいところだ。

スポーツライター

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している

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