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”アメリカの新恋人” スペンスが再びブルックリンの大舞台へ 〜IBF世界ウェルター級挑戦決定戦展望

杉浦大介スポーツライター

Photo By Ed Diller / DiBella Entertainment / Premier Boxing Champions

8月21日 ブルックリン コニーアイランド

IBF世界ウェルター級挑戦決定戦

エロール・スペンス・ジュニア(アメリカ/26歳/20勝全勝(17KO)

レオナルド・ブンドゥ(シエラレオネ/41歳/33勝(12KO)1敗2分)

再び地上波で全米生中継

2戦連続でブルックリン開催、どちらも地上波NBCが生中継ーーー。そんな背景を見れば、アル・ヘイモンと“プレミア・ボクシング・チャンピオンズ”、さらにはNBCがスペンスに大きな期待をかけていることは明白だ。

ロンドン・オリンピアンはプロでも破竹の連勝中。台頭期にはスパーリングでフロイド・メイウェザー、エイドリアン・ブローナー(ともにアメリカ)を苦しめたとの噂が流れ、その時点で話題の存在になった。今年の4月にはしぶといクリス・アルジェリ(アメリカ)を5ラウンドに鮮烈にストップし、そこでこのプロスペクトは“アメリカ期待の星”に昇華した感がある。

今回はIBFのエリミネーションバウトであり、勝者は王者ケル・ブルック(イギリス)への挑戦権を得る。しかし、来月にミドル級王者のゲンナディ・ゴロフキン(カザフスタン)に挑むブルックはもともと大柄のウェルター級選手として知られ、このまま同級は卒業するのではないかと見る関係者は多い。

スペンス対ブンドゥの勝者は年内にも王座決定戦に進むか、そのまま新王者に認定される可能性もあるだろう。

「次に何が起こるかは心配していない。自分の仕事を果たすだけ。ただ、世界タイトルを獲るチャンスがあるなら、なるべく早く実現させたいけどね」

18日にマンハッタンのイーストビレッジで行われた最終会見では、スペンスはそう語って目を輝かせいてた。

現在リオ五輪がたけなわ。ロンドン五輪でのメダル奪取は叶わなかった俊才は、プロでのタイトルに確実に前進している。

KOを狙い過ぎれば苦戦の可能性も?

ただ、今回対戦するブンドゥは必ずしも簡単に倒せる相手とは思えない。41歳の大ベテランは、2014年にはWBA王者キース・サーマン(アメリカ)に0−3の判定負けを喫した。初回にダウンを奪われ、ジャッジは3人とも107-120という結果を見れば、大惨敗に思えるかもしれない。

しかし、中盤以降のサーマンは盛んにスイッチしながら前に出てくるブンドゥに少々手を焼いた。タフなブンドゥをKOすることは諦め、相手の射程距離に入らないように気をつけながらフルラウンドを戦い抜いた印象がある。

「KOしたいし、スペクタクルを見せたい。アウトボクシングの必要があるならそうするが、できればアルジェリ戦のようなパフォーマンスを見せたいね」

そんな言葉が示唆する通り、アマキャリアも豊富でバランスの良いスペンスが丁寧に戦えば、勝利自体は動くまい。

ただ、メイウェザーのように派手なパーソナリティの持ち主ではない26歳は、スター街道入りのためには試合内容でアピールする必要があることを自覚しているはず。そして、KO負けの経験がないブンドゥをストップすれば、インパクトが大きいことも理解しているに違いない。

五輪バスケ決勝戦との相乗効果も

予想を巡らすなら、前半にスペンスがブンドゥを追い込むも、倒すには至らず、後半は大事に戦ってのフルラウンド勝負。まさにサーマン戦と似た流れで、スペンスが大差判定勝利を飾ると見る。

ただ・・・・・・アメリカの星にはここでも再び鮮烈なノックアウトで魅せて欲しいと願わずにはいられない。それを狙えばリスクも出てくるが、成し遂げたときに得られる賞賛も大きいはずだ。

「スペンスは地上波放送で真価を証明できる。リオ五輪の男子バスケットボール決勝戦のあとに続けて放送されるんだ。バスケの決勝戦を見る視聴者は、ボクシングも見るようになって欲しい層。このイベントをプロモートできることは名誉だよ」

ルー・ディベラ・プロモーターのそんな言葉通り、黒人のスター選手が多いバスケットボールとボクシングのファン層は被ることが多い。

ケビン・デュラント、カーメロ・アンソニーといったスターが率いるアメリカ代表が予想通りに金メダルを争えば、決勝戦は高視聴率が確実。そして、その視聴者の大半がそのままボクシングにチャンネルを合わせ続けることは考えられる。ヘイモンとNBCのエグゼクティブの読み通りなら、バスケの直後に放送されるスペンス対ブンドゥ戦もかなりの視聴者数を記録することだろう。

そんなビッグオーディエンスの前で、アメリカの静かなる新恋人はどんなボクシングを見せてくれるか。テレビ局の強烈なバックアップも受け、スペンスのさらなるブレイクの瞬間は間近に迫っているのかもしれない。

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スポーツライター

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している

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