スミスを悶絶KOしたカネロは怪物ゴロフキンとの決戦に前進したのか?

Photo By Tom Hogan- HoganPhotos/Golden Boy Promotions

9月17日 テキサス州ダラス AT&Tスタジアム

WBO世界スーパーウェルター級タイトル戦

元世界スーパーウェルター級、ミドル級王者

挑戦者

サウル・“カネロ”・アルバレス(メキシコ/26歳/48戦(34KO)1敗1分)

KO 9ラウンド2分28秒

王者

リアム・スミス(イギリス/28歳/23勝(13KO)1分1分)

ボディでの鮮烈なKO劇

第9ラウンド後半、ロープ際で相手の攻撃をいなし、左ボディ一閃ーーー。

リング上で悶絶する王者スミスを見て、勝利を確信したカネロは、ニュートラルコーナーに上って両手を突き上げた。まだ26歳のメキシカンは、短期間にビクトリーポーズが似合う選手になった感がある。

巨大なスタジアムに集まった51240人(2010年のマニー・パッキャオ(フィリピン)対ジョシュア・クロッティ(ガーナ)戦の50944人を上回り、同会場でのボクシング興行での観客動員記録)のファンは大喜び。メキシコ独立記念日週末恒例の大興行は、ドラマチックな形で大円団となった。

「僕は誰も恐れない。僕こそが現役ベストファイターだ」

試合後、リング上でそう語ったカネロ。この日は7ラウンドに右フックで、8ラウンドには左ボディでダウンを奪い、イギリス人王者を合計3度もマットに沈める圧勝劇でスーパーウェルター級タイトルを取り戻した。だとすれば、試合後のビッグマウスも無理もない。

筆者の取材キャリアでも、これだけ完璧なボディで相手を沈めるのを目の前で見たのは・・・・・・2013年6月のゲンナディ・ゴロフキン(カザフスタン)対マシュー・マックリン(イギリス)戦以来だったかもしれない。

周囲の想定通りの結末

前戦のアミア・カーン(イギリス)戦、去年5月のジェームス・カークランド(アメリカ)戦と、注目される舞台で種類の違う豪快KOを見せていることには大きな意味がある。今戦では多彩なコンビネーションにも磨きがかかり、依然として成長中の印象を見ているものに与えるファイトだった。

もっとも、スーパーウェルター級に下げてのスミス戦は、まさにカネロをよく見せるためのマッチメイクだったことも留意しておかなければいけない。

好戦的だが攻防分離で、カウンターを取るスキルはない。それでいて一発のパワー、馬力にも欠け、経験でも劣るスミスはカネロにとって怖い選手ではなかった。端的に言って、だからこそこの時期の相手に選ばれたと言って良い。

そんなタイトルホルダーを、パワー面で大きなアドバンテージを持つカネロが中〜後半にストップすることは予想通り。劇的にフィニッシュする力は評価されてしかるべきだが、スポーツの試合内容、結果は常に相手のクオリティ次第である。筋書き通りに終わったタイトル戦での試合内容を特筆しすぎるべきではないだろう。

振り払えないゴロフキンの影

そんなカネロの周囲に、ミドル級の帝王ゴロフキンの影がつきまとい続けている。

「カネロはまだミドル級の身体になってない」「来年まで待った方がより大きなビジネスになる」

今回の試合前後、カネロとその陣営にはスミスに関するよりも遥かに多くのゴロフキン絡みの質問が浴びせかけられ、そのたびにプロモーターのオスカー・デラホーヤは苦しい返答を余儀なくされた。

「約1ヶ月前、私たちは3、4倍(の報酬)をGGGにオファーした。準備はできていたのに、彼が受け入れなかった」

スミス戦後のリング上ではカネロはそう語り、全体会見ではデラホーヤもそのシナリオを繰り返し述べていた。

2人のコメントを総合すると、ゴールデンボーイ・プロモーションズ(GBP)はゴロフキン側に8桁(1000万ドル以上)の報酬を提示したが、K2プロモーションズのトム・ローフラー氏はこれに取り合わず、返事もよこさなかったという。

しかし、試合前には黙っていたこんな話をここで明かしたのも、やはりリスキーなファイトを先送りにしたいGBPの最新のアリバイ作りに見えてしまう。

カネロのこの先のプラン

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今後、スミス戦で痛めた右拳に問題がなく、ニューヨーク興行の保険の問題が解決できれば、カネロは12月にマディソン・スクウェア・ガーデンでミドル級での試合を予定しているという。

さらに来年5月のシンコデマヨにもう1戦を挟み、ゴロフキン戦は1年後の9月。この間には状況は大きく変わり得るだけに、ここでのオファーをK2プロモーションが相手にしなかったのは当然だろう。

断られるであろう条件をライバルに突きつけ、“私たちはオファーしたのに相手が避けた”と公表するのは一部の大物ボクサーの常套手段。デラホーヤとGBPも、単にこれに倣ったのではないかと勘繰りたくもなる。

公平を期して言えば、ゴロフキン戦を来年まで引き延ばしたいカネロ陣営の考えは十分に理解出来る。それまでに実績を積み重ね、より大きなサイズの選手との対戦に向けて準備する。現在34歳のゴロフキンはまた1つ歳を重ねるわけで、衰えを見せ始めることも計算内。そして、デラホーヤが言う通り、1年後まで待った方が興行価値もより大きくなることは紛れもない事実である。

プロボクシングはビジネス、ボクサーにとって試合は仕事なのだから、より良い条件を引き出そうとすることが悪いとは思わない。

ドリームファイトの行方は

ただ、その過程においてカネロが「俺は準備できている。自分こそが最強」と繰り返していることが、多くのファンを逆なでするのだろう。

特に5月のカーン戦後にはリングサイドで見ていたゴロフキンにリングに上がることを要求。その舌の根が乾かぬうちにミドル級タイトルを返上した一連の流れのあと、カネロは米国内でも最もアンチの多いボクサーになった感がある。

もっとも、この日に巨大スタジアムに5万人以上を集めたことが示す通り、多くのメキシカンはいまだに母国のアイドルをサポートしている。そして、ヒールになることで興行価値が増すのもボクシング界の特徴。メイウェザーとアル・ヘイモンが丹念に練り上げたプレーブック通り、様々な形で論議を呼ぶメガスターへの道をカネロも着実に歩んでいるとも考えられるのかもしれない。

いずれにしても、現在最高峰のファイトであるゴロフキン対カネロ戦の実現に向けて、まだまだ波乱がありそうな気配。カネロがスミス戦をクリアして、一歩前進したと言い切れるのかどうかも微妙なところか。

いつか両雄がリングに立つまでに、ファンにとってはもどかしいチェスマッチが続いていくことになりそうである。