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49歳の世界Lヘビー級統一王者誕生なるか 〜コバレフ対ホプキンス戦が実現へ

杉浦大介スポーツライター

Photo by Rich Graessle/Main Events

8月2日

WBO世界ライトヘビー級タイトル戦

米国ニュージャージ州アトランティックシティ

王者

セルゲイ・コバレフ(ロシア/25勝23KO無敗1分)

2ラウンド1分47秒TKO

挑戦者

ブレイク・カパレロ(オーストラリア/19勝6KO1敗1分)

KO街道を行くコバレフ

コバレフがまさかのダウンを喫した瞬間の、キャシー・デュバ・プロモーターのリアクションが象徴的だった。

第1ラウンドも半ばを迎えた頃、無名のカパレロの左を浴びたコバレフが思わずキャンバスに手をつく。その直後、デュバ女史はショックの余り両頬に手をあてて目を見開き、まるで映画「ホームアローン」のマコーレー・カルキンのような仕草をみせたのだった。

「これまでの人生が目の前でちらついたわ」

試合後のデュバの言葉は正直な思いの吐露だったはずだ。

アメリカでも売り出し中の王者の単なる王座防衛戦のはずだったこの日の試合は、前日の急展開のおかげで、より大きな意味を帯びていた。コバレフが勝てば、今秋に史上最年長王者ホプキンスとの統一戦が実現する。そんなシナリオも、肝心のコバレフが敗れていればご破算になる。

しかし、冷やりとさせられたのはこの一瞬のみ。ダメージを感じさせないコバレフは、第1ラウンド終盤には攻勢に転じ、第2ラウンドに右ボディを差し込んでダウンを奪い返す。その後に連打を2度のダウンを追加し、結局は予想通りに一方的なTKO勝ちを飾った。

「(1度目のダウンは)破壊的なボディショットだっだ。ホプキンスのような偉大なボクサーなら(攻略する)チャンスはあるだろうけど、コバレフは凄いパンチャーだ。グローブの中にダイナマイトを備えているよ」

カパレロ側のルー・ディベラがそう捲し立てた通り、全階級を通じても有数と目されるコバレフの強打は健在。そしてそれ以上に、予想外のダウンにも動じなかった落ち着きぶりが目立ったのも事実だった。

これでコバレフは9連続KO、5度の世界戦はすべてKO勝利。ロシアの“クラッシャー”は、晴れてこれまでのキャリアで最大の一戦に駒を進めることになったのである。

統一戦実現の背景

「ホプキンスの話はしたくない。対戦は具体化したわけではないし、今はまだ目の前の相手との戦いに集中しなければいけないからね」

ファイト1週間前に筆者がホプキンス戦について尋ねた際には、厳しい表情でそう語っていたコバレフ。形を変えた質問をもう1つ続けると、怒りさえ垣間みせたほどで、その時点では話は具体化していなかったのだろう。

しかし、それが急転直下、カパレロ戦前日の8月1日にIBF王者ホプキンスとの統一戦が内定との報道が流れる。期日は11月中(8日が有力)で、場所はアトランティックシティかブルックリンのバークレイズセンター。ホプキンスはWBC王者アドニス・スティーブンソンとの統一戦に向かうことが有力と目されていただけに、一般的によりリスキーと目されるコバレフ戦を受け入れたことは、関係者、ファンを大いに驚かせた。

その背後には、IBFの指名試合の期限が迫っており、早々と統一戦を決めなければ無名のランキング1位ナジム・モハメディとの対戦が義務づけられてしまうという事情があった。そして、スティーブンソン側の交渉時の動きが鈍かったこともホプキンスの決断を促す要素となったようである。

いずれにしても、現在49歳、来年1月には50歳の大台に乗るホプキンスにとって、コバレフ戦は極めて危険なファイトである。それゆえに、多くのボクシングファンを惹き付けることは間違いない。

GBPの選手の試合をHBOが再び中継

注目すべきは、コバレフ対ホプキンス戦がHBOで中継されること。HBOは昨春にゴールデンボーイ・プロモーションズ(GBP)所属の選手の試合は放送しないことを表明していたが、ここでその縛りが破られることになる。

今年6月にリチャード・シェイファーが社長職から退き、GBPは事実上の分裂。その後に舵取り役に戻ったオスカー・デラホーヤがトップランク(注/コバレフはメインイベンツ社の所属)、HBOとの”復縁”を望むコメントを出していたが、今回の試合成立がその第一歩と考えても大げさではないのだろう。

「プロモーター、開催地、テレビ局に関わらず、GBPはファンにとって最高のファイトをお届けするつもりだ。この試合はその意思の現れだよ」

デラホーヤのそんな言葉を信じるなら、今後に夢は膨らむ。

この動きが進めば、GBPの看板の1人としてShowtimeで試合が中継されて来たサウル・カネロ・アルバレスと、現在はフリーエージェントながらトップランク、HBOとの結びつきが強いミゲール・コットのドリームマッチを始め、多くの好カードの扉が近未来に開かれるかもしれない。

様々な意味で、コバレフ対ホプキンスの統一戦は今年下半期を彩る重要な一戦となる。

ホプキンスの長いキャリアの中でも最大級に危険なファイトであり、業界の趨勢に影響を与えかねない統一戦。試合予想などはまたの機会に譲りたいが、まずは両者がケガなどなく、プラン通りに決戦のリングに立つことを望みたいところである。

スポーツライター

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している

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