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”オハイオ対決”に圧勝のショーン・ポーターがビッグファイト路線へ 〜ブローナー対ポーター戦より

杉浦大介スポーツライター

Photo By Idris Erba/Mayweather Promotions

6月20日 ラスベガス

MGMグランドガーデン・アリーナ

契約ウェイト144パウンド12回戦

ショーン・ポーター(アメリカ/26勝(16KO)1敗1分)

3−0判定(114-112, 115-111, 118-108)

エイドリアン・ブローナー(アメリカ/30勝(22KO)2敗)

アグリーな消耗戦を制す

頭から突進し続けるポーターに、ホールドを繰り返すしかなかったブローナー。両者のスタイルから考えて、ウェルター級の元王者対決が美しい試合にならないことは予想されていたことではあった。それでもこれほどアグリー(不細工)なファイトになると思った人は少ないのではないか。

ただ、勝敗自体はポーターの勝ちで文句のないものではあった。ポーターのパンチもほとんどクリーンヒットはしていなかったが、コンスタントにプレッシャーをかけ続ける。合計590発(ブローナーは計309発)ものパンチを繰り出し、決定打はなくとも押し切った形だった。

ブローナーは元気がなかっただけに、ポイントは大差がついてしかるべき。最終ラウンドに左フックで奇麗なダウンを喫し、その際は少なからずのダメージを受けてはいたが、この3分間以外はポーターがほぼ試合を支配した。 

「試合前にしっかりと準備できた。試合ではジャブを使って自分の方がベターなボクサーだと印象づけるつもりだった。それが実際にできて、そしてプレッシャーをかけ続けることもできた。それゆえにこの勝利を手に出来たんだ」

そう自画自賛した通り、センスに満ち溢れた同じオハイオ出身の元王者に完勝したことは評価されて良い。

昨年8月にケル・ブルックに僅差の判定負けを喫してIBF王座を失ったポーターだが、以降は2連勝。地上波NBCでプライムタイムに生中継されたファイトを制し、今後はビッグファイトへの道が開けてくるはずだ。

メイウェザーの相手候補に浮上?

試合前、ポーター戦にブローナーが勝てば、フロイド・メイウェザー対ブローナーの“兄弟対決”が話題になることが一部から推測されていた。

しかし、メイウェザーが可愛がる愛弟子は誰にも文句のない形で完敗。だとすれば、流れ的に、メイウェザーが9月に予定する次戦の対戦者候補にポーターの方が浮上してきても不思議はない。ただ・・・・・・

「ポーターは俺の試合の前座でエロール・スペンスJrと戦うべきだよ。俺の次の相手はアンドレ・バートかカリム・メイフィールドのどちらかだ」

試合後、MGMグランドガーデン・アリーナの外でメディアに囲まれたメイウェザーは、何度か形を変えて質問されても、そんな風に主張するばかりだった。

メイウェザーの真意はどこにあるのか。ブローナー同様に目をかけているウェルター級プロスペクトのスペンスを随分とプッシュしたいようで、スペンス対ポーター、あるいはスペンス対サーマンの実現を煽り続けた意図は分かる。

だとしても、自身の次の相手がバートかメイフィールドと対戦というのは両者の近況、実績的にまず考えられない。これは無敗王者のお気に入りのジョークに違いない。

ポーターにしても、スタイル的には無骨過ぎ、ブローナー戦も一般のファンにアピールできる内容ではなかったのは前記した通り。例えBサイドでも、PPVのメインを張るのはおそらくまだ早過ぎる。それでも、メイウェザーにとってアミア・カーンくらいしか対戦相手の現実的な選択肢がない現状で、結局はポーターの名前も取沙汰されるのではないか。

いずれにしても、これまでデボン・アレクサンダー、ポーリー・マリナージ、ブローナーといった実力者に明白に勝って来たポーターが注目すべき存在であることは間違いない。

ナチュラルの才能に恵まれたタイプではないが、自身の武器を最大限に生かす工夫と気概は見えて来る。元スーパーウェルター級にも関わらず、今回はブローナー側に突きつけられた144パウンドのキャッチウェイトもものともせず、その底力を誇示した。

次の相手は、スペンスか、サーマンか、それともメイウェザーか。オハイオ出身の27歳からしばらく目が離せなくなりそうだ。

ブローナー株はどん底へ

無敗のままスーパーフェザー、ライト、ウェルター級の3階級を制し、ブローナーが“未来のスーパースター”と讃えられたのも今は昔。スーパーライト、ウェルター級に上げて以降はフィジカル、パワーのアドバンテージが目減りし、マルコス・マイダナ、ポーターという馬力型に2敗を喫した。天性のスキルも生かし切れておらず、かつての輝きは消え失せてしまった感がある。

「俺は大丈夫だよ。子供たちも大丈夫だし、カネも儲かっている」「誰とだって戦うさ。(今回は)判定はものにできなかったけど、ここにいるみんなは結局は僕のサインを欲しがり、写真を撮りたがるんだから」

手痛い2敗目の直後、ブローナーはそんな傲慢なコメントをリング上で連発してファン、関係者を呆れさせた。こんな不遜な態度がゆえに、この選手は周囲の神経を逆撫でし、成長を楽しみにした人々を落胆させるのだろう。

過去5戦では3勝2敗、KO勝利はなし。強力アドバイザーのアル・ヘイモンも“プレミア・ボクシング・チャンピオンズ(PBC)”の柱の1人としてブローナーに期待をかけて来たようだが、今後は強豪との対戦時にはBサイドに陥落か。

ポーター戦の最終ラウンドにダウンを奪った左フックなどは素晴らしく、完全に見限るには勿体ないタレントではある。しかし、階級を下げるか、トレーナーの交代などの変化は必須だろう。何より、精神的に筋金が入る必要性が絶対的に感じられるが・・・・・・・ここしばらくの迷走を見る限り、今回の敗戦後も、ブローナーが大きく変わるとは思えないのが現実ではある。

スポーツライター

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している

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