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【菅政権の子育て罰が止まらない】児童手当・Eテレ廃止・出産難民【もう日本では子どもは産めない?】

末冨芳日本大学教授・こども家庭庁こども家庭審議会部会委員
(写真:アフロイメージマート)

総理と財務省は、与党内からの反対論すら押し切り、児童手当の特例給付廃止をどうしても実現させたいようです。

これまで厳しく警鐘を鳴らしてきましたが(11月8日記事12月3日記事)、菅政権の子育て罰は止まりません。

加えてEテレ廃止案が菅総理のブレーンから示されたり、コロナ前からの出産費用の高額化、コロナ禍による医療崩壊のもとで出産難民の妊婦さんの増加が懸念されるなど、さらなる子育て罰を子育て世帯に浴びせかけている状況です。

 このような日本社会では、「もう日本では子どもは産めない」と、結婚も出産もあきらめてしまう若年層が多くなってしまうことが懸念されます。

 この記事では、菅総理と公明党の与党内攻防が続いている児童手当の特例給付廃止をめぐる議論を整理したうえで、さらに子育て罰が止まらない日本の悲しい現状を指摘します。

―Eテレが廃止されることのコストや負の影響

 ―コロナ前から高額化していた出産費用

 ―それに加えコロナ禍で遠隔地での出産を強いられる出産難民の妊婦さんや家族にふりかかる様々な経済的負担

 菅総理は日本の子どもたちや、子育て世帯にとっては何も良いニュースがないまま、クリスマスや年末を過ごさせるつもりなのでしょうか。

1.高所得層の児童手当廃止は、子育て罰厳罰化の第一歩に過ぎない

ー子どもへの差別と分断を深めるだけの菅政権案

状況は目まぐるしく変化していますが以下の記事は重要です。

児童手当の見直し案が判明 高所得者の特例給付を廃止(朝日新聞12月10日)

 この記事によると、以下の2案で与党内の交渉がされているようです。

(1)夫婦の収入を合算せず、年収960万円~1100万円未満までは特例給付継続(子ども1人・月5000円)、年収1100万円以上は特例給付廃止(45万人のゼロ支援の子ども若者)

※年収1200万円以上で不支給との報道もながれています。

年収1200万円で不支給 児童手当、今日にも結論(日刊スポーツ12月10日記事)

(2)夫婦の収入を合算する新制度に移行する。1500万円以上は支給なしにする。

 ―児童手当を満額支給(子ども1人・月1万円)を現在の1200万円未満まで引き上げる。

 ―ただしすでに子どもが生まれている場合には、年収1200万円未満までは特例給付(子ども1人・月5000円)

 (1)案では、約50~80万人の子どもが医療費を除いて”ゼロ支援”になる案です。

 夫婦の収入が高い方が年1100万円をうわまわれば特例給付そのものを廃止しようとしています。

 国税庁「民間給与実態統計調査結果」(令和元年度・第16表)によれば、年収1000万円以上の給与所得の男性は7.6%います。

 すべての高所得男性に子どもがいるわけではないでしょうが、年収1100万円以上の0~15歳子どもをもつ男性が3~5%程度はいそうなことくらいは推定できます。

 これを該当年齢の人口に当てはめると約50~80万人の子どもが”ゼロ支援”になります。

 付記しておくと親が年収1100万円以上の世帯の子どもは、児童手当も、高校無償化も、日本学生支援機構の貸与奨学金も受けられない、国からの教育面での支援がまったくゼロとなる子どもたちになります。

 そのような存在がこの国に数十万人も生まれてしまうことが少子化対策になると思われるのでしょうか。

 子どもを産むことも、努力して稼ぐことも空しくなる制度ではないでしょうか。

 (2)案は、より悪質です。

 年収1200万円まで子ども1人月1万円を拡大するように見えますが、これは制度変更後に生まれた子どもに限定されています。

 つまり今まで生まれている子どもたちには月5000円の特例給付のみで、同じ日本社会で生まれ、親の年収も同じなのに生まれた年の違いだけで支給額に1月5000円もの差がつく(15歳までだと96万円の差)、明確な差別政策になります。

 法の下の平等には違反しないのでしょうか?

 いずれの案が実現するにせよ注意しなければならないのは、高所得層への児童手当廃止は、将来的には中所得層低所得層の児童手当も削減しようとする子育て罰厳罰化の第一歩にすぎないということです。

 自分たちには関係ないと安心している年収1200万円未満世帯のみなさんも、近い将来、財務省と自民党に手当を削減されてしまうかもしれないということは念頭に置かれたほうが良いでしょう。

2.菅政権は子育て層に不安しか与えていないのでは?

―児童手当以外にもEテレ廃止の不安、コロナ禍での出産難民増などの実態が見えているのか

 児童手当廃止以外にも、今の日本で子どもが産めるのかどうか不安材料しかありません。

 

Eテレ売却案と、出産費用の高額化への補助見送りコロナ禍による出産難民の増加懸念など、厳しい状況が子育て世帯を取り巻いています。

 下記に引用した高橋洋一嘉悦大学教授のEテレ売却案は、電波オークションに関するものですが、ではEテレがネット配信となって子育てがしやすくなるのかどうか、については検討されていません。

 GIGAスクール構想で学校でインターネットで番組視聴できるだろうという点についてしか述べられておらず、自宅から地上波で子育ての忙しい中でもイージーアクセスで視聴できることにメリットを感じている乳幼児のママパパの状況は考慮されていません

Eテレにはいい番組も多い。ただ、それらはネット配信に回せばいい。NHKは国会の予算委員会の一部だけテレビ中継しているが、国はすでに国会中継をネットでライブ配信しているからそれも使える。Eテレの電波を通信に再分配したほうがより公共のためになるし、NHK自体のスリム化にもつながる。

これまで、Eテレのチャンネルを開放できない理由として、NHKは、教育放送のために地上波が必要だと言ってきた。たしかに、全国でみると、コンテンツのいい教育放送を地上波しか利用できない地域はなくはなかった。ところが現在、文科省は「GIGAスクール構想」を打ち出していて、状況は変わってきている。

Eテレ売却から始まる改革は、国民には受信料を大きく引き下げるメリットがあり、NHKもスリム化で必要な投資が減る。これは、NHKを含めて、すべての国民にとってウィンウィンの改革になるだろう。

高橋洋一・受信料義務化、建て替え計画…迷走するNHK改革は「Eテレ売却」が特効薬だ

3.Eテレのオンライン移行で低所得子育て世帯がEテレを見られなくなる?

―インターネット回線料で年4~6万円程度の負担増

Eテレの最大の良さは受信料を払って入れば、インターネット回線契約していなくても家のテレビから視聴できる、ということです。

子育て世帯は若いがゆえに自宅でのインターネット回線契約をしていない場合もあり、スマホ視聴のみではおそらく通信容量制限(いわゆるギガ死)になってしまいます。

標準的なインターネット回線料は月4000~5000円程度でしょうが、これでも支払えない子育て世帯は多いと思われます。

ただでさえ低所得層にも手薄い児童手当では、インターネット回線料金の負担どころか、子育て層全体の約2割が衣食すらままならない厳しい状況は、昨年11月に閣議決定された「子供の貧困対策に関する大綱」でもあきらかにされています。

もっとも困難な子育て層が、良質なコンテンツから排除される事態になってしまいかねません。

世帯でEテレにアクセスできる階層とそうでない階層の間で、子どもの間での情報や発達の格差が拡大してしまう問題を、菅総理はどうお考えなのでしょうか?

4.出産費用高額化なのに補助増額なし、コロナ禍による出産難民はさらなるコスト増

―不妊治療助成も生殖補助医療の推進も「産ませるだけ」の政策では?

もともとコロナの前から出産費用は高額化しており、国の出産一時金だけではまかなえないこともあきらかになっていました。

しかしながら自民党内からも提案された出産一時金の増額案を菅内閣は見送る方針をあきらかにしています(12月3日・日テレ24報道)。

もともと出産までの妊婦検診の費用補助も十分ではないという課題もあります。

さらにコロナ禍で、地域の病院で分娩ができなくなる妊婦さんの増加も懸念されます。

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 市立旭川病院は現在、感染対策として面会は原則禁止し、立ち会い出産もできない。

 突然の転院は妊婦の負担も大きい。市内の「助産院あゆる」には、厚生病院から他院を紹介された妊婦が涙声で電話してきた。北田恵美院長は「出産間近に病院を変えるのは妊婦にとって、とても不安なもの。周囲のケアやサポートが必要だ」と話す。

 さらに8日には旭川赤十字病院が出産した女性1人が感染したと発表。厚生病院からも約30人の妊婦を受け入れ、自院でも約10人が出産を控えていたが、携わった医師らが自宅待機となり、分娩を停止。旭川医大病院と市立旭川病院に引き受けてもらうことになった。

 二つの基幹病院で分娩できなくなり、他の病院にしわ寄せがきている。厚生病院では市内の分娩(ぶんべん)数の3分の1に近い年間約800件を扱う。出産日が迫る妊婦から順に他の病院へ引き継ぎを依頼した。

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不安抱える妊婦が涙声で電話 一般医療に迫る限界 旭川(朝日新聞12月9日記事)

旭川市では医療崩壊に近く、おそらくここからさらに感染拡大すれば緊急に市外の病院で出産せざるをえない妊婦さんも出現してくるはずです。

すでに他の地域でも、コロナ対応で疲弊した医療関係者が大量退職するなど、出産難民の増加が懸念されます。

出産難民になって、いままで通っていた地域とは離れた病院で出産することになると、退院までの家族の交通費・ガソリン代などがかさむことになります。

病棟に入ることはできなくても、着替えなどを届けたり、少しだけでも妊婦さんや赤ちゃんの様子を知りたいお父さんや家族の負担する交通費・ガソリン代などのコストはコロナの中でも支援の対象にはならないでしょう。

何よりも、Gotoキャンペーンが継続される中で、疲弊する医療機関の様子に心配を募らせている妊婦さんやそのご家族も増えているのではないでしょうか。

このような状況で、いま子どもを持ちたいと思う人がますます減少していることが心配です。

菅政権では、不妊治療助成の所得制限がなくなったり、生殖補助医療の推進もされるようですが、ただ「産ませるだけ」の政策になっているのではないでしょうか?

安心して産み育てることのできる日本でなければ、そもそも子どもを持とうと思う若い世代がどんどん少なくなっている現状は、菅総理や財務省には見えていないのでしょうか?

5.少子化対策の王道は「すべての子ども」を大切にすること

―総理と財務省は財源の議論から逃げずに子どもを産みたい日本の実現を!

 悲しいことに菅政権において、児童手当の廃止によりゼロ支援となる子どもたちが生まれてしまいます。

 しかし少子化対策の王道は、親の所得にかかわらず「すべての子ども」を大切にすることです。

 所得制限を設けずに手厚い子育て層支援で出生率が上昇している明石市の例についてはすでに述べました。

 もちろん手厚い子育て支援には財源が必要です。

 少子化対策こそこの国の最優先課題であるはずです。

 総理と財務省は財源の議論から逃げずに子どもを産みたい日本の実現をするべきではないでしょうか?

 子育て世代の財源を削って待機児童対策にまわすような子どもを大切にしない国に未来はあるのでしょうか?

 今の日本は子どもを産みたい国ではない、私は正直そう思わざるを得ません。

 この悲しい直感が、今後の猛烈な出生数の減少によって証明されてしまう日も遠くはないのかもしれません。

日本大学教授・こども家庭庁こども家庭審議会部会委員

末冨 芳(すえとみ かおり)、専門は教育行政学、教育財政学。子どもの貧困対策は「すべての子ども・若者のウェルビーイング(幸せ)」がゴール、という理論的立場のもと、2014年より内閣府・子どもの貧困対策に有識者として参画。教育費問題を研究。家計教育費負担に依存しつづけ成熟期を通り過ぎた日本の教育政策を、格差・貧困の改善という視点から分析し共に改善するというアクティビスト型の研究活動も展開。多様な教育機会や教育のイノベーション、学校内居場所カフェも研究対象とする。主著に『教育費の政治経済学』(勁草書房)、『子どもの貧困対策と教育支援』(明石書店,編著)など。

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