生きるために必要なのは何か。2020年観るべき1本、格差社会を映す衝撃作『パラサイト 半地下の家族』
2020年、間違いなく観るべき1本です。
第72回カンヌ国際映画祭で最高賞パルムドールを受賞したポン・ジュノ監督の『パラサイト 半地下の家族』(英題:PARASITE/原題:GISAENGCHUNG)。韓国映画として初めてこの栄冠に輝いた本作は、格差社会を映し出しつつ、ブラックコメディやスリラーなどさまざまなジャンルを横断しながら、家族の愛と人間の逞しさをも浮かびあがらせる大傑作なのですから。
まず、観客は想像を超える展開に驚かずにいられないでしょう。なにしろ、マスコミ向けのプレスシートにも[ポン・ジュノ監督からのお願い]として、ネタバレ回避への協力依頼が記されているほど。そして、実際、本作を鑑賞したら、この興奮と感動を一人でも多くの人に味わってもらいたくて、監督の要望に応えずにいられなくなる。まさに驚愕としか呼びようのない展開に興奮するのも、この作品の醍醐味です。
本作が映し出すのは、貧富の二極化が進む現代韓国社会。主人公は、全員失業中で、Wi-Fiの電波も弱い半地下住宅で暮らすキム一家。仕事がなくても楽天的な父キム・ギテク(ソン・ガンホ)、元ハンマー投げ選手の母チュンスク(チャン・ヘジン)。大学入試に失敗し続けている息子ギウ(チェ・ウシク)。美大を目指しているものの予備校に通う金もない娘ギジョン(パク・ソダム)。一家揃っての内職で糊口をしのいでいます。
しかし、ギウが、高台の豪邸に暮らすIT企業社長パク・ドンイク(イ・ソンギュン)の娘ダヘ(チョン・ジソ)の家庭教師を務めることになったことから、対極にある2つの家族の人生が交わることに。高台の豪邸と半地下の狭小住宅が、格差を視覚的に際立たせるなか、タイトルが示すとおり、キム一家がパク一家に寄生しようとするわけです。
ギウに続いて、妹のギジョンもパク家で家庭教師として働きはじめることになるのですが、この導入部分だけですら、それぞれのスキルを駆使して、降って湧いたチャンスを逃さないキム兄妹の逞しさに呆れながらも肩入れしたくなる面白さ。しかも、監督がネタバレ回避への協力を依頼しているここから先の面白さは、物語の進行につれて加速する。こちらの想像を遥かに超える世界が繰り広げられるなか、笑いもサスペンスもあるエンターテインメントを堪能させつつ、格差社会の厳しい現実を突きつけながらも、まさかの感動をも味わわせてくれるのです。
『殺人の追憶』に始まり、ポン・ジュノ監督作はこれが4作目となるソン・ガンホをはじめ、名優たちが登場人物それぞれの人間臭さに共感させてくれるなか、もう1人の重要な登場人物と言えるのが、キム一家のパラサイトの舞台となるパク一家の邸宅。
有名建築家が設計し、暮らしていたという高台の豪邸は、芝生の庭を有し、モダンで洗練されたデザイン。水圧の関係で、家の一番高い場所にトイレが鎮座しているキム一家の不衛生な半地下住宅との格差を鮮やかに視覚化するこの邸宅は、観客にも憧れを抱かせるものです。ただ、そんな最高の邸宅のリビングの天井や掃き出し窓の高さが、その空間の広さの割には低いように感じられることを別にすれば。
もちろん、それも、緑の芝生を見渡すリビングを引きで撮ったとき、観客に無意識のうちに緊張感を抱かせるポン・ジュノの計算でしょう。
道以外はすべてセットという大規模なオープンセットの計算されたビジュアルもお見事なら、緻密に練られたストーリーにリアリティをもたらすモチーフもお見事。とりわけ、“臭い”は、パク家の洗練されたビジュアルによって、キム一家自身も忘れていただろう“格差”を改めて突きつける要素として、実に印象的。その家独特の臭いという、誰もが実感できるもので、キム一家の置かれている状況と、どうにも超えられない境界を観客にも体感させるのです。
でも、この作品の本当の凄さは、エンターテインメントしながら、格差社会を映し出していることではありません。そのうえで、人間が生きるために何が必要なのかを鮮やかに浮かびあがらせていることです。
どんなに過酷な状況にあっても、希望があれば、人間は明日へと命を繋ぐことができる。たとえ、その夢の実現が困難なものだとしても。
厳しい現実を突きつけながらも、その真実に気づかせてくれる。だからこそ、この作品は人の心にいつまでも残り続けるのです。
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『パラサイト 半地下の家族』
2020年1月10日(金)ほか全国ロードショー。
2019年12月27日(金)よりTOHOシネマズ日比谷、TOHOシネマズ梅田にて先行公開中。