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【宮迫・亮会見を観て】吉本騒動からみる大企業と世の中のズレ

末永雄大アクシス株式会社代表取締役兼キャリアコンサルタント
(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

こんにちは。アクシス株式会社 代表・転職エージェントの末永です。

中途の人材採用支援をしつつ、月20万人以上の読者を持つ「すべらない転職」という転職メディアを運営している中で、Yahooニュース上では2013年から「働き方3.0」というテーマでキャリアや雇用分野について発信させてもらっています。

吉本興業の所属を解除された芸人の宮迫博之さん、田村亮さんの反社勢力への闇営業に対する緊急謝罪会見の内容について、芸人の闇営業の賛否という議論から、今回のスキャンダルに対する吉本興業への対応や体質そのものに対しての批判に論調が移っている印象があります。

お二人のされた事は立場を考えると、社会的にも所属事務所側から見ても許され難い行為ではあったと思いますが、会見を見ていてなんともやり切れない非常に悲しい気持ちになった方も多いのではないでしょうか。

「ダウンタウン」の松本人志さんの吉本への訴えにより、本日22日で岡本昭彦社長が都内で会見を開催する事となり、「会見すれば全員クビにするぞ」と暴露した「圧力発言」についても謝罪するとみられているそうです。

元所属芸人の宮迫博之さん、田村亮さんの反社勢力への闇営業に対する緊急謝罪会見の内容をめぐり、吉本興業のこの問題への対応のあり方に注目が集まっている。

【全画像をみる】【宮迫・亮会見】吉本はいつから変わった? 関西のテレビ関係者が語る

吉本興業はいまや6000人とも言われる所属芸人を抱え、教育事業にも進出しようとする業界トップクラスのお笑い芸人事務所だ。今回の騒動は、テレビと関係の深い「芸能界の出来事」という範疇をこえ、これまで掲げてきた「ファミリー」型の経営スタイルが曲がり角に差し掛かっていることを露呈した。

出典:【宮迫・亮会見】吉本はいつから変わった? 関西のテレビ関係者が語る

この日、同じ吉本所属の東野幸治(51)と「ワイドナ―」に生出演した松本は、20日深夜に岡本社長に会ったことを明かし、「社長が会見しなければ絶対にだめだ」と説得したと明かした。同社長もVTR出演し、会見を行うと話した上で、「きのう(20日)のような会見をタレントにさせてしまい、大変心苦しく思っている。この度は申し訳ございません」と謝罪した。22日の会見でも、宮迫と亮が「会見すれば全員クビにするぞ」と暴露した「圧力発言」についても謝罪するとみられる。

 関係者によると、松本と岡本社長、大崎洋会長(65)との話し合いは2時間に及んだ。岡本社長はパワハラ発言を後悔しており、崩壊の危機にひんした吉本ブランドをどう回復するかで認識は一致。吉本側が態度を軟化させ、宮迫側との交渉を再開させることで、両者が一転“和解”へと動き出すことになった。

出典:宮迫博之、田村亮、吉本興業と急転和解へ…松本人志が仲裁

これらの騒動において、闇営業の賛否などについては僕自身も芸能や法律の専門家でもなく何かを語る立場ではないですし、その他のメディアが色々な考察を提示されているので、こちらでは普段キャリアや転職を生業とさせていただいている身として、今回の吉本騒動から感じた大企業とそこに所属する社員の雇用関係の変化や感覚のズレ、これからのあるべき姿といった視点で考察してみたいと思います。

そもそも今はどんな時代なのか?

今回テーマとした吉本の対応から見る大手企業のズレについてですが、ズレを認識する上でそもそも何と何のズレなのか?これをきちんと定義しなければなりません。

それで言うと、今回で言えば吉本興業という巨大な芸能事務所であり業界の大手企業と、そこで所属する芸人ないしは社員や世論との感覚のズレであると思っています。

では、吉本や大手企業に対して論ずる前に、まずは現代の会社に勤める社員と世の中の個人はどういった時代にいるのでしょうか。

どこをどう切り取るか次第で色々なご意見はあると思いますが、私自身は以下のような時代であると認識しています。

  • 誰もがスマホとSNSアカウントを持ち、他社や他社社員の姿が見える化され情報取得や個人で情報発信できる時代
  • GAFAを中心としたメガプラットフォームにより個人が気軽にマネタイズできる時代
  • 労働人口の減少により企業が社員を選ぶよりも、社員から選ばれる時代に
  • 成熟社会・経済の中でモノ消費からコト消費へ移る中で企業にとって設備より人材が競争優位になる時代
  • 社員のキャリア観の変化により1つの会社に依存するよりも市場価値の向上を重視するる時代

ざっとですが、このような時代だと認識しています。

個人がエンパワーメントされる時代

一言で言えば、個人がエンパワーメントされる時代。企業や組織よりも個人がチカラを持つ時代なんだと思います。

今回の謝罪会見では、吉本側はいつでも芸人達をクビにできると岡本社長は伝えたと事なのですが、実際にその権限があるのは事実です。

しかし、昔であれば吉本を契約解除されたらもう芸能界ではやっていけないといった時代があったのかもしれませんが、今は各産業も発展・成熟しており、代替手段が増えています。

もちろん、言われた瞬間はビビってしまったとしても、結果そのような状態になってしまったとしても昔と比べれば個人としての影響力を持った人であれば別に食べていくのには困らないといった感覚があると思うのです。

実際キングコングの梶原雄太さんはカジサックという名前でyoutubeチャンネルで動画配信をしており、チャンネル登録数が105万人を超えています。

また、オリエンタルラジオの中田敦彦さんのYouTube大学は教養をテーマにした番組を配信しており、チャンネル登録数が57万人を超えています。

特にカジサックさんの動画は私自身も毎回視聴させていただいているのですが、本音ベースで語っていらっしゃるのが伝わってくるんですよね。若干熱すぎて長い動画もあるんですが、それが故に編集や演出ではないリアルが伝わってきて感じ入るものがあります。

もちろん吉本という事務所の中で芸人として成功していくのにもものすごい努力が求められると思うのですが、同じかそれ以上の努力ができる自信がある人であれば、これらのお二方の取り組みのようにyoutubeやSNSなど外の世界に出てもやっていけるだけのインフラが揃ってきてしまっています。

それに気が付かずに、「うちに所属し続けたいんだろ?クビにするぞ?」と脅すというのは今の時代感覚とのズレを感じてしまうのです。

吉本からすれば、「クビにされる=テレビ露出ができなくなる」という見立てなのかもしれませんが、たとえ事務所をクビにされてテレビに圧力をかけて露出ができなかったとしても、今はTwitterやyoutubeがあります。

SNSの世界は、正直で誠実な人に対してはきちんと反応を示してくれる世界です。

世論を見方につけてSNSで拡散されてしまえば、マスコミ各社も数値が取れるだろうと判断し取り上げざるを得なくなると思います。

企業の持つ歴史やコンテキストという強みと弱み

一方で、企業サイドの視点に立ってみたいと思います。

僕自身も一応中小零細企業の経営者の端くれとして、日々色々と経営やマネジメントについて勉強したり、試行錯誤をしているのですが、組織はある意味で宗教的な組織を参考にしてミッションやルールや文化などの独自コンテキストを構築していく事が繁栄に向かう事であると言われているようです。

僕自身も自分の会社を宗教化したいとは全く思いませんが、ある意味においては的を得ている部分を感じます。

しかし、歴史の長い企業や高度にそれが仕組み化・整備化された巨大企業ほど、企業独自の文化やコンテキストが時代の流れに沿わずに今回のようなコンフリクトが起きてしまうリスクがあるのだと思います。

企業経営者は企業統治という視点で独自のクローズドな統治システムを構築していくと同時に、世の中の肌感覚や流れにも柔軟にアジャストしていくといったトレードオフをマージしていく事が求められてくるのではないでしょうか。

イチ小企業の経営者としては他人事ではなくとっても難しい事ですね・・。

「エンプロイー・エクスペリエンス」(Employee Experience)が求められる時代

最近「エンプロイー・エクスペリエンス」(Employee Experience)という言葉が人事界隈でもトレンドになっています。

EX が重視されるようになった背景として、1980年以降に生まれた「ミレニアル世代」が、組織の中核的存在になっていることが大きいという。そのなかでも生まれた時からインターネットやデジタル機器が当たり前に存在していたのがデジタルネイティブ世代。彼らはデジタルデバイスに慣れ親しんできた世代であると同時に、顧客として非常に高い経験価値を享受してきた世代でもあるからだ。たとえばECサービスなどのように、膨大な商品がコンシューマーの購買履歴からニーズや嗜好を読み取って丁寧にレコメンドされ、決済手段や受け取り方法も多様に用意、しかも注文などに対するレスポンスも極めて早い。

「物心ついて以来、この感覚に親しんできた世代は、勤務先企業に対してもデジタル化された経験価値を求める傾向が強いのです。管理職世代としては『仕事とは別問題だ』と考えがちですが、デジタルネイティブ世代の比率がマジョリティになることが確実である以上、むしろ彼らの感覚や思考を前提に、その能力を最も発揮できるような職場環境を整えるのは必須。発想の転換を図らなければ、激化するタレントの獲得競争でますます劣勢となってしまうでしょう」

出典:ジャーニーマップで経験価値を見える化 ~エンプロイー・エクスペリエンス施策の導入ステップ~

「エンプロイー・エクスペリエンス」の概念が注目されるようになった背景については上記の引用文が詳しいのでそちらをご覧になっていただければと思いますが、私自身が転職や雇用分野の現場で仕事をしている中で感じている事として以下の2点が重要になってくるのではないかと思っています。

  • 社員に対して付加価値を提供する事(所属そのものの価値が下がっていく)
  • 企業・雇用主側も市場価値視点が求められる

これまでは顧客に対していかに付加価値を提供するかという視点は多くの経営者・企業が重要視してきた事と思いますが、これからの時代は、社員に対してもどのような付加価値を提供していけるのかを考えていく必要があります。

コメンテーターの「ダウンタウン」の松本人志さん(55)は冒頭で「なかなかハードな内容で、見ていて、無視できないなあということになりまして」と、予定していた内容は放送しないことを説明。会見のダイジェストを流した後、松本さんは「僕の知らなかった事実があまりに多くて、(吉本に)だまされたという感じがした。ここまで(2人を)追い込んだ会社はよくないし、吉本興業がこのままではつぶれていくのでは」と論評。「芸人ファースト(の会社)じゃないといけない」と吉本の対応を批判した。以前吉本側から、宮迫さんらがギャラを受け取っていたことを認めたが、しばらく静観するというような対応を説明され、「この会社にはおられへんかもしれない」と伝えたとも明かした。

出典:松本人志さん、吉本社長に会見必要と訴える テレビ生放送で明かす

21日に放送されたワイドナショーの生放送でもダウンタウンの松本人志さんが「芸人ファースト(の会社)じゃないといけない」とコメントしたのもそういった時代背景を捉えた上の発言なのかもしれません。

会社側・雇用主も市場価値を意識してマネジメントが求められる

また、企業側も自社の論理だけで評価や報酬を支払ったりマネジメントするのでなく、市場価値を把握した上で評価や報酬を提供していく事が求められてくると思います。

よく大手企業が社員に対して、職業訓練であったり、キャリアプランニング講座を設ける事で社員のキャリア意識や専門技能の育成を支援するといった取り組みが増えていると思いますが、社員にキャリア意識の向上を求めるだけでなく、雇用主である企業側も世の中の市場価値の相場を適切に把握した上でマネジメントや人事制度を考えていく必要が出てきているのではないでしょうか。

私自身のポジショントークにも若干なってしまうのですが、最近では人事のダイレクトリクルーティングやインハウス化が進んでおり、エージェント価値も見直されている流れはあるものの、私が生業としている転職エージェントの価値とは「客観視」だと思っています。

例えば、自社や自分でいくら「俺はすごいんだぞ!」と喧伝しても客観性がなく信用する人は多くはありません。

一方で権威性のある第三者メディアに取り上げてもらえればそのPR効果は飛躍的に高まります。

これは客観性の価値だと思うんです。

もう1つの客観性の価値として、ワンオブゼムの視点を得られる事だと思います。

どういう事かと言いますと、第三者からするとある対象はその他の複数の代替手段や競争相手と比較した内の1つに過ぎないという立場に立ち、それらと相対比較した上で価値を評価するという姿勢です。

エージェントの仕事に例えさせていただくと、以下のようなイメージです。

  • 転職者に対しては:「あなたの経験・スキルでいうと市場価値は年収○○万円くらいですね。今の経験値からすれば、この企業への転職は正直難しいですよ。」
  • 採用企業に対しては:「客観的にあなたの会社は転職者から選ばれませんよ。選ばれるとすれば最低でも年収800万円は提示が必要ですよ。」

乱暴に言えば、エージェントは客観視という価値を追求し、こんな仕事をしています。

自分自身も何者でもないくせに、偉そうに第三者にそんなシビアな指摘をしないといけない仕事というのは、とてもそんな損な役回りですね・・(苦笑)

少し脱線してしまいましたが、これからは企業や雇用主側もこうした市場価値観点で社員や被雇用者と向き合いマネジメントしていかなければならないのではないでしょうか。

つまり、自社の社員の価値が外に出たとしても通用するように育成機会や経験を提供したり、成果やスキルに対して市場価値相場に対して相応の報酬を支払うという事が求められる、またそうした事を共通言語として社員とコミュニケーション・マネジメントしていくという事です。

こうした市場価値視点を無視して、自社独自でクローズドな歴史やコンテキストのみを振りかざして、今回の吉本で言うところの会社はファミリーというスタンスで恩義や人間関係といった情緒面であったり、クビをチラつかせ恐怖政治や権威のみに依存して組織統治をしようとしても、噛み合わないケースがこれからどんどん増えてくると思います。

企業は社員に対して人事権を持っているのだからその権限を行使するのは当たり前。総合職は職種や勤務地は指定されない雇用形態であり、出世するには各地方支店への転勤は当たり前。

これまでの論理では正しかったのだと思うし問題はなかったのだと思いますが、これらはもう通用しないのだと思います。

それなら転勤のない会社に転職するし、会社に対して理不尽や不信を感じたらSNSで声を挙げて抗議する。

これがこれからの時代なのです。

企業側からすればそれが良いか悪いか、正しいか否かという個別の主張や論理はもちろんあるでしょうけれど、こういった流れは変える事ができないのだから少なくともこの流れを把握と理解をした上で柔軟に対応していくしかないのだと思います。

では企業はどうしていけば良いのか?

私事ですが最近Twitterを一所懸命やっています。Twitterが日本で立ち上がった2008年当初も熱心に活用していたもののその後ずっと放置気味になっていましたが、改めて積極的に活用しています。

Twitter自体もある意味日本全体からすると閉じられた世界なのかもしれませんが、それでもリアルな自分の身の回りの世界よりは、よりオープンで多様な価値観の人たちが活用しており、大まかな世の中のトレンドであったり、どういった情報発信に対してどんな反応・リアクションがあるのかといった感覚を養う事ができます。

大手企業の経営幹部ほどTwitterを活用してみると良いと思っています。

「意図しない発言に対して、世の中の人はこんなリアクションをされるんだ。」

自分の意図やコンテキストを全く理解されないままに、批判されてしまったり、良くも悪くも好き勝手なコメントをつけられます。そのコメント1つ1つにはとても同意できないと一蹴すべき内容もあるでしょう。

それでも、あえて世の中の人は受け止めらたり、誤釈をされたり、反響が返ってくるのだなといった感覚を養っておく事はこれからの企業の経営幹部の必須科目になってくるのではないでしょうか。

もちろん、それだけですぐに企業と個人のズレが埋まる程、簡単な話ではないと思います。

それでもまずはTwitterを通じて、外の世界と交流する事で自社企業の論理や常識が通用しない世界を知る事は重要ではないでしょうか。

正直私自身もまだまだTwitterを活用し切れていませんし、試行錯誤、勉強の最中ですので、ぜひ色々と教えてください。

アクシス 末永雄大(すべらない転職エージェント) (@yuutasue0501) | Twitter

アクシス株式会社代表取締役兼キャリアコンサルタント

青山学院大学法学部卒。新卒でリクルートキャリア(旧リクルートエージェント)入社。 リクルーティングアドバイザーとして様々な業界・企業の採用支援に携わる。東京市場開発部・京都支社にて事業部MVP/西日本エリアマーケットMVP等6回受賞。その後サイバーエージェントにてアカウントプランナーとして最大手クライアントを担当し、 インターネットを活用した集客支援を行う。2011年にヘッドハンター・キャリアコンサルタントとして独立。2012年アクシス株式会社を設立。代表取締役に就任。キャリアコンサルタントとして転職支援を行いながら、インターネットビジネスの事業開発や社外での講演活動等、多岐にわたり活躍する。

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