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【NBA】 ブルックリンに光は見えたか ネッツが歩む“NBA史上最も難しい再建”の道

杉浦大介スポーツライター
(写真:USA TODAY Sports/アフロ)

今年最後のホーム戦はドラマチックだったが・・・・・・

ブルックリン・ネッツにとって、2016年最後のホームゲームの劇的な結末は今季のハイライトになるかもしれない。

地元ブルックリンで行われた12月26日のシャーロット・ホーネッツ戦。118-118の同点で迎えた最終クォーターに、ランディ・フォイがドラマチックなブザービーターを決めて底力のあるホーネッツを下した。

フォイのシュートが決まった瞬間、ネッツの選手たちはまるでプレーオフのシリーズに勝ったように大騒ぎ。バークレイズセンターを埋め尽くしたファンも満足して家路に着いた頃だろう。

ただ・・・・・・今季も約1/3を終えて、このような歓喜のシーンはごく数えるだったのも事実ではある。

ここまでのネッツは8勝23敗でイースタン・カンファレンスの15チーム中14位。ホーネッツ戦こそ珍しく満員となったが、今季の平均観客動員数もリーグ26位と、2012年にブルックリンに移転した当時のBuzzは吹き飛んでしまった。

ロースターの中で、知名度と安定した得点力があるのがブルック・ロペス、ジェレミー・リンくらいでは余りにも厳しい。“タレント数ではリーグ最低”という不名誉な評も聴こえて来る。伸びしろは現在イースタン15位のフィラデルフィア・76ersの方が遥かに上であり、ネッツは最終的にはリーグ最低勝率で沈んでも不思議はない。

勝てないことよりもさらに大きな問題

ネッツにとっての最大の問題は、今季に勝てていないことではなく、2017、2018年のドラフトで1巡指名権を保持していないことだ。

現在のような勢いで負ければ、本来であれば、NBAのドラフトシステム上、来年度のドラフトでの上位指名が確約される。過去3年の76ersは露骨なタンキングで負け続け、おかげでジョエル・エンビード、ベン・シモンズといった金の卵を得るに至った。しかし、ネッツは状況が大きく異なる。

ブルックリン移転後に即座の優勝争いを狙ったミハイル・プロホロフ・オーナーの号令一下、ネッツは2011年以降にデロン・ウィリアムス、ジェラルド・ウォーレス、ジョー・ジョンソン、ケビン・ガーネット、ポール・ピアース、アンドレイ・キリレンコといったビッグネームを次々と獲得。その見返りに、近未来の多くのドラフト指名権を放出してしまった。

結果的に、ロシア人オーナーのギャンブルは見事に失敗に終わる。優勝どころかイースタン・カンファレンス・ファイナルの進出も叶わぬまま、一連の大型補強で獲得された選手たちはすでにすべてブルックリンを去った。

すべての代償として、好選手は不在、ドラフト指名権も持たないという考え得る限り最悪な現在の状況が生まれたのである。

金では買えないもの

「ショーン・マークスGMはドラフトロッタリー指名権を持たぬまま、ロッタリーチームを再建しなければいけない。前体制の失敗を引き継いだマークスは、史上最も難しい再建に挑んでいるのかもしれない。お金だけでは泥沼は抜け出せない」

今年の開幕前、老舗「スポーツ・イラストレイテッド」誌はネッツの現状をそんな風に記していた。実際に今季序盤戦を見ても、ブルックリンのトンネルの向こうに光は見えてきていない。

Dリーグ上がりのショーン・キルパトリックの意外な台頭、クロアチア代表のボヤン・ボグダノビッチがNBAの水に慣れてきたことなど、明るい材料もなくはないが、彼らは長い目でチームの主軸が任せられる選手たちではない。

台湾系として注目を集めるリン以外に、客が呼べるスターは存在しない。短絡的なチーム作りを焦って進めたがゆえに、ネッツに愛着を持ってサポートしてくれる強力なファンベースも生まれていない。

今後はFA になるスター選手を惹きつけられるような環境を整えるのが課題になる。ただ、それは簡単ではなさそう。率直に言って、現状では、“ブルックリンでプレーしたい”と考えるスーパースターなどほとんど皆無だろう。

「多くのけが人が出た中で、私たちはラインナップの適切なコンビネーションを見つけようとしている。判断をするためにはしばらく時間が必要。現在はまだベストラインナップを模索する途中で、パズル全体を見極めなければいけないんだ」

26日のホーネッツ戦時、今季からチームを任されたアトキンソンHCは気丈にそう語っていた。

しかし、このアトキンソンと、昨季途中からチーム作りを担当しているマークスGMが“史上最も難しい再建”に挑んでいるという表現は、大げさではないかもしれない。タレント不在、ドラフト指名権もなく、FA選手たちからも敬遠されがち。そんな中で、どうやってチームを作れば良いのか?

ロペスの放出ははじめの一歩

手段があるとすれば、一部の実績ある選手を放出してのトレードでドラフト指名権を得ることだろう。

フランチャイズプレーヤーのロペスは今季も平均20.9得点と好調。スリーポイントシュートという新たな武器(昨季までの8年でスリーは合計3/31だったのが、今季は最初の28戦で56/148)を手に入れたセンターの獲得を望む強豪チームはいるはずだ。

コンテンダー相手のトレードでは、ドラフト1巡指名権を手に入れてもロッタリー外の可能性が高いが、それでも1つのスタートにはなる。

ロペスとの契約は2017〜18シーズン後に切れる。現実的にそれまでにネッツが浮上する可能性はゼロなのだから、ならば商品価値が高いうちに“換金”するのが得策。スカウティングを充実させれば、ドラフト全体20位台の指名でも戦力になる選手を手に入れるのは不可能ではないはずである。

もちろんロペスの放出はほんの手始めに過ぎず、ネッツの行く手にはイバラの道が待ち受けている。プレーオフで上位進出が狙えるようなチームに戻れるとして、いったい何年かかるのか。

これからしばらくの間、ネッツの周囲のすべての人間は、前体制の失敗のおかげで真綿で締めつけられるような思いを味わうことになる。ブルックリン移転後に生まれた(それほど多くはない)新たなファンも、長い長い我慢の時間を余儀なくされることは間違いない。

スポーツライター

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している

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