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恐怖の先にあるものは? 緻密な構成に痺れる“心霊検証”ホラー『ゴースト・ストーリーズ 英国幽霊奇談』

杉谷伸子映画ライター

怖いもの見たさはあるけれど、Jホラーのように観終わってからもなお、日常のふとした瞬間に恐怖が肌感覚的に蘇るような世界はどうにも苦手という人もいらっしゃるはず。ジェレミー・ダイソン&アンディ・ナイマンの監督・脚本による『ゴースト・ストーリーズ 英国幽霊奇談』(原題:Ghost Stories)は、そんなジレンマを抱える向きにもお薦めのブリティッシュ・ホラー。

“心霊検証”ホラーと銘打たれた本作の主人公は、オカルト否定派の心理学教授フィリップ・グッドマン。自身がホストを務めるテレビ番組で、霊能力者と称する者たちのトリックを暴いてきました。

超常現象など信じない彼に大きな影響を与えているのが、オカルト否定派の先駆けである心理学者チャールズ・キャメロン博士。グッドマンが少年だった頃に、キャメロン博士が超常現象を否定してみせるテレビ番組を見て以来の憧れの存在です。失踪し、既に死亡したとも噂されていたキャメロン博士から呼び出されたグッドマンは、ある依頼を受けることに。

それは、キャメロン博士にも説明できない3つの事象を調査してほしいというもの。この導入部からして、既に、クラシックな怪奇映画を彷彿させる空気が漂います。

2人目の調査対象を演じるのは、『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』('14年)で、主人公アラン・チューリングの少年時代を演じて注目されたアレックス・ロウザー。
2人目の調査対象を演じるのは、『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』('14年)で、主人公アラン・チューリングの少年時代を演じて注目されたアレックス・ロウザー。

1人目の調査対象は、かつて精神病院だった倉庫の夜間警備員トニー・マシューズ(ポール・ホワイトハウス)。2人目は神経質な青年サイモン・リフキンド(アレックス・ロウザー)。3人目は地方の名士マイク・プリドル(マーティン・フリーマン)。

グッドマンは話を聞くため、3人の元を訪れるのですが、それぞれに問題を抱える調査対象たちが語る超常現象は、「来るぞ、来るぞ」というホラー王道のスタイルを貫いて、緊張感に息を詰めさせるだけではありません。その怪奇な出来事の中にいくつものヒントをちりばめながら進んでいくのです。そして、それがのちに、本当の恐怖に繋がってくる。3人が体験した出来事は、時に、観客に疑念を抱かせることもあるのですが、観客にそうした疑念を抱かせることも計算の上でしょう。

グッドマン教授を演じるのは、ジェレミー・ダイソンとともに監督・脚本も務めたアンディ・ナイマン。
グッドマン教授を演じるのは、ジェレミー・ダイソンとともに監督・脚本も務めたアンディ・ナイマン。

とにかく、構成が緻密です。冒頭で聞こえる水滴の音、頻繁に挿入される謎めいた数字や、カーテンが風にそよぐ窓など、なんの説明もされないまま提示されていたものが意味していたものと、行く先々でグッドマンが目にするかずかずのものの意味が明かされたときの興奮ときたら!

それは人間が感じる恐怖の正体が、どこにあるのかをも突きつけることになるのですから。

映画的なビジュアルセンスも秀逸。
映画的なビジュアルセンスも秀逸。

原作は、ナイマンとダイソンが2010年に発表し、本国でのロングラン公演や世界ツアーで100万人を動員した大ヒット舞台。実は彼らは15歳の時からの親友同士で、少年時代からともにホラー映画に熱狂してきたそう。『テラー博士の恐怖』('65年)など、'60年代から'70年代にアミカス・プロダクション(怪奇映画専門の映画プロダクション)によって作られたオムニバス形式のブリティッシュ・ホラーをはじめとして、さまざまなスタイルのホラー映画で培われたセンスと知識が、極上のエンターテインメントとしてのホラー映画へと見事に結実しているのです。

キャメロン博士の住まいがある寒々とした海辺や、鬱蒼とした森、荒涼とした丘陵地帯など、陰鬱にして美しい風景が、映画ならではの空間の広がりを感じさせていた世界が、恐怖の核心に迫るにつれて舞台的な空間へと趣を変えていくあたりも一興。もう一度観ると、自分が見落としていた細かな伏線にも気づいて、さらにテンションが上がるはず。

『ゴースト・ストーリーズ 英国幽霊奇談』

7月21日(土)よりヒューマントラストシネマ渋谷他にて全国順次公開

(c) GHOST STORY LIMITED 2017 All Rights Reserved.

映画ライター

映画レビューやコラム、インタビューを中心に、『anan』『25ans』はじめ、女性誌・情報誌に執筆。インタビュー対象は、ふなっしーからマーティン・スコセッシまで多岐にわたる。日本映画ペンクラブ会員。

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