オンナ心もよくわかる。名作揃いのこの夏のインド映画

特にインド映画ファンというわけではなく、むしろ歌って踊るコテコテのボリウッド映画は敬遠しがちなほうだが、この夏は試写状を手にした瞬間から気になる作品が多い。公開中の『マダム・イン・ニューヨーク』をはじめとして、『めぐり逢わせのお弁当』(8月9日公開)、『バルフィ!人生に唄えば』(8月22日公開)は、どれもボリウッドお得意の勧善懲悪ミュージカルではない。けれども、要所要所で登場人物の心象風景を綴った歌が流れ、洗練されたスタイルで音楽が物語を彩っていく世界が魅力的。“女性映画”としてくくられそうな作品もあるが、それだけに万国共通のオンナ心もリアルに描かれていることになる。

『マダム・イン・ニューヨーク』は、主演のシュリデヴィの名が この夏51歳になるとは思えない美貌で ネット検索が急上昇したのも話題の作品。ビジネスマンの夫と子供たちと幸せに暮らし、英語が話せないのが唯一のコンプレックスといえるインドの主婦シャシが、姪の結婚式を手伝うために単身先乗りしたニューヨークで一念発起。英会話学校の4週間クラスに通って、ひとりの人間として自信を取り戻していく。プライドに目覚め、自信を取り戻していくシャシの心模様を綴った歌詞を手がけたのは、日本でもヒットした『きっと、うまくいく』で2010インド映画アカデミー賞作詞賞を受賞し、『バルフィ!』の作詞にも参加しているスワーナンド・キルキレーだ。

『めぐり逢わせのお弁当』では、夫の関心を得るために丹精こめて作ったお弁当が見知らぬ男性に配達されるというアクシデントをきっかけに、主婦のイラが、孤独な日々を送っていた生真面目な男やもめサージャンと心を通わせていく。顔も知らないサージャンを思いながらイラが耳を傾ける90年代の映画『サージャン 愛しい人』の主題歌や、ふたりを出逢わせるきっかけになったダッバーワーラー(お弁当配達人)たちが列車に揺られながら歌う宗教歌を交えて、大人の恋にほろ苦いスパイスを効かせながらも温かく綴られていく。

そのテイストはヨーロッパでヒットしたというのも納得。昨年も『スタンリーのお弁当箱』という珠玉作があったが、人々の生活に深く関わっているだけにお弁当がキーアイテムになるインド映画は格別の味わいがある。

この2作に共通しているのは、夫が妻に無関心だったり、リスペクトがなかったりすること。『マダム・イン・ニューヨーク』のシャシの夫は忙しいビジネスマンで、妻を愛してはいるものの、対等の存在として見ていない。『めぐり逢わせのお弁当』ではイラの夫は、既に妻に興味をなくしていて、妻が愛情を込めた弁当と 仕出し弁当の区別もつかないほど。料理を作った者からすれば、これほど傷つくことはない。イラはそんな夫にがっかりするわけだが、私の周囲ではイラのぶんも怒りをたぎらせる女性が多いことをお伝えしておこう。料理の感想をメモ程度の手紙でも返してくれるサージャンが、彼女の毎日を輝かせていくのも当然なのだ。

つまり、この夫たちを反面教師にすれば、妻を失望させない男に一歩近づけるということになる。「おいしい」とほんのひと言あるだけで、妻の心は随分違う。それも、マニュアルとしての発言ではなく、あくまでも大切なのは「ラブ&リスペクト」。そんな基本的なこと、わざわざ映画を観にいかなくてもとっくの昔にわかっているとおっしゃる方も多いだろうが、わかっていても忘れてしまうのが人間。その忘れてしまった基本を思い出させてくれるのが、この2作なのだ。

一方、聴覚に障害があるものの、溢れる愛を表情や身振りだけで情感豊かに伝える男バルフィと、彼を愛した2人の女の半生を描いた『バルフィ!人生に唄えば』には、女性が男性に求める理想が託されている。生活の安定は大切だけれど、それだけでは満たされない女心。これもまた世界共通。音のない世界に生きるバルフィが、動きで豊かな感情を表現するさまはチャップリンのよう。そして、ここでも登場人物たちの想いを繊細に綴った楽曲が、愛の大河ドラマを彩っていく。温かい色彩の無声映画のような世界観に、ずっと浸っていたくなる傑作だ。

これだけボリウッドのイメージを変える名作が上陸すると、これからは“インド映画の常識を覆す”というフレーズは使いにくくなりそう。この夏のインド映画は、そんな予感を抱かせる。

『マダム・イン・ニューヨーク』はシネスイッチ銀座にて公開中。全国順次公開。

『めぐり逢わせのお弁当』は8月9日よりシネスイッチ銀座ほか全国公開。

『バルフィ!人生に唄えば』は8月22日よりTOHOシネマズシャンテ、新宿シネマカリテほか全国公開。