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スピリットを継承し、どう展開するか。『キングスマン:ゴールデン・サークル』に見るシリーズ物の作り方。

杉谷伸子映画ライター

ヒットすれば続編が作られる。そもそも最初からシリーズ化を視野に入れているものもある。いずれにせよ、その後の成否の鍵を握るのは、どう展開していくか。

『キングスマン:ゴールデン・サークル』(原題『Kingsman:The Golden Circle』)は、マシュー・ヴォーンにとって監督として初めてのシリーズもの。『キック・アス』の続編『キック・アス/ジャスティス・フォーエバー』では監督・脚本はジェフ・ワドロウに委ねただけに、引き続き監督・製作・脚本をつとめた今作への情熱がうかがえるではありませんか。

その彼のもと、オリジナルのメインキャストが再結集した第2作は、シリーズのスピリットを踏襲しつつ、新たな展開を楽しませてくれます。

表向きはロンドンの高級テイラーながら、実はどの国にも属さないスパイ機関キングスマン。エージェント候補生となったエグジー(タロン・エガートン)が、エース・エージェントのハリー(コリン・ファース)やマーリン(マーク・ストロング)のもと、不良少年からスパイへと成長した『キングスマン』(原題『Kingsman:The Secret Service』)。

コリン・ファースが主演だと思って観にいったら、エグジーが主人公で驚いた人も多かったはず。ですが、前作はエグジーの成長物語。コリン・ファースがクールな名演を見せてくれたからこそ、もっとハリーを観たいと思わせた面もあるものの、紳士なスパイはいかにあるべきかとともに、キングスマンへの訓練過程も大きな見どころでした。

紳士たるもの上等なスーツは欠かせない。
紳士たるもの上等なスーツは欠かせない。

では、『キングスマン:ゴールデンサークル』(原題『Kingsman:The Golden Circle』は、どう攻めることにしたか。なにしろ、前作から2年。既にエグジーも一人前のスパイへと成長しています。もはや訓練は必要なし。謎の組織ゴールデン・サークルによって壊滅的な打撃をくらったキングスマンは、アメリカの“従兄弟”的スパイ機関ステイツマンとタッグを組み、ゴールデン・サークルの陰謀を阻止するべく闘うことに。

新たな候補生をスカウトして同じことを繰り返すだけの再生産をよしとせず、エグジーのエージェントとしてのさらなる成長を描くわけですが、そこに加わったのがイギリスとアメリカの対比。ハリーとエグジーに象徴された紳士とストリートキッズの対比は、キングスマンとステイツマンというイギリスとアメリカの対比に置き換えられ、ジュリアン・ムーア、ジェフ・ブリッジス、ハル・ベリーというオスカー俳優たちの参戦で豪華さもさらにアップ。

表向きはバーボンウイスキー蒸溜所のステイツマン。でも、ジェフ・ブリッジス演じるボスの名前はシャンパン。
表向きはバーボンウイスキー蒸溜所のステイツマン。でも、ジェフ・ブリッジス演じるボスの名前はシャンパン。

彼らは、大人なスパイ機関同士。闘うべき強大な敵もいるので、文化の違いで笑いを誘うことはあっても、子供じみた対立はありません。仕立てのいいスーツのキングスマンに対して、テンガロンハットにジーンズのカウボーイスタイルのステイツマンというわかりやすい構図も、マシュー・ヴォーン組のセンスにかかればどこか粋。キングスマンとは桁違いのステイツマンの資金力の直接的な誇示の仕方など、品位を重んじる紳士とは対照的なアメリカ的なるものへのシニカルなユーモアもあれば、’50年代アメリカを再現したゴールデン・サークルのアジトも、スパイ映画の常識に収まらないセンスで楽しませてくれるのです。

ただ、前作で観客もエグジー同様に紳士についてのレクチャーをかなり受けてしまったぶん、そのへんのウンチク的なお楽しみの新鮮味が薄れてしまったのは否めません。でも、逆にいえば、今度はそれがパート2ならではの楽しみに繋がるのです。開幕早々の壮絶アクションシークエンスといい、「マナーが人を作る」という名台詞やお馴染みのガジェットを駆使する酒場のシーンなど、「来た!」という興奮を味わわせてくれるのは、『キングスマン』というベースがあればこそ。前作の義足の殺し屋ガゼルに象徴されるような切れ味最高な武器も、このシリーズの持ち味のひとつなのだということも再認識せずにいられません。

カウボーイテイストのガジェットもお目見え。
カウボーイテイストのガジェットもお目見え。

なにより、第1作で「もっと観たい!」と飢餓感を煽ったコリン・ファースが復活。初挑戦とは思えないキレッキレのアクションのみならず、冷静な紳士ぶりでも萌えさせた前作とはまた違うテイストで楽しませる。そうそう、今作でも予想していたより出番が少ないスターがいるのも、前作を踏襲しているのかもしれません。実はこれが、1本で十分すぎるくらいに面白いのだけれど、胸焼けさせずにもっと観たいと思わせる『キングスマン』シリーズの絶妙なさじ加減につながっているのかも。とにかく、もっと観ていたい男No.1のハリーの強烈な磁力は今作でも衰えていないのは嬉しい限り。

第2弾公開前からマシュー・ヴォーンが既に第3弾の構想があると明かしていたとおり、ラストシーンが第3弾の方向性を予感させます。けれども、スピリットを踏襲しつつ、観客の予想を超える展開を見せてくれるのがこのシリーズ。今後の展開も、きっと、こちらの予想通りにはいかないでしょう。

『キングスマン:ゴールデン・サークル』

2018年1月5日(金)TOHOシネマズ日劇他全国ロードショー

配給:20世紀フォックス映画

(c) 2017 Twentieth Century Fox Film Corporation

映画ライター

映画レビューやコラム、インタビューを中心に、『anan』『25ans』はじめ、女性誌・情報誌に執筆。インタビュー対象は、ふなっしーからマーティン・スコセッシまで多岐にわたる。日本映画ペンクラブ会員。

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