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最新を最高にしつづける堂本光一『Endless SHOCK』。試練の中で見せた真髄。

杉谷伸子映画ライター

3月19日の昼公演で大型可動式LEDパネルが倒れてケガ人が出るという事故が発生した堂本光一主演の人気ミュージカル『Endless SHOCK』。その日の公演は昼夜ともに中止となったが、翌20日から公演を再開。3月31日には帝国公演での2ヶ月ロングラン公演の千穐楽を迎えた。そのカーテンコールを取材。

最新作を最高作に

「あなたの最高傑作は?」と訊ねられたチャールズ・チャップリンが「次の作品です」と答えたのは有名だが、創作やエンターテインメントの世界に生きる人間なら誰しも最新作を最高作にするべく作品に取り組んでいるのは言うまでもない。

『Endless SHOCK』は、その「最新作を最高作に」を実感させてくれる作品だ。2000年のスタート以来、『SHOCK』シリーズは、「Show must go on」を信条とする主人公コウイチと彼が率いるカンパニーの葛藤を物語の軸に進化を続けてきた。

今年の公演でも、『Endless SHOCK』はさらなる進化を遂げていた。コウイチのカンパニーがブロードウェイに初進出してのショーの幕開きには、新曲『Dancing On Broadway』を投入。コウイチとライバルのヤラ屋良朝幸)の間に生じた決定的な亀裂を、2幕の『Don’t Look Back』の変奏曲であるボーカル曲『Missing Heart』が鮮烈に焼き付ける。そうした新曲の効果的な使用ももちろんのこと、昨年ニューヨークでインサイドストーリーを撮影したことで役への理解が深まったと振り返るとおり、ライバルとしての魅力を増していた屋良をはじめとした出演者のパフォーマンスや、照明や舞台装置といったステージングのすべてが進化しつづけているのだ。2月に開幕した『Endless SHOCK』も大型LEDパネルを駆使した舞台空間が、舞台人の情念が溢れる世界を洗練された演出で魅せることに繋がっていた。陰翳がより深くなった世界でフライングするコウイチは神々しくさえあったほど。

新たな力を与える想い

その大型可動式LEDパネルで倒れて事故が起きた。事故によってケガ人が出たことで関係者のショックは測りしれないが、負傷した6人は順調に回復し、その1人であるジャニーズJr.岸孝良は翌日から舞台に復帰して、『SHOCK』ファンを安心させてくれた。ただ、20日の公演からは倒れた可動式LEDパネルの使用を中止し、吊り下げ式のLEDパネルのみにせざるをえなかったことは、演出面で大きな痛手だったはず。

だが、それでもなお、『Endless SHOCK』の最新作は最高作でありつづけたと言えるのではないだろうか。なぜなら、試練の中にあってもなお作品をベストのかたちで届けたいというスタッフ・キャストの想いも、その想いが込められたステージを見守る観客の想いも、劇場という空間で上演される作品を形づくるもの。今、この試練の中にあるからこその彼らの想いは、作品にさらなる力をもたらしていたのだから。

「ステージ上で何かを語るよりも、ステージ上でパフォーマンスで伝えたい」という想いで翌日からのステージに立ったという堂本光一は、2ヶ月公演千穐楽のカーテンコールで「今回はあってはならない事故も起きてしまい、僕らにとっては非常に試練の年だったかもしれません」と振り返った。同時に、公演再開の当日、大道具の棟梁からの「座長、頑張りますので」という言葉にグッときたことを明かし、「何かその日の公演というのは、もちろん、それ以降もそうなのですが、今まで生まれたことのないエネルギーというか、そういったものが『SHOCK』には生まれたなという気がしております」と話していたのである。

「こういうことを言うと光一君は嫌がると思うんですけど」と前置きしながら、公演再開直前の堂本の「僕たちはステージに立つことしかできない」という言葉に感動しことを話したふぉ〜ゆ〜福田悠太。事故が起きた瞬間は屋良やダンサーの面々とともにステージ上で踊っていて、「あのとき続けられたのは『show must go on』という気持ちがあったのと(中略)、いちばんは全員がshow must go onしているから」と振り返ったラフルアー宮澤エマ。不測の事態によって、『Endless SHOCK』のテーマでもある「Show must go on」という精神をスタッフもキャストも観客も実感することになった今回の公演。そのカーテンコールは、観客にとっても万感胸に迫るものとなった。

9月には大阪・梅田芸術劇場で、10月には福岡・博多座での公演も発表されている。今回感じた言葉にするのが難しいがすごく大切なことを「今後もそれを常に持ってやっていきたい」という堂本光一が、この秋の『Endless SHOCK』をどんなかたちで見せてくれるのか、期待が高まる。

映画ライター

映画レビューやコラム、インタビューを中心に、『anan』『25ans』はじめ、女性誌・情報誌に執筆。インタビュー対象は、ふなっしーからマーティン・スコセッシまで多岐にわたる。日本映画ペンクラブ会員。

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