<参院選最終盤>勝敗未だ決せず! 苛烈さを増す自民党の選挙運動

今回の参院選の情勢に関する自民党の極秘資料

「2/3議席」をめぐる攻防

参院選の投票まで、72時間を切った。普段の選挙なら、今頃、こう言っているだろう。「実質的に、もう選挙は終わった」と。

しかし、今回ばかりは違う。

報道各社は、参院選終盤情勢として、軒並み「改憲勢力2/3確保の勢い」と伝えている。

「改憲4党、3分の2に迫る 朝日新聞・参院選情勢調査」(『朝日新聞』2016年7月7日)

「与党、改選過半数へ堅調…民進は苦戦続く」(『読売新聞』 2016年7月5日)

「改憲勢力3分の2の勢い 野党共闘伸びず」(『毎日新聞』 2016年7月6日)

いかに選挙戦の過程で改憲が話題に上らなかったとはいえ、今回の選挙の争点は、こうした情勢報道がいみじくも指し示すように、「改憲」そのものだ。「改憲」が争点であれば、注目すべき勝敗ラインは、憲法改正発議が可能となる、「2/3議席の攻防」ということになろう。

そして、「改憲に必要な2/3議席の確保」を与党側の勝利条件だとするならば、選挙戦はまだまだ終わっていない。

報道各社の情勢調査を注意深く読めば、「2/3確保」はまだ確定していないことがわかる。「1議席・2議席の差で、改憲勢力が2/3に到達するかどうか」というのが、各社の伝える現在の情勢だ。であればこそ、与野党問わず各陣営が、こうした認識に立って、最後の最後まで選挙戦を繰り広げているのだ。

自民党の極秘資料で見る「情勢判断」

とりわけ、このタイミングになっても苛烈な選挙戦を展開しているのが、他ならぬ自由民主党だ。圧勝するかに見える今回の参院選で、自民党がなりふり構わぬ選挙戦を展開するには、訳がある。彼らは今回の選挙戦を「厳しい戦い」と認識しているのだ。

取材の過程で、某紙政治部記者より、自民党が独自に行った世論調査の結果に関する極秘資料を入手した。その一部を次に画像で示す。

自民党選対本部の極秘資料の一部
自民党選対本部の極秘資料の一部

取材源秘匿のため、一部画像処理を施した。モザイクがかかる部分には、世論調査で出た支持率の実数値が記載されている。

「極秘」と書かれたこの資料には、こうした定量データを元に、自民党の選対本部が党内に向けて発信した情勢判断も含まれていた。その一部を下図で示す。

自民党独自調査での情勢判断(複数区)
自民党独自調査での情勢判断(複数区)
自民党独自調査での情勢判断(一人区)
自民党独自調査での情勢判断(一人区)

ざっと見るかぎり、報道各社が出す調査結果に比べ、自民党にとって厳しい内容となっているのが見てとれるだろう。

報道各社の情勢判断との乖離が大きいのは、ひとえにこの資料が「党内部向け」であるからに他ならない。党の選対本部は、こうした厳しい認識を各候補に示し、選挙戦の引き締めを図っているのだ。やはり自民党は、選挙がうまい。

……と、ここまでは普通の話でしかない。選挙戦の終盤で党内の資料がリークされ、丹念な取材を重ねる記者の手元にもたらされることは(頻繁にではないが)ないことではないし、自民党が党内の引き締めを図るのも、通常業務の一環でしかない。

今回の参院選で目立つ「怪文書」

だがここで一点、気になったことがある。怪文書の存在だ。

「野党共闘攻撃の出所不明ビラ首相と密接 右翼改憲派 『日本会議』が配布」(『しんぶん赤旗』 2016年6月25日)

「『教育県』の名が泣く行為 民進新人・杉尾氏の誹謗中傷ビラ、長野市内で配布される」(『産経新聞』 2016年6月24日)

「<参院選宮城>各陣営が準備に奔走 22日公示」(『河北新報』 2016年06月21日)(記事内に怪文書についての言及あり)

事の是非はさておき、選挙に怪文書はつきもの。普段の選挙ならば報道にすらならない。だが今回の選挙は違う。まず、前掲の河北新報の記事の通り、選挙戦序盤から配布されだしたのが特異な点だ。ほぼ同じ内容で同じデザインの怪文書が、全国各地で配布されているのも特異だろう。また、先の赤旗の報道によれば、こうした怪文書の配布に、日本会議関係者が関わっているというのだから、見逃せない。

さらに不思議なのは怪文書配布地域の偏りだ。先の赤旗記事をはじめとする新聞報道のみならず、TwitterやFacebookに投稿される「自分の家にも怪文書がポスティングされていた」という一般有権者の報告に基づけば、怪文書の配布地域は、前掲の自民党党内情勢判断資料で、「激戦」「あと一歩」とされた地域に見事に重なる。

何も、「自民党が日本会議に、怪文書の配布を発注した」と言いたいのではない。そう結論づけるには根拠が薄すぎる。だが少なくとも、「自民党にとって有利となる同一内容の怪文書」を、「自民党が情勢不利と判断した地域」で、「自民党の名前を出さずに配布する『市民グループ』と称する人々」が「全国各地に」いる……とは言える。

もっとも、怪文書の配布など、歴戦の強者・自民党にとってはお手の物。接戦選挙の風物詩のようなものだ。だが今回の事例は、そうした謀略作業が全国規模で行われていることを示しているのみならず、その作業が、極めて冷静な情勢判断に基づき、狙いを定めて行われていることを、鮮やかに描き出した。

「改憲2/3議席をめぐる攻防」は、投票直前まで続くだろう。自民党は本気だ。彼らが「接戦」「あと一歩」と判断する地域では、あと2日間、猛烈な運動が展開されるにちがいない。

有権者はこうした、「黒い情熱」にあてられぬよう、冷静に情勢を判断し、良識ある判断を下す必要があろう。