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「今日の仕事は楽しみですか」品川駅の広告炎上問題から考える「仕事」への向き合い方

末永雄大アクシス株式会社代表取締役兼キャリアコンサルタント
(写真:GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート)

こんにちは。アクシス株式会社 代表・転職エージェントの末永雄大です。

2021年10月4日、山手線品川駅のディスプレイに表示された「今日の仕事は楽しみですか。」という広告に批判が集まりました。広告主は経済ニュースメディアnewspicksで有名な株式会社ユーザベースグループの株式会社アルファドライブによるブランドメッセージです。

「今日の仕事は、楽しみですか。」――品川駅コンコースにある数十台のディスプレイに10月4日、一斉にこんなメッセージが掲げられた。

 その写真がTwitterで広がると、「見た人を傷つける」「楽しみでなくても、しなくてはならない仕事はあるのに」などとTwitterで批判が集まった。

 この広告を掲示したのは、ユーザーベース傘下で人材育成やNewsPicks法人事業などを展開するアルファドライブ。同社は批判を受けて1日で広告を取り下げ。「利用者の方々への配慮に欠く表現だった」と謝罪している。

引用:https://news.yahoo.co.jp/articles/7ad4ca035a64467181af3824bd40ed5d50001371

この広告を見た方々からは「煽りに来ていて不快」「朝からこの広告を見るとツラい」「仕事は楽しみじゃなきゃいけないのか」といった批判的な意見とともにインターネット上で拡散され、ツイッターでは「品川駅の広告」がトレンドに入るまでに至り、最終的に掲載終了を発表することになりました。

様々な意見の中には「言いたいことはわかるが、広告クリエイティブが問題」「品川駅でなければ、これほど炎上しなかった」があり、価値観を押しつけるようなメッセージ性が受け入れられなかった最大の要因のように思えます。

様々な方が議論していますが、こちらの記事では今回の炎上について意見を言う事はあえてせず、プロの転職エージェントの立場から、人によってさまざまな「仕事」の捉え方について、特に就活生や若手ビジネスパーソンが誤解しがちな「仕事」との向き合い方について解説していきたいと思います。

仕事選びの誤解

私はこれまで転職エージェントとして、多くの仕事を観察してきました。リクルート時代は3年間で700社ほど、様々な企業を訪問し、経営者や人事担当者とやり取りをしてきました。そこで様々な職種についてヒアリングする機会に恵まれたのですが、その中であることに気がつきました。

それは、どの仕事も泥臭く大変だということです。仕事を通じて楽しい(面白い)と思うよりも、大変なことのほうが圧倒的に多いです。しかし、若い社会人の方は今の仕事よりも、他にもっと楽しい仕事があるかもと期待している方が一定数います。

転職エージェントの仕事を一言で説明すると、転職希望者の仕事の悩みに寄り添いながらキャリアチェンジに対する相談に乗り、必要に応じて求人を紹介し、企業とマッチングさせることです。

そんな仕事をしていると「仕事がつまらないA社を辞めて、魅力的な仕事ができるB 社に行きたい」という人と、「仕事がつまらないB 社を辞めて、魅力的な仕事ができるA 社に行きたい」という人の転職相談を同時に受けることもあります。

この事例から理解していただきたいのは「誰にとっても楽しい仕事」は存在しないということです。隣の芝生は青く見えるかもしれませんが、仕事というのはどんな業界・会社・職種であっても大変で、泥臭い部分があります。

業界や職種、会社を変えても、仕事の構造自体は変わりません。仕事のプロセスはどの仕事であろうが普遍的です。転職したところで仕事の構造は変わりませんから、単純に今の仕事が楽しくないという理由だけで仕事の良し悪しを判断しないことが大切です。

仕事とは、他の人がやりたくないことを代わりにしてあげること

仕事とは、需要に対する供給者になることです。

ここでいう需要側は、消費者(お客さん側)です。消費者はニーズを満たすために、供給者のサービスに対してお金を支払います。つまり、仕事というのは誰かができない、誰かがやりたくないことを、代わりに自分がおこなってお金をもらう活動です。

仕事の目的は、あくまで消費者のニーズをきちんと満たすことです。もし自分が楽しみたいことだけを目的にするのであれば、お金を支払って供給者からサービスを提供してもらえばいいですよね。

私自身の体験談をお話させていただきます。私は本を読むのが大好きで、年間にしたら百冊は読んでいます。しかし、以前に転職とキャリアについての本を書いた際に思いましたが、本を執筆するのと読むのとは全く異なるものでした。編集者の仕事にも触れてみて思いましたが、正直、私にはそれを仕事にすることはできないなと感じました。

私自身「これだけ本が好きだから、もしかしたら編集者の仕事も向いていたかも」というのは勘違いであることに気づきました。私はあくまで単純に消費者として、本を読むのが好きなだけだったのです。

若いビジネスパーソンの中には「好きなことを仕事にしよう!」と考えすぎてしまう方がいます。しかし、実際にやってみたら「こんなはずではなかった…」「思っていたのとは全然違った…」と退職するケースを何度も見てきました。

求人サイトでは泥臭く大変な部分が説明されていないため、勘違いしやすいですが、全ての仕事はイメージとは違い、泥臭く大変な部分があります。消費者として好きなことが、供給者として仕事でやりがいに感じるとは限りません。

まとめ

転職市場で出会う多くの求職者が、仕事に対して幻想を抱いています。こういった多くの人が入社後に、大量のワーク(単純作業)を近視眼的にとらわれてしまい、「自分がやりたい仕事はこんなことではない!」と早期退職してしまうケースがあります。

仕事に対して過度な期待を持つと、現実とのギャップで失望したり、キャリア形成に失敗することになります。繰り返しますが、ただ「楽しい」仕事は存在しません。それでも、私は「その人にとって」やりがいがある仕事はあると考えています。

仕事に対する不安や悩みは誰もが感じるものです。今回、炎上してしまった広告ですが、色々と考えさせられる部分もあります。

仕事は大変なことが多いと言いましたが、これを機会に自分の仕事の誇れる部分・素晴らしい部分を見つめ直してみませんか?

アクシス株式会社代表取締役兼キャリアコンサルタント

青山学院大学法学部卒。新卒でリクルートキャリア(旧リクルートエージェント)入社。 リクルーティングアドバイザーとして様々な業界・企業の採用支援に携わる。東京市場開発部・京都支社にて事業部MVP/西日本エリアマーケットMVP等6回受賞。その後サイバーエージェントにてアカウントプランナーとして最大手クライアントを担当し、 インターネットを活用した集客支援を行う。2011年にヘッドハンター・キャリアコンサルタントとして独立。2012年アクシス株式会社を設立。代表取締役に就任。キャリアコンサルタントとして転職支援を行いながら、インターネットビジネスの事業開発や社外での講演活動等、多岐にわたり活躍する。

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