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緊急事態!女子高生がAV搾取され放題?18歳19歳は酒タバコ禁止でAV解禁? #こども家庭庁

末冨芳日本大学教授・こども家庭庁こども家庭審議会部会委員
特定非営利法人パップスHPより

民法改正により来月、4月1日から18歳成年(成人)となります。

18歳19歳も自己決定の主体となる重要な法改正ですが、若者を守る視点から、緊急事態が勃発しています。

18歳19歳の若者自身によるAV出演契約ができる一方で、いままでハイティーンを守っていた「取り消し権」がなくなり、高校生世代へのAV搾取とその被害が拡大していく暗黒の春がもう目前に迫っています。

1.18歳19歳、酒・タバコ・ギャンブル禁止、カードローン制限でもAV解禁?

民法18歳成年に際しては、若者の健康や成長、社会経験や生活基盤の安定性を重視し、20歳までは禁止されていることもあります。

酒・タバコ・ギャンブルは「健康被害への懸念や,ギャンブル依存症対策などの観点から」20歳までは禁止とされています(法務省「民法(成年年齢関係)改正 Q&A」)。

また、犯罪をおかした場合には、18歳19歳が起訴された場合のみ「特定少年」として実名報道がされます。

逮捕されただけでは実名報道されませんし、略式処分の場合にも実名報道はされません。

またカードローンについては、大手銀行・地方銀行は18歳19歳のカードローン利用は生活基盤が整わないとして、見送りという報道がされています(日本経済新聞「18歳からカードローン、大手銀行は見送り 民法改正でも」2022年1月9日)。

こうした状況を見ると、酒・タバコ・ギャンブル、実名報道、ローン(借金)では、いままで未成年として守られていた18歳19歳を急にリスクにさらすことなく、守る措置がとられていることがわかります。

これに対し4月1日から急に、18歳19歳をこれまで守っていたAV出演契約の「取り消し権」が消滅するのです。

自分で決めたのだからいいではないか?

そうでしょうか?

2.AV搾取から若者を守っていた「取り消し権」が消滅する4月1日

―あまりにも非対称なAV業界と若い被害者との関係

大人のみなさんは、自分が18歳19歳だった頃を思い出してください。

・十分な判断能力や、個人が法人とかわす契約に関する十分な知識、性搾取から自分を守れる十分な知識はありましたか?

・たとえばAV搾取が、芸能プロダクションのスカウト、モデル募集、商品モニター募集などAV出演とは異なる名目から誘導されると知っていますか?

・多くの男性に囲まれたり、机を叩かれたり、契約しなければ密室から出してもらえない状況の中で、その場から逃げたい一心でAV出演契約書にサインさせられる若者がいることを知っていますか?

・いったん撮影されたAVはメーカー・配信者に有利な著作権法により、永遠に再利用が可能、とされる状況があることを知っていますか?(ヒューマンライツ・ナウ要請書

・被害者は女性ばかりではなく男性や多様な性自認の人々にまたがることを知っていますか?

こうした深刻な実態については内閣府でも調査が実施されたことがあります。

※内閣府「若年層を対象とした性的な暴力の現状と課題~いわゆる「JKビジネス」及びアダルトビデオ出演強要の問題について~」平成29年3月

10代のある日、気軽な気持ちでアルバイトサイトに申し込んだら、大人たちの巧妙なやり口でAV出演を強要され逃げられなくなってしまった、そんな若者が後をたたない日本なのです。

関係団体への相談件数も年々増加しているそうです。

法務省、内閣府も相談先を明記した啓発ページを設定して、被害を防止しようとしている深刻な性暴力・性搾取であり人権侵害問題なのです。

※法務省「アダルトビデオ出演強要及びJKビジネス問題に係る相談窓口について

※内閣府「若年層を対象とした性的な暴力の啓発

このような実態から若者を守るために、いままで機能していたのが「取り消し権」です。

18歳19歳の若者はいままでAV出演契約をしても、「未成年者取消」という民法規定によって、無条件で契約解除をすることができていました。

しかし、この「取り消し権」が4月1日から消滅します。

実は20歳以上のAV搾取被害者に対しては、AV業界側が過去の判例をふまえて、より手口を巧妙化させたり高額の違約金を請求するスラップ訴訟を起こすことにより、事実上、契約解除が不可能な状態に追い込む深刻な実態も指摘されています。

※猪野亨「出演契約が18歳から?? これが契約ならば年齢に関係なく女性側からの契約解除の自由と違約金禁止の法規制が必要」BLOGOS,2022年3月18日

4月1日からは18歳19歳も、事実上、契約解除が不可能なAV出演契約となり、AV搾取被害が拡大・深刻化してしまうのです。

もうすぐ4月1日、高校生世代(とくに女子高生)が性的搾取され放題の暗黒の春が来てしまいます。

3.オール国会で高校生世代をAV搾取から守ろう!

―当事者の声を聞き緊急立法をいますぐに!

このような実態があればこそ、当事者団体は「取り消し権」の存続のための緊急立法を求めています。

3月23日には院内集会も開催されるそうです。

4月1日は目前、一刻の猶予もなりません。

※【緊急院内集会】3月23日(水)「4月1日からの高校生AV出演解禁を止めてください 18~19歳の取消権 維持存続立法化のお願い」(認定NPO法人ヒューマンライツ・ナウ特定非営利法人パップス

事態の深刻さを認識した国会議員なら与野党問わずオール国会でこの高校生世代の緊急事態に対処くださるはずだと私は信じています。

2018年には上川陽子法務大臣(当時)も「本人の意に反した出演強要はあってはならない」という答弁をされていると報道されています(弁護士ドットコム「4月から18歳・19歳のAV出演契約は「成人扱い」…政府答弁で明らかに」2022年3月7日)。

4.こども政策で保護されるべき対象に年齢制限はない

―こども家庭庁を設置する岸田政権は、若者をAV搾取から守り切れるか?

4月は改正民法による18歳成年のスタートであると同時に、こども若者の権利と尊厳を尊重し、こども政策を推進するためのこども家庭庁の設置法が国会審議に入ります。

3月1日の私の記事にも書きましたが、こども家庭庁設置法は「こどもの年齢及び発達の程度に応じ、その意見を尊重し、その最善の利益を優先して考慮することを基本」(第3条)としている素晴らしい法律です。

またこども政策の対象となるこどもの定義も「心身の発達の過程にあるもの」(第1条)と、18歳になったからと急に切り捨てないための規定がされています。

このように、若者も対象となるこども政策を推進する、こども家庭庁を岸田政権は設置しようとしています。

こども家庭庁が実現できる政府ならば、こども若者を性暴力性被害から守り切るために全力を尽くしてくださるはずだと考えています。

高校生世代をAV搾取から守るための緊急立法にも、政府国会をあげての取り組みが行われるのではないでしょうか。

高校生世代がAV搾取され放題の暗黒の春がもう来てしまうのです。

すべての国会議員、関わる官僚のみなさん一刻も早くAV搾取から高校生世代を守ってください。

日本大学教授・こども家庭庁こども家庭審議会部会委員

末冨 芳(すえとみ かおり)、専門は教育行政学、教育財政学。子どもの貧困対策は「すべての子ども・若者のウェルビーイング(幸せ)」がゴール、という理論的立場のもと、2014年より内閣府・子どもの貧困対策に有識者として参画。教育費問題を研究。家計教育費負担に依存しつづけ成熟期を通り過ぎた日本の教育政策を、格差・貧困の改善という視点から分析し共に改善するというアクティビスト型の研究活動も展開。多様な教育機会や教育のイノベーション、学校内居場所カフェも研究対象とする。主著に『教育費の政治経済学』(勁草書房)、『子どもの貧困対策と教育支援』(明石書店,編著)など。

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